7 / 7
7 魅惑のアイス
しおりを挟む
グリアは昨日わたくしに眼を飛ばし罵声を浴びせてきたのに本日もわたくしの店に参りました。
新作”魅惑のアイス”がお目当てのようです。このアイスを食べると振り向いてほしい相手が近くに来てくれるという不思議なアイスです。お相手との距離を縮めたい方にとっては是非にも手に入れたい商品でしょう。
「魅惑のアイスを頂戴。」
「かしこまりました。」
わたくしは商品をグリアに手渡しました。
「ひとつ注意事項がございます。」
「わかった。言って。」
学習能力はおありのようですわ。
「このアイスには相手の心理を操作する非常に強い成分が入っております。ですので食せるのは一度きりです。二度食べると食したご本人によくない作用が現れることがあります。」
「作用が現れないこともあるの?」
「はい。作用が出るかどうかはご本人の体質によります。確率は半々です。」
「わかったわ。」
グリアはアイスを受け取り神妙な顔で去っていきました。おそらくロバート様に使うつもりのようです。
「ジュリエット。」
ハウエル王太子殿下が店にお見えになりました。
「この前は時間がなくて話せなかったけど今ちょっと時間あるかな。」
「はい。大丈夫でございます。」
今ちょうどお客様が引けていたのでわたくしは殿下にそうお返事いたしました。
「ここもとても繁盛しているね。」
「恐れ入ります。」
「例の案件は承諾してもらえるのかな?」
「吟味して必ずお返事申し上げます。もう少々お待ちくださいませ。」
「君は慎重だね。テート王家相手だと他の者なら二つ返事で即了承するというのに。そういう慎重なところは僕も見習わないといけないな。」
「お恥ずかしい。わたくしなどまだまだですわ。」
わたくしが微笑むと殿下も柔らかく笑みを返されました。そのとき王室の従者が殿下を呼びに参りました。
「ああ、ごめん。取引先から電話だって。ジュリエット、またね。」
殿下は少々ラフなところがございますがそこが令嬢たちにはたまらないようです。
「はい。お待ちしております。」
わたくしが殿下を見送った後グリアが突進するようにまたもやお店に参りました。
「ちょっとどういうことよ!」
グリアがわたくしに食って掛かってきました。
「さっき聞こえたけど、殿下にジュリエットって呼ばれてたわよね!?」
いきなり怒鳴るとは狂犬のようですわね。
「この前も殿下があんたを呼び捨てにしてたわ!私が何度お願いしても呼び捨てにはしてくれなかったのに!!」
あら。
グリアはそんなはしたないことをハウエル殿下相手にお願いしたのかしら?
「それなのになんであんたは呼び捨てなの!?不公平でしょうが!」
わたくしは呆れながら顔を真っ赤にして怒鳴るグリアに答えました。
「個人的事情がございまして。」
「それを教えなさいよ!」
「出来かねます。」
「なんだと!?」
なんだと、などという女性にわたくしは初めてお目にかかりました。
「まあいいわ。魅惑のアイスだけど。ロバート様は簡単に引き止めることができたわ。すごいアイスね。もう一つ買うわ。」
ロバート様を引き止めることができたようですがグリアは無理な要望をわたくしにしてきました。
「食せるのは一度きりだと申し上げました。」
「いいからよこしなさいよ!」
グリアは女盗賊のように私をぎろりと睨みました。とはいえお渡しできないものはできません。お客様のお身体が第一です。
「お渡しできかねます。」
「この強情っ張りが!!」
わたくしが断るとグリアは魅惑のアイスをベンチで食べていた男子生徒からカップを奪い取りました。
「なにすんだよ!?」
男子は目をまんまるにして驚いています。グリアはアイスの代金を男子生徒に投げアイスを頬張りながら走って逃げました。そうまでして魅惑のアイスが欲しかったのでしょうか。
令嬢にアイスを奪われるなど未知の体験をした男子生徒は口をあんぐりとあけたまましばらく呆然となさっておりました。
グリアは大丈夫でしょうか。
二度は食さないようあれほど注意申し上げましたのに……。
新作”魅惑のアイス”がお目当てのようです。このアイスを食べると振り向いてほしい相手が近くに来てくれるという不思議なアイスです。お相手との距離を縮めたい方にとっては是非にも手に入れたい商品でしょう。
「魅惑のアイスを頂戴。」
「かしこまりました。」
わたくしは商品をグリアに手渡しました。
「ひとつ注意事項がございます。」
「わかった。言って。」
学習能力はおありのようですわ。
「このアイスには相手の心理を操作する非常に強い成分が入っております。ですので食せるのは一度きりです。二度食べると食したご本人によくない作用が現れることがあります。」
「作用が現れないこともあるの?」
「はい。作用が出るかどうかはご本人の体質によります。確率は半々です。」
「わかったわ。」
グリアはアイスを受け取り神妙な顔で去っていきました。おそらくロバート様に使うつもりのようです。
「ジュリエット。」
ハウエル王太子殿下が店にお見えになりました。
「この前は時間がなくて話せなかったけど今ちょっと時間あるかな。」
「はい。大丈夫でございます。」
今ちょうどお客様が引けていたのでわたくしは殿下にそうお返事いたしました。
「ここもとても繁盛しているね。」
「恐れ入ります。」
「例の案件は承諾してもらえるのかな?」
「吟味して必ずお返事申し上げます。もう少々お待ちくださいませ。」
「君は慎重だね。テート王家相手だと他の者なら二つ返事で即了承するというのに。そういう慎重なところは僕も見習わないといけないな。」
「お恥ずかしい。わたくしなどまだまだですわ。」
わたくしが微笑むと殿下も柔らかく笑みを返されました。そのとき王室の従者が殿下を呼びに参りました。
「ああ、ごめん。取引先から電話だって。ジュリエット、またね。」
殿下は少々ラフなところがございますがそこが令嬢たちにはたまらないようです。
「はい。お待ちしております。」
わたくしが殿下を見送った後グリアが突進するようにまたもやお店に参りました。
「ちょっとどういうことよ!」
グリアがわたくしに食って掛かってきました。
「さっき聞こえたけど、殿下にジュリエットって呼ばれてたわよね!?」
いきなり怒鳴るとは狂犬のようですわね。
「この前も殿下があんたを呼び捨てにしてたわ!私が何度お願いしても呼び捨てにはしてくれなかったのに!!」
あら。
グリアはそんなはしたないことをハウエル殿下相手にお願いしたのかしら?
「それなのになんであんたは呼び捨てなの!?不公平でしょうが!」
わたくしは呆れながら顔を真っ赤にして怒鳴るグリアに答えました。
「個人的事情がございまして。」
「それを教えなさいよ!」
「出来かねます。」
「なんだと!?」
なんだと、などという女性にわたくしは初めてお目にかかりました。
「まあいいわ。魅惑のアイスだけど。ロバート様は簡単に引き止めることができたわ。すごいアイスね。もう一つ買うわ。」
ロバート様を引き止めることができたようですがグリアは無理な要望をわたくしにしてきました。
「食せるのは一度きりだと申し上げました。」
「いいからよこしなさいよ!」
グリアは女盗賊のように私をぎろりと睨みました。とはいえお渡しできないものはできません。お客様のお身体が第一です。
「お渡しできかねます。」
「この強情っ張りが!!」
わたくしが断るとグリアは魅惑のアイスをベンチで食べていた男子生徒からカップを奪い取りました。
「なにすんだよ!?」
男子は目をまんまるにして驚いています。グリアはアイスの代金を男子生徒に投げアイスを頬張りながら走って逃げました。そうまでして魅惑のアイスが欲しかったのでしょうか。
令嬢にアイスを奪われるなど未知の体験をした男子生徒は口をあんぐりとあけたまましばらく呆然となさっておりました。
グリアは大丈夫でしょうか。
二度は食さないようあれほど注意申し上げましたのに……。
7
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。
いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。
ただし、後のことはどうなっても知りませんよ?
* 他サイトでも投稿
* ショートショートです。あっさり終わります
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
婚約なんてするんじゃなかったが口癖の貴方なんて要りませんわ
神々廻
恋愛
「天使様...?」
初対面の時の婚約者様からは『天使様』などと言われた事もあった
「なんでお前はそんなに可愛げが無いんだろうな。昔のお前は可愛かったのに。そんなに細いから肉付きが悪く、頬も薄い。まぁ、お前が太ったらそれこそ醜すぎるがな。あーあ、婚約なんて結ぶんじゃなかった」
そうですか、なら婚約破棄しましょう。
悪意には悪意で
12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。
私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。
ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。
殿下に婚約破棄されたわたくしに、新しい婚約者を教育してほしい? 良いですよ、全く頑張りませんけれど
kieiku
恋愛
つまり月給制で、アンジュ様が嫌だと言ったらその日はそれで終了。そういうことですよね。楽な仕事だわぁ。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる