許したと思っていたのかしら?──学園に精霊のアイス屋さんを開いた伯爵令嬢

nanahi

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7 魅惑のアイス

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グリアは昨日わたくしに眼を飛ばし罵声を浴びせてきたのに本日もわたくしの店に参りました。

新作”魅惑のアイス”がお目当てのようです。このアイスを食べると振り向いてほしい相手が近くに来てくれるという不思議なアイスです。お相手との距離を縮めたい方にとっては是非にも手に入れたい商品でしょう。

「魅惑のアイスを頂戴。」
「かしこまりました。」

わたくしは商品をグリアに手渡しました。

「ひとつ注意事項がございます。」
「わかった。言って。」

学習能力はおありのようですわ。

「このアイスには相手の心理を操作する非常に強い成分が入っております。ですので食せるのは一度きりです。二度食べると食したご本人によくない作用が現れることがあります。」
「作用が現れないこともあるの?」
「はい。作用が出るかどうかはご本人の体質によります。確率は半々です。」
「わかったわ。」

グリアはアイスを受け取り神妙な顔で去っていきました。おそらくロバート様に使うつもりのようです。




「ジュリエット。」

ハウエル王太子殿下が店にお見えになりました。

「この前は時間がなくて話せなかったけど今ちょっと時間あるかな。」
「はい。大丈夫でございます。」

今ちょうどお客様が引けていたのでわたくしは殿下にそうお返事いたしました。

「ここもとても繁盛しているね。」
「恐れ入ります。」
「例の案件は承諾してもらえるのかな?」
「吟味して必ずお返事申し上げます。もう少々お待ちくださいませ。」
「君は慎重だね。テート王家相手だと他の者なら二つ返事で即了承するというのに。そういう慎重なところは僕も見習わないといけないな。」
「お恥ずかしい。わたくしなどまだまだですわ。」

わたくしが微笑むと殿下も柔らかく笑みを返されました。そのとき王室の従者が殿下を呼びに参りました。

「ああ、ごめん。取引先から電話だって。ジュリエット、またね。」

殿下は少々ラフなところがございますがそこが令嬢たちにはたまらないようです。

「はい。お待ちしております。」


わたくしが殿下を見送った後グリアが突進するようにまたもやお店に参りました。

「ちょっとどういうことよ!」

グリアがわたくしに食って掛かってきました。

「さっき聞こえたけど、殿下にジュリエットって呼ばれてたわよね!?」

いきなり怒鳴るとは狂犬のようですわね。

「この前も殿下があんたを呼び捨てにしてたわ!私が何度お願いしても呼び捨てにはしてくれなかったのに!!」

あら。
グリアはそんなはしたないことをハウエル殿下相手にお願いしたのかしら?

「それなのになんであんたは呼び捨てなの!?不公平でしょうが!」

わたくしは呆れながら顔を真っ赤にして怒鳴るグリアに答えました。

「個人的事情がございまして。」
「それを教えなさいよ!」
「出来かねます。」
「なんだと!?」

なんだと、などという女性にわたくしは初めてお目にかかりました。

「まあいいわ。魅惑のアイスだけど。ロバート様は簡単に引き止めることができたわ。すごいアイスね。もう一つ買うわ。」

ロバート様を引き止めることができたようですがグリアは無理な要望をわたくしにしてきました。

「食せるのは一度きりだと申し上げました。」
「いいからよこしなさいよ!」

グリアは女盗賊のように私をぎろりと睨みました。とはいえお渡しできないものはできません。お客様のお身体が第一です。

「お渡しできかねます。」
「この強情っ張りが!!」

わたくしが断るとグリアは魅惑のアイスをベンチで食べていた男子生徒からカップを奪い取りました。

「なにすんだよ!?」

男子は目をまんまるにして驚いています。グリアはアイスの代金を男子生徒に投げアイスを頬張りながら走って逃げました。そうまでして魅惑のアイスが欲しかったのでしょうか。

令嬢にアイスを奪われるなど未知の体験をした男子生徒は口をあんぐりとあけたまましばらく呆然となさっておりました。

グリアは大丈夫でしょうか。
二度は食さないようあれほど注意申し上げましたのに……。



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