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20 お父様
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私は本日、王都郊外にある入院病棟に来ておりました。
「お父様、今日のお加減はいかがですか?」
特別室の扉を開け中に入り、私は父ハプナ伯爵に声をかけました。世話係のメイドが部屋の外に出ました。私が来るといつも気を遣って席を外してくれるのです。
「ああ。最近は随分いいんだよ。忙しいのに来てくれてありがとう。」
ベッドから半身を起こして新聞を読んでいた父が白髪混じりの髭で柔らかく微笑みました。
お父様……。
ごめんなさい。
私は父の顔を見るたびに心の中で謝っています。
わたくしがロバート様とあんなことになってしまったから……。
父は一年前の私の婚約破棄と退学騒動で心痛のあまり体を壊し闘病生活をしております。悪い評判が一気に貴族界に広まり、それまで真面目で悪評など一つもなかった父は途端に白い目で見られるようになってしまいました。
私は幼い頃に母を亡くしました。父は寂しい思いをさせまいと仕事の合間を縫ってよく私の遊び相手になってくれました。
心根の優しい父だからこそ、やっと娘が掴んだ幸せが無惨に壊された時、とうとう体が悲鳴をあげてしまったのです。
父は私が起業して以来、いつも応援をしてくれています。時々開発中のアイスを味見してもらうと「美味しい。こんなに美味しいアイスは食べたことがない。」といつも褒めてくれるのです。
お父様。
わたくしはきっといつか幸せになってみせます。
どうかお元気になって。
あの頃のように一緒に評判のレストランに行ったり、デパートでお買い物をしたり、リビングで一緒に紅茶を飲みましょう。
お父様と面会している間は、日頃の激務の疲れが癒される気がいたします。
廊下で待っている秘書のユンは私がお父様のお世話をしている姿を見ると、いつも目に涙を浮かべます。三十代のしっかり者のユンは普段は滅多に表情を変えないクールな男性なのに、意外と気持ちに敏感で繊細な心を持っているようです。
「ジュリエット。さっき急な知らせが入ったんだが。」
「何でしょう。」
「ロバートのおばあ様であるアグネス様が亡くなられたそうだ。」
「え!」
私はショックで口元を押さえました。
「アグネスおばあ様が──……。」
「葬儀は明日だそうだ。行ってあげてくれないか。」
「でもわたくしは……。」
アグネスおばあ様は私にとってかけがえのない存在でした。ですが私は言い淀みました。シュタット家に婚約破棄を言い渡された身です。葬儀に行く資格などあるのか……。
「今までお前に言っていなかったことがある。」
迷っている私にお父様が神妙な面持ちで話を切り出しました。声音が変わったので私は何事かとお父様の言葉を待ちました。
「実はロバートはお前が退学して半年後くらいから私に時々手紙をくれていたんだ。」
「手紙を!?ロバート様が!??」
私は仰天しました。
「内容は謝罪だ。こんな形での婚約破棄になってしまい、私が体調を崩したのも自分のせいではないかと何度も悔やんでいた。お前のことも気にかけていた。しかし一旦破棄してしまった手前、面と向かって謝罪に来ることも憚られていたようだ。」
「そんなことが……。」
私ははじめて店に来た時ロバート様が見せたバツの悪そうな顔を思い出しました。
「だから行きづらいだろうが、私の分も含めてアグネス様にお別れを言ってきてほしいのだ。」
「……そこまでおっしゃるのなら承知しました、お父様。」
正直気まずいけれど……。
私は次の日、葬儀が行われている教会へと向かいました。
「お父様、今日のお加減はいかがですか?」
特別室の扉を開け中に入り、私は父ハプナ伯爵に声をかけました。世話係のメイドが部屋の外に出ました。私が来るといつも気を遣って席を外してくれるのです。
「ああ。最近は随分いいんだよ。忙しいのに来てくれてありがとう。」
ベッドから半身を起こして新聞を読んでいた父が白髪混じりの髭で柔らかく微笑みました。
お父様……。
ごめんなさい。
私は父の顔を見るたびに心の中で謝っています。
わたくしがロバート様とあんなことになってしまったから……。
父は一年前の私の婚約破棄と退学騒動で心痛のあまり体を壊し闘病生活をしております。悪い評判が一気に貴族界に広まり、それまで真面目で悪評など一つもなかった父は途端に白い目で見られるようになってしまいました。
私は幼い頃に母を亡くしました。父は寂しい思いをさせまいと仕事の合間を縫ってよく私の遊び相手になってくれました。
心根の優しい父だからこそ、やっと娘が掴んだ幸せが無惨に壊された時、とうとう体が悲鳴をあげてしまったのです。
父は私が起業して以来、いつも応援をしてくれています。時々開発中のアイスを味見してもらうと「美味しい。こんなに美味しいアイスは食べたことがない。」といつも褒めてくれるのです。
お父様。
わたくしはきっといつか幸せになってみせます。
どうかお元気になって。
あの頃のように一緒に評判のレストランに行ったり、デパートでお買い物をしたり、リビングで一緒に紅茶を飲みましょう。
お父様と面会している間は、日頃の激務の疲れが癒される気がいたします。
廊下で待っている秘書のユンは私がお父様のお世話をしている姿を見ると、いつも目に涙を浮かべます。三十代のしっかり者のユンは普段は滅多に表情を変えないクールな男性なのに、意外と気持ちに敏感で繊細な心を持っているようです。
「ジュリエット。さっき急な知らせが入ったんだが。」
「何でしょう。」
「ロバートのおばあ様であるアグネス様が亡くなられたそうだ。」
「え!」
私はショックで口元を押さえました。
「アグネスおばあ様が──……。」
「葬儀は明日だそうだ。行ってあげてくれないか。」
「でもわたくしは……。」
アグネスおばあ様は私にとってかけがえのない存在でした。ですが私は言い淀みました。シュタット家に婚約破棄を言い渡された身です。葬儀に行く資格などあるのか……。
「今までお前に言っていなかったことがある。」
迷っている私にお父様が神妙な面持ちで話を切り出しました。声音が変わったので私は何事かとお父様の言葉を待ちました。
「実はロバートはお前が退学して半年後くらいから私に時々手紙をくれていたんだ。」
「手紙を!?ロバート様が!??」
私は仰天しました。
「内容は謝罪だ。こんな形での婚約破棄になってしまい、私が体調を崩したのも自分のせいではないかと何度も悔やんでいた。お前のことも気にかけていた。しかし一旦破棄してしまった手前、面と向かって謝罪に来ることも憚られていたようだ。」
「そんなことが……。」
私ははじめて店に来た時ロバート様が見せたバツの悪そうな顔を思い出しました。
「だから行きづらいだろうが、私の分も含めてアグネス様にお別れを言ってきてほしいのだ。」
「……そこまでおっしゃるのなら承知しました、お父様。」
正直気まずいけれど……。
私は次の日、葬儀が行われている教会へと向かいました。
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