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21 葬儀
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私は喪服に身を包み教会の入り口に立ちました。
「ジュリエット!」
私に気づいたロバート様が早足でそばに来てくださいました。
「ありがとう。来てくれたんだね。」
ロバート様は目が真っ赤になっておられます。きっと一晩中泣いたのでしょう。
私も同様に赤い目をしておりました。父に知らせを聞いてからずっと涙が止まらなかったのです。
「今から告別の時間だから、顔を見てやってほしい。」
ロバート様に促され私は棺の前に進んでいきました。途中、長椅子に座っている弔問客たちが私に気づいてしきりに囁きあっております。
私はシュタット家が婚約破棄した相手。そんな令嬢が姿を見せ驚いているのでしょう。
それでも私は構いませんでした。それほどアグネスおばあ様は私にとって大切な方でした。
いざ棺の前に立つと足が震えました。アグネスおばあ様は白百合に囲まれてあの頃と変わらない優しいお顔で微笑み、まるで眠っているようでした。
「ああっ……」
私は棺の縁に取りすがり泣きました。私はかつてアグネスおばあ様に心を救われたことを思い出していました。
アグネスおばあ様は直接の私の祖母ではありません。ロバート様のお父様と私の父が交友関係があったため、ロバート様のお屋敷の離れに住んでいらしたアグネス様に私は懐いておりました。
小さい頃から私はロバート様に淡い憧れを抱いていましたが、アグネス様との遊びに夢中でロバート様より多くの時間をアグネス様と過ごしておりました。母を幼くして失った私にアグネス様は「おばあ様と呼んでいいのよ。」と親しく呼ぶことを許してくださり、母親のように優しく接してくださいました。
編み物を教えてくれたり、一緒にサブレを作ったり、聖人の物語や御伽噺を読んでくださったり。チェスも教えてくださいました。アグネスおばあ様と過ごす時間はとても楽しく私は毎回わくわくしながらおばあ様のお部屋に通ったことを覚えています。
母がなく寂しかった私の心を癒してくださった。いつも優しく微笑んで私を出迎えてくださった。
アグネスおばあ様ごめんなさい。
あんなことになってしまい会いに来れなくてごめんなさい。
目の前のアグネスおばあ様の死が私の胸に現実のものとなって悲しく突き刺さり、とめどない涙となって流れました。
ロバート様のご両親が私に気付き、はじめは目を見張っておられました。ですが私の泣く姿を見て何も咎めてくることはありませんでした。ロバート様は棺に取りすがって嗚咽し動けない私の肩をそっと支え、教会の外に連れ出してくださいました。
「大丈夫かい?」
教会そばのベンチに座りひとしきり泣いた後、ロバート様が私を心配そうに覗き込みました。
「ええ。申し訳ありません。取り乱してしまって。」
「嬉しかった。来てくれて。大好きな祖母だったから。」
「わたくしもです。アグネスおばあ様が大好きでした。」
私とロバート様は互いの顔を見合いました。赤く腫れぼったいロバート様の瞳が潤んだまま私を見つめています。
透き通った紅茶色の瞳。
アグネスおばあ様と同じ美しい瞳。
こうしていると婚約破棄のことなど本当にあったのだろうかと錯覚してしまうようでした。
だめよ。
もう忘れた方よ。
私は一瞬ロバート様に惹かれそうになり、慌てて自分を引き留めました。
こんなではいけないわ。
表向きは破棄されたままなのよ。
私は何度も自分に言い聞かせました。
「そろそろ帰りますわ。付き添ってくださってありがとうございました、ロバート様。」
急いで会釈をして背中を向けた時、大きな腕が後ろから私を包みました。
「行かないで。もう少しこのままでいて。」
「っ!」
ロバート様は泣いていました。
アグネスおばあ様が亡くなった悲しみか、それとも私への後悔か。それはわかりませんでしたが、私の髪に顔を埋め嗚咽しておりました。
私はそんな深く傷ついているロバート様をどうしても突き放すことができず、ロバート様が手を離すまでそのままでいました。
そんな私たちを弔問に訪れたハウエル殿下が目撃されていました。
「ジュリエット!」
私に気づいたロバート様が早足でそばに来てくださいました。
「ありがとう。来てくれたんだね。」
ロバート様は目が真っ赤になっておられます。きっと一晩中泣いたのでしょう。
私も同様に赤い目をしておりました。父に知らせを聞いてからずっと涙が止まらなかったのです。
「今から告別の時間だから、顔を見てやってほしい。」
ロバート様に促され私は棺の前に進んでいきました。途中、長椅子に座っている弔問客たちが私に気づいてしきりに囁きあっております。
私はシュタット家が婚約破棄した相手。そんな令嬢が姿を見せ驚いているのでしょう。
それでも私は構いませんでした。それほどアグネスおばあ様は私にとって大切な方でした。
いざ棺の前に立つと足が震えました。アグネスおばあ様は白百合に囲まれてあの頃と変わらない優しいお顔で微笑み、まるで眠っているようでした。
「ああっ……」
私は棺の縁に取りすがり泣きました。私はかつてアグネスおばあ様に心を救われたことを思い出していました。
アグネスおばあ様は直接の私の祖母ではありません。ロバート様のお父様と私の父が交友関係があったため、ロバート様のお屋敷の離れに住んでいらしたアグネス様に私は懐いておりました。
小さい頃から私はロバート様に淡い憧れを抱いていましたが、アグネス様との遊びに夢中でロバート様より多くの時間をアグネス様と過ごしておりました。母を幼くして失った私にアグネス様は「おばあ様と呼んでいいのよ。」と親しく呼ぶことを許してくださり、母親のように優しく接してくださいました。
編み物を教えてくれたり、一緒にサブレを作ったり、聖人の物語や御伽噺を読んでくださったり。チェスも教えてくださいました。アグネスおばあ様と過ごす時間はとても楽しく私は毎回わくわくしながらおばあ様のお部屋に通ったことを覚えています。
母がなく寂しかった私の心を癒してくださった。いつも優しく微笑んで私を出迎えてくださった。
アグネスおばあ様ごめんなさい。
あんなことになってしまい会いに来れなくてごめんなさい。
目の前のアグネスおばあ様の死が私の胸に現実のものとなって悲しく突き刺さり、とめどない涙となって流れました。
ロバート様のご両親が私に気付き、はじめは目を見張っておられました。ですが私の泣く姿を見て何も咎めてくることはありませんでした。ロバート様は棺に取りすがって嗚咽し動けない私の肩をそっと支え、教会の外に連れ出してくださいました。
「大丈夫かい?」
教会そばのベンチに座りひとしきり泣いた後、ロバート様が私を心配そうに覗き込みました。
「ええ。申し訳ありません。取り乱してしまって。」
「嬉しかった。来てくれて。大好きな祖母だったから。」
「わたくしもです。アグネスおばあ様が大好きでした。」
私とロバート様は互いの顔を見合いました。赤く腫れぼったいロバート様の瞳が潤んだまま私を見つめています。
透き通った紅茶色の瞳。
アグネスおばあ様と同じ美しい瞳。
こうしていると婚約破棄のことなど本当にあったのだろうかと錯覚してしまうようでした。
だめよ。
もう忘れた方よ。
私は一瞬ロバート様に惹かれそうになり、慌てて自分を引き留めました。
こんなではいけないわ。
表向きは破棄されたままなのよ。
私は何度も自分に言い聞かせました。
「そろそろ帰りますわ。付き添ってくださってありがとうございました、ロバート様。」
急いで会釈をして背中を向けた時、大きな腕が後ろから私を包みました。
「行かないで。もう少しこのままでいて。」
「っ!」
ロバート様は泣いていました。
アグネスおばあ様が亡くなった悲しみか、それとも私への後悔か。それはわかりませんでしたが、私の髪に顔を埋め嗚咽しておりました。
私はそんな深く傷ついているロバート様をどうしても突き放すことができず、ロバート様が手を離すまでそのままでいました。
そんな私たちを弔問に訪れたハウエル殿下が目撃されていました。
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