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22 車にて
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「ちょっといいかな。」
店で接客中の私にハウエル殿下が声をかけてきました。
「申し訳ございませんが、最後尾にお並びいただけますか?」
今は行列ができており、お話しする暇がございません。すると殿下は私の手からディッシャーを取り上げ、カップにアイスをすくって最前列のお客様に渡しました。
「はいどうぞ。」
「あ、ああ。どうも、です……。」
殿下からアイスを受け取った男子生徒は戸惑いながら礼を言いました。
「ごめん、みんな。今日は店仕舞いなんだ。」
「ええ!?」
驚く私をよそに殿下はショーケースのカーテンを閉めてしまいました。
「あの、まだお客さまが──」
私がオロオロしていると、殿下は私の手を握りさっさと歩き出してしまいました。
行列のお客様たちが何事かとこちらを見てザワザワしています。
「残りのアイスは全て僕が買い取る。」
「全て!?」
殿下は一体、どういうおつもりなのか。
店を振り返ると、殿下の従者がお客様たちを帰し店仕舞いを始めていました。
「車を。」
「はっ。」
どこから現れたのか別の従者が殿下に命令を下され、風のように玄関の向こうに小走りで消えていきました。
玄関の迎車場に王室の御用車が停まっており、従者がタイミングよく扉を開きました。私は促されるまま車に乗り込みました。
車が走り出しました。
「あの、どちらに?」
私の問いには答えず、殿下は運転席と後部座席の間にあるカーテンを閉め、私にずいと近寄りました。
「もう我慢できない。僕とキスをするか、婚約を承諾するか、どちらか選んで。」
「な──!?」
究極の選択、というか、どちらもすぐに選べるものではありません。
「あの、え、えええ?」
顔を赤くして戸惑う私に、殿下はさらに顔を近づけました。
「あっ……」
思わず目をつむって構えてしまった私に殿下は「クス」と笑いました。
私がゆっくりと目を開けると殿下は微笑みながら、
「ごめん。ちょっと試してしまった。」
と申し訳なさそうに言いました。
「お戯れを。」
ほっと息を吐く私を見て殿下は真剣な目になりこう言いました。
「強引にはしないよ。本当はしたいけど。」
「えっ」
私は殿下のやんちゃなお言葉に目を丸くしました。
「それにさっき迷ってたよね。すぐに拒絶しなかったよね。まだ僕にも脈はあるってことだよね。ロバートめ。あいつがいなければ僕の一人勝ちだったのに。」
「~~~~。」
どう返答すればよいのかわかりません。赤面しながらうつむく私に殿下はさらに言葉をかけました。
「昨日見たんだ。教会で君とロバートが一緒にいるところを。」
ずきん。
なぜでしょう。後ろめたさが私の胸を打ちました。
軽蔑されたかもしれない、と瞬時に思い、私は体をこわばらせました。
「怒って……らっしゃるのですか?」
事情はあったけれど、側から見れば元婚約者から抱きしめられている光景は目を疑うものがあったはずです。
「お怒りはごもっともですわ……。」
「別に怒ってはいないよ。ちょっとびっくりはしたけど。もしかしてロバートは君の初恋の人だったんじゃない?」
「どうして──」
私は見事言い当てられて驚いて殿下を見ました。
「何となくだけどね。ジュリエットがロバートを突き放せないのは恋をしていた相手だからかなって。勘だよ。」
「それは、その──」
「いいよ。答えなくて。困らせるつもりじゃなかったんだ。」
「申し訳、ございません。」
私は罪悪感にさいなまれ殿下に謝罪しました。
「謝らなくていいんだよ。実際ロバートは令嬢が一度は惚れるような令息だ。血筋がそうさせるのかな。あの紅茶色の瞳には僕でさえ魅入られるようなときがある。君は深く傷ついて、でもロバートを心の底では完全に忘れられていないんだと僕は思うんだ。」
そうなのでしょうか。殿下は私の深層心理まで見抜いておいでなのでしょうか。
私が最後の最後でロバート様を突き放せないのは、殿下がおっしゃるとおりなのでしょうか。
「不甲斐ないですわ……ふられていながらわたくしは……。」
「人は簡単には割り切れないものだよ。僕は待つよ。君が僕とのキスと婚約を即答してくれる日までね。」
そう言って殿下はウィンクをしました。
「ハウエル殿下……。」
強引さと心の広さを併せ持つ殿下に私は惹かれ始めていました。
店で接客中の私にハウエル殿下が声をかけてきました。
「申し訳ございませんが、最後尾にお並びいただけますか?」
今は行列ができており、お話しする暇がございません。すると殿下は私の手からディッシャーを取り上げ、カップにアイスをすくって最前列のお客様に渡しました。
「はいどうぞ。」
「あ、ああ。どうも、です……。」
殿下からアイスを受け取った男子生徒は戸惑いながら礼を言いました。
「ごめん、みんな。今日は店仕舞いなんだ。」
「ええ!?」
驚く私をよそに殿下はショーケースのカーテンを閉めてしまいました。
「あの、まだお客さまが──」
私がオロオロしていると、殿下は私の手を握りさっさと歩き出してしまいました。
行列のお客様たちが何事かとこちらを見てザワザワしています。
「残りのアイスは全て僕が買い取る。」
「全て!?」
殿下は一体、どういうおつもりなのか。
店を振り返ると、殿下の従者がお客様たちを帰し店仕舞いを始めていました。
「車を。」
「はっ。」
どこから現れたのか別の従者が殿下に命令を下され、風のように玄関の向こうに小走りで消えていきました。
玄関の迎車場に王室の御用車が停まっており、従者がタイミングよく扉を開きました。私は促されるまま車に乗り込みました。
車が走り出しました。
「あの、どちらに?」
私の問いには答えず、殿下は運転席と後部座席の間にあるカーテンを閉め、私にずいと近寄りました。
「もう我慢できない。僕とキスをするか、婚約を承諾するか、どちらか選んで。」
「な──!?」
究極の選択、というか、どちらもすぐに選べるものではありません。
「あの、え、えええ?」
顔を赤くして戸惑う私に、殿下はさらに顔を近づけました。
「あっ……」
思わず目をつむって構えてしまった私に殿下は「クス」と笑いました。
私がゆっくりと目を開けると殿下は微笑みながら、
「ごめん。ちょっと試してしまった。」
と申し訳なさそうに言いました。
「お戯れを。」
ほっと息を吐く私を見て殿下は真剣な目になりこう言いました。
「強引にはしないよ。本当はしたいけど。」
「えっ」
私は殿下のやんちゃなお言葉に目を丸くしました。
「それにさっき迷ってたよね。すぐに拒絶しなかったよね。まだ僕にも脈はあるってことだよね。ロバートめ。あいつがいなければ僕の一人勝ちだったのに。」
「~~~~。」
どう返答すればよいのかわかりません。赤面しながらうつむく私に殿下はさらに言葉をかけました。
「昨日見たんだ。教会で君とロバートが一緒にいるところを。」
ずきん。
なぜでしょう。後ろめたさが私の胸を打ちました。
軽蔑されたかもしれない、と瞬時に思い、私は体をこわばらせました。
「怒って……らっしゃるのですか?」
事情はあったけれど、側から見れば元婚約者から抱きしめられている光景は目を疑うものがあったはずです。
「お怒りはごもっともですわ……。」
「別に怒ってはいないよ。ちょっとびっくりはしたけど。もしかしてロバートは君の初恋の人だったんじゃない?」
「どうして──」
私は見事言い当てられて驚いて殿下を見ました。
「何となくだけどね。ジュリエットがロバートを突き放せないのは恋をしていた相手だからかなって。勘だよ。」
「それは、その──」
「いいよ。答えなくて。困らせるつもりじゃなかったんだ。」
「申し訳、ございません。」
私は罪悪感にさいなまれ殿下に謝罪しました。
「謝らなくていいんだよ。実際ロバートは令嬢が一度は惚れるような令息だ。血筋がそうさせるのかな。あの紅茶色の瞳には僕でさえ魅入られるようなときがある。君は深く傷ついて、でもロバートを心の底では完全に忘れられていないんだと僕は思うんだ。」
そうなのでしょうか。殿下は私の深層心理まで見抜いておいでなのでしょうか。
私が最後の最後でロバート様を突き放せないのは、殿下がおっしゃるとおりなのでしょうか。
「不甲斐ないですわ……ふられていながらわたくしは……。」
「人は簡単には割り切れないものだよ。僕は待つよ。君が僕とのキスと婚約を即答してくれる日までね。」
そう言って殿下はウィンクをしました。
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