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4 わずかに戻った記憶
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アミアンは朝ベッドで目を覚ますと侍女たちに甲斐甲斐しく世話をされ、あれよあれよという間に公女に仕立てられていく。
「まあ!お似合いですわ、シルヴィア様」
「瞳のブルーと合ってとても素敵です」
アミアンはシルヴィアが好んで着ていたというブルー系のドレスをよく着せられた。鏡の前に立つと、なるほど肖像画の女の子によく似ていた。こうしていると自分が本当にシルヴィアなのではないかと錯覚しそうになる。
頭の傷はだいぶん良くなりもう傷まなくなっていた。
髪で隠れる場所だったので良かったわ。
アミアンは侍女に整えてもらったふんわりカールをなびかせ、階下の食堂へと向かった。
別荘の屋敷は広かった。年代は感じるが手入れが行き届き、調度品や室内装飾は上質で裕福であることはすぐにわかった。食堂も広く大人数での食事でも困らなそうだった。
だが今は大公の子どもたちは既に巣立ち、食卓に座るのは年老いた大公とアミアンだけだった。
「おはよう。シルヴィア」
「おはようございます。お父様」
ハンナと侍女たちが食事を運びテーブルに並べている。
「今朝はお前の好きなスコーンだ。料理長に3種類作らせた」
「まあ、そんなに?」
アミアンはふふ、と可憐に笑った。
「ココアと、アールグレイと……これは何かしら?」
スコーンの種類を当てようとしたが黄色い最後の一つが分からなかった。
「かぼちゃだよ」
大公が愉快そうに答えた。
「かぼちゃ?私の好きな野菜だわ」
偶然にもかぼちゃはアミアンの好物だった。
「お前の好物だから作らせてみた。食べてみなさい」
アミアンはかぼちゃのスコーンを口に運んだ。かぼちゃの甘みとスコーンの香ばしさが調和してとてもおいしかった。
「おいしい……!お父様、ありがとうございます」
嬉しそうに食べるアミアンを見て大公は何度も頷き微笑んだ。
ハンナや侍女たちは驚きを持ってふたりを見守っていた。アミアンと大公のやり取りがあまりに自然でアミアンの演技とは思えなかった。
やっぱり神様が大公様にこの子をお与えになったのよ……!
ハンナたちは顔色よくアミアンと会話している大公に目頭を熱くした。
こうしてアミアンは大公家で大切にされながら過ごし、一年が過ぎていった。
また冬が来た。
アミアンは何となく冬が苦手だった。殺されかけた記憶が深層心理に眠っているせいかもしれなかったが、この時まだアミアンは記憶が全く戻っていなかった。
助けられてから一年も経ってしまった。
一向に自分のことを思い出せないことにアミアンは少し焦りを感じていた。このまま大公家でお世話になるのもいいかもしれないが自分ではない誰かを演じ続けたことで本当の自分を求め始めていた。
あの湖に行ってみよう。
何かわかるかもしれない。
「サム、サム」
「はい、お嬢様」
「ハンナは出かけているからサムが連れてってくれない?気分転換に湖を眺めに行きたいの」
「かしこまりました」
サムは馬車を準備しアミアンを連れて湖にやって来た。アミアンは馬車から降り湖の縁に立った。
「……っ」
恐ろしかった。所々に氷が張った濃い青の水面がこちらに迫ってくる気がして怖くなった。
アミアンは思わず数歩後ろに下がった。踏まれてパキと枯れ枝が鳴った。
ビリ!
「痛っ」
頭に唐突に電流のような痛みが走った。
直後アミアンの脳裏に、ウィルと父親の顔が浮かび上がった。
「……ウィル……お父様……!!」
アミアンはよろめきながら馬車に戻り座席に駆けこんだ。
「サム、あっちの道をまっすぐに行ってもらえる!?」
「お嬢様、どうされましたか?」
「いいから早くっ!!」
「あ、は、はい!」
白い顔で息を切らしているアミアンを怪訝に思ったサムだったがアミアンの勢いに押され言われるまま馬車を走らせた。
サムが来たことのない隣の領地だった。
「止まって!!」
しばらく馬車で走った後、ある屋敷のそばでアミアンが声を上げた。
「ここで待ってて」
そう言うと用事も告げずアミアンは小走りで屋敷の方に行ってしまった。
「一体どうされたのだ。お嬢様は」
サムは単純な男だったのでまさかアミアンが昔の自分を思い出していることになど、考えが及んでいなかった。
「まあ!お似合いですわ、シルヴィア様」
「瞳のブルーと合ってとても素敵です」
アミアンはシルヴィアが好んで着ていたというブルー系のドレスをよく着せられた。鏡の前に立つと、なるほど肖像画の女の子によく似ていた。こうしていると自分が本当にシルヴィアなのではないかと錯覚しそうになる。
頭の傷はだいぶん良くなりもう傷まなくなっていた。
髪で隠れる場所だったので良かったわ。
アミアンは侍女に整えてもらったふんわりカールをなびかせ、階下の食堂へと向かった。
別荘の屋敷は広かった。年代は感じるが手入れが行き届き、調度品や室内装飾は上質で裕福であることはすぐにわかった。食堂も広く大人数での食事でも困らなそうだった。
だが今は大公の子どもたちは既に巣立ち、食卓に座るのは年老いた大公とアミアンだけだった。
「おはよう。シルヴィア」
「おはようございます。お父様」
ハンナと侍女たちが食事を運びテーブルに並べている。
「今朝はお前の好きなスコーンだ。料理長に3種類作らせた」
「まあ、そんなに?」
アミアンはふふ、と可憐に笑った。
「ココアと、アールグレイと……これは何かしら?」
スコーンの種類を当てようとしたが黄色い最後の一つが分からなかった。
「かぼちゃだよ」
大公が愉快そうに答えた。
「かぼちゃ?私の好きな野菜だわ」
偶然にもかぼちゃはアミアンの好物だった。
「お前の好物だから作らせてみた。食べてみなさい」
アミアンはかぼちゃのスコーンを口に運んだ。かぼちゃの甘みとスコーンの香ばしさが調和してとてもおいしかった。
「おいしい……!お父様、ありがとうございます」
嬉しそうに食べるアミアンを見て大公は何度も頷き微笑んだ。
ハンナや侍女たちは驚きを持ってふたりを見守っていた。アミアンと大公のやり取りがあまりに自然でアミアンの演技とは思えなかった。
やっぱり神様が大公様にこの子をお与えになったのよ……!
ハンナたちは顔色よくアミアンと会話している大公に目頭を熱くした。
こうしてアミアンは大公家で大切にされながら過ごし、一年が過ぎていった。
また冬が来た。
アミアンは何となく冬が苦手だった。殺されかけた記憶が深層心理に眠っているせいかもしれなかったが、この時まだアミアンは記憶が全く戻っていなかった。
助けられてから一年も経ってしまった。
一向に自分のことを思い出せないことにアミアンは少し焦りを感じていた。このまま大公家でお世話になるのもいいかもしれないが自分ではない誰かを演じ続けたことで本当の自分を求め始めていた。
あの湖に行ってみよう。
何かわかるかもしれない。
「サム、サム」
「はい、お嬢様」
「ハンナは出かけているからサムが連れてってくれない?気分転換に湖を眺めに行きたいの」
「かしこまりました」
サムは馬車を準備しアミアンを連れて湖にやって来た。アミアンは馬車から降り湖の縁に立った。
「……っ」
恐ろしかった。所々に氷が張った濃い青の水面がこちらに迫ってくる気がして怖くなった。
アミアンは思わず数歩後ろに下がった。踏まれてパキと枯れ枝が鳴った。
ビリ!
「痛っ」
頭に唐突に電流のような痛みが走った。
直後アミアンの脳裏に、ウィルと父親の顔が浮かび上がった。
「……ウィル……お父様……!!」
アミアンはよろめきながら馬車に戻り座席に駆けこんだ。
「サム、あっちの道をまっすぐに行ってもらえる!?」
「お嬢様、どうされましたか?」
「いいから早くっ!!」
「あ、は、はい!」
白い顔で息を切らしているアミアンを怪訝に思ったサムだったがアミアンの勢いに押され言われるまま馬車を走らせた。
サムが来たことのない隣の領地だった。
「止まって!!」
しばらく馬車で走った後、ある屋敷のそばでアミアンが声を上げた。
「ここで待ってて」
そう言うと用事も告げずアミアンは小走りで屋敷の方に行ってしまった。
「一体どうされたのだ。お嬢様は」
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