裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます

nanahi

文字の大きさ
4 / 6

4 わずかに戻った記憶

しおりを挟む
アミアンは朝ベッドで目を覚ますと侍女たちに甲斐甲斐しく世話をされ、あれよあれよという間に公女に仕立てられていく。

「まあ!お似合いですわ、シルヴィア様」
「瞳のブルーと合ってとても素敵です」

アミアンはシルヴィアが好んで着ていたというブルー系のドレスをよく着せられた。鏡の前に立つと、なるほど肖像画の女の子によく似ていた。こうしていると自分が本当にシルヴィアなのではないかと錯覚しそうになる。

頭の傷はだいぶん良くなりもう傷まなくなっていた。

髪で隠れる場所だったので良かったわ。

アミアンは侍女に整えてもらったふんわりカールをなびかせ、階下の食堂へと向かった。

別荘の屋敷は広かった。年代は感じるが手入れが行き届き、調度品や室内装飾は上質で裕福であることはすぐにわかった。食堂も広く大人数での食事でも困らなそうだった。

だが今は大公の子どもたちは既に巣立ち、食卓に座るのは年老いた大公とアミアンだけだった。

「おはよう。シルヴィア」
「おはようございます。お父様」

ハンナと侍女たちが食事を運びテーブルに並べている。

「今朝はお前の好きなスコーンだ。料理長に3種類作らせた」
「まあ、そんなに?」

アミアンはふふ、と可憐に笑った。

「ココアと、アールグレイと……これは何かしら?」

スコーンの種類を当てようとしたが黄色い最後の一つが分からなかった。

「かぼちゃだよ」

大公が愉快そうに答えた。

「かぼちゃ?私の好きな野菜だわ」

偶然にもかぼちゃはアミアンの好物だった。

「お前の好物だから作らせてみた。食べてみなさい」

アミアンはかぼちゃのスコーンを口に運んだ。かぼちゃの甘みとスコーンの香ばしさが調和してとてもおいしかった。

「おいしい……!お父様、ありがとうございます」

嬉しそうに食べるアミアンを見て大公は何度も頷き微笑んだ。

ハンナや侍女たちは驚きを持ってふたりを見守っていた。アミアンと大公のやり取りがあまりに自然でアミアンの演技とは思えなかった。

やっぱり神様が大公様にこの子をお与えになったのよ……!

ハンナたちは顔色よくアミアンと会話している大公に目頭を熱くした。

こうしてアミアンは大公家で大切にされながら過ごし、一年が過ぎていった。




また冬が来た。

アミアンは何となく冬が苦手だった。殺されかけた記憶が深層心理に眠っているせいかもしれなかったが、この時まだアミアンは記憶が全く戻っていなかった。

助けられてから一年も経ってしまった。

一向に自分のことを思い出せないことにアミアンは少し焦りを感じていた。このまま大公家でお世話になるのもいいかもしれないが自分ではない誰かを演じ続けたことで本当の自分を求め始めていた。

あの湖に行ってみよう。
何かわかるかもしれない。

「サム、サム」
「はい、お嬢様」
「ハンナは出かけているからサムが連れてってくれない?気分転換に湖を眺めに行きたいの」
「かしこまりました」

サムは馬車を準備しアミアンを連れて湖にやって来た。アミアンは馬車から降り湖の縁に立った。

「……っ」

恐ろしかった。所々に氷が張った濃い青の水面がこちらに迫ってくる気がして怖くなった。

アミアンは思わず数歩後ろに下がった。踏まれてパキと枯れ枝が鳴った。

ビリ!

「痛っ」

頭に唐突に電流のような痛みが走った。

直後アミアンの脳裏に、ウィルと父親の顔が浮かび上がった。

「……ウィル……お父様……!!」

アミアンはよろめきながら馬車に戻り座席に駆けこんだ。

「サム、あっちの道をまっすぐに行ってもらえる!?」
「お嬢様、どうされましたか?」
「いいから早くっ!!」
「あ、は、はい!」

白い顔で息を切らしているアミアンを怪訝に思ったサムだったがアミアンの勢いに押され言われるまま馬車を走らせた。

サムが来たことのない隣の領地だった。

「止まって!!」

しばらく馬車で走った後、ある屋敷のそばでアミアンが声を上げた。

「ここで待ってて」

そう言うと用事も告げずアミアンは小走りで屋敷の方に行ってしまった。

「一体どうされたのだ。お嬢様は」

サムは単純な男だったのでまさかアミアンが昔の自分を思い出していることになど、考えが及んでいなかった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

真実の愛の祝福

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。 だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。 それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。 カクヨム、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

完結 愛される自信を失ったのは私の罪

音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。 それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。 ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

処理中です...