あなたの絶望のカウントダウン

nanahi

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4 厄災

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「大変です!国中で疫病が広がっています!」

葬儀から一夜が明けた日、宰相が王太子に慌てて報告に来た。

「なんだと?何の病だ」
「ペッサ病です」
「ペ、ペッサ病だと!?」

ペッサ病はまだ治療薬がなく、致死率が80%を超える恐ろしい感染症だった。

「まだ王都には病気は入ってきていないのか?」
「そのようです」
「では王都の門を閉め、絶対に外部の人間を入れるな!」
「もし王都内で感染者が発見されたら」
「何とかしろ!」
「は、はっ」

宰相は頭を抱えた。
クラウディアが嫁いできてから、この王国では感染症がぴたりとやんでいた。
宰相は第二王子に相談をもちかけた。

「門を閉めただけで何も救いの手を差し伸べないと、国民の不満が爆発してしまうだろう。王都や貴族たちの食糧庫から支援物資を各地に届けさせよう」
「助かります」

第二王子は的確な指示を出してくれた。

王太子殿下より先にお生まれになっていればどんなによかったか。

宰相は内心そう思わざるを得なかった。




翌朝。
ダイアナと眠っていた王太子が地鳴りのような音に気付き、目を覚ました。

「何の音だ??工事か何かか?」

窓から外をのぞいた王太子は腰を抜かした。

「どうなっている!?こんな大水は見たことがないぞ!」

王都の周りに水が迫っていた。

「雨も降ってなかったのに、どうしていきなり!?私たち、どうなるんですの!?」

ダイアナも怯えている。

「大変です!突然川が増水し、洪水が起こっています!」

宰相がまた駆け込んできた。

「洪水だと!?どこの川だ?」
「アリー川、クリュー川、シュマ川に、えーっと、、、とにかく各地で次々とです!」

離縁から間もないが、王国で厄災が起こり始めていた。
川から溢れた水が一気に王都を囲んだのだ。
濁った水が恐ろしい速度で城を飲み込んでいく。

「水を抜けっ!今すぐにだ!」

王太子がわめいているが、無理な話だ。
これはクラウディアが呪術によって止めてきた川の氾濫が、今一気に王都を襲った結果だった。

「ああ、クラウディア様……」
「またお前はあいつの名前を呼んだな?クビだ、クビ!!」

パニックになって王太子は長年尽くしてきた宰相にクビを言い渡した。



誰もが絶望の真っ只中にいた時、溢れた水をゆく大型船が突如現れた。
クラウディアを迎えにきたジルヴァス王家の船だ。

船は城に横付けされ、クラウディアや第二王子夫妻、宰相や召使いたちが次々と乗り込んでいった。
途中で助けた民衆もたくさん乗せられている。

「わ、私も連れてってくれ!!」
「私も頼みますわっ」

王太子とダイアナが転びそうになりながら、船着場まで走ってきた。

「申し訳ないのですが、それはできません」

クラウディアが視線を落として言った。

「これまでのことは謝るから!私だけでも乗せてくれないか?」

王太子は作り笑いをしながら嘆願した。

「殿下、ひどいですわ!!」
「うるさいっ!男爵令嬢の分際で!」

痴話喧嘩を始めた二人にクラウディアが理由を述べ始めた。

「大変お気の毒なんですけれど、本来ならダイアナさんは2ヶ月前、腐れ病を発症し亡くなる運命でした」
「え」

ダイアナはクラウディアの言葉がとっさに理解できなかった。

「腐れ病ですって!?」
「ダイアナさんには殿下の他にもお相手がいらっしゃいましたよね?表面的なお付き合いではなく、男女の関係の──」
「何だって!?おい、ダイアナ!単に求婚されていたのではなく、体の関係も持っていたのか!?この売女め!!」
「違いますわ!この女は嘘つきです!私を陥れようと嘘をついているのです!殿下に相手にされないからと、とんだ当てつけですわ!!」

ダイアナは内心冷や汗をかきながらも、目に涙をため、悲劇のヒロインを演じた。

「え、そうなのか?クラウディア、お前はダイアナが憎いあまり、陥れようとしているのか!?なんてヤツだっ」

殿下はやはりダイアナを信じるんですのね。

クラウディアは王太子を見つめながら、恐ろしい事実を語りはじめた。

「お相手の一人が腐れ病の感染者でした。逢瀬を重ねるうちにダイアナさんに病が移ってしまったのです。
私の呪力によってダイアナさんが発症するのを押し留めておりました。殿下のお体にさわりますから」
「腐れ病など信じられんな。何にも起こっていないではないか」

王太子はクラウディアの話を信じなかった。
ダイアナは内心ほくそえんだ。

よかった。
浮気がバレなくてすみそうだわ。

「お相手は──そう、そこの侍従です」

クラウディアが遅れてやってきた、王太子とダイアナの後ろにいる一人の青年を指差した。

「!?」

ふたりが振り替えった瞬間、その侍従の皮膚が溶け始め、あっという間に骨だけになってしまった。

「ひーーっ!?!?腐れ病だというのは本当だったのか!??」

とたんに王太子はダイアナから飛び退き、震えている。

「離縁によって呪術が解けてきましたので、ダイアナさんも本来の運命に戻るのです」
「ちょっと、ふざけないでよ!!何とかしなさいよっ!!」

ダイアナはパニくりはじめ、クラウディアに突っかかってきた。

「うわ、うわあああああ」

船の中に乗り込もうとしたダイアナの顔を見て、王太子が叫びまくっている。

「え?」

ダイアナは違和感を感じ、自分の顔にふれた。
すると、ぼろっと皮膚がくずれるように床に落ちた。

「は──?」

船にいた誰もが目を背けた。
ダイアナの皮膚がどんどん黒ずんで崩れていった。
よろめいて倒れたダイアナの体はみるみる溶けていき、とうとうドレスと骨だけになってしまった。

「ぎゃあああああ」

驚愕した王太子は慌てて船に乗り込もうとした。
だが、船のヘリにかけた手が紫色に変色し始めたことに気づいた。

「な、な──!?」
「お気の毒です」

仰天している王太子にクラウディアが呟いた。
時間がさかのぼり、1年前の毒が今になって王太子の体中に回り始めたのだ。

「あなたにとって私を愛することは難しいことでしたか?」

さみしげな目でクラウディアは王太子を見た。
その目で見つめられて、王太子ははじめてクラウディアに会った時のことを思い出していた。

涼やかで清楚で美しい王女だった。
自分のことを尊重し、どんな指示にも嫌な顔ひとつせず従ってくれた、できた妻だった。


私は自分のプライドばかりを優先し、クラウディアの心を踏みにじってきたのか。
自分にはもったいなほどの妻であったのに──


「ク、クラ──」

王太子の目から一筋の涙が流れた。
涙が床に落ちるのと同時に、王太子の体は骨まで砂のように粉々に崩れさってしまった。


「もうすぐこの国は水の底に沈みます。皆さんはジルヴァス王国がお救いするので安心してください」

クラウディアたちが乗った船は王都を飲み込んでいく大水の上をすべるように進み始めた。

「永遠にさようなら。殿下」

クラウディアの最後の呟きのあと、船は遥か彼方へと消えていった。



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