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第8章 生徒会選挙編
第283話「陽芽叶のお見舞い」
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伊衛能病院
守里: こんばんは。
幸村: あら、森崎君。お見舞いですか?
守里: はい。お願いします。
幸村: かしこまりました。では、こちらをどうぞ。
守里: ありがとうございます。
生徒会の助っ人となり、一緒に仕事をし始めたその日のバイト終わり、守里の姿は伊衛能病院にあった。
看護師の幸村から、入場許可証を受け取った守里は、エレベーターに乗り込む。
幸村: 今日も呼ばれたんですね笑
守里: なんか、寂しいらしくて笑。日中の様子はどうですか?
幸村: 日中はすごく静かに過ごされていますよ。ずっと携帯でアニメを見ているみたいです。
守里: そうなんですか笑。僕が会ってる時間からは、想像できないです。
幸村: それだけ、森崎君といると楽しいんですよ。
守里: 笑、そうだと嬉しいです。
チーン
幸村: それでは、また。
守里: はい。帰りもよろしくお願いします笑
エレベーター前の幸村に見送られて、守里は一昨日も昨日も今日も呼び出しを受けた、陽芽叶の病室へと向かう。
相変わらず、人がいないな~
ほんと、不思議な病棟だ。
何より地下にあるし。
コンコン
「どうぞ~」
ガラガラ
守里: 今日も呼ばれて来ましたよ~
陽芽叶: あ、守里。やっと来た!
病室の扉を開けた守里を、ベッドの上で守里が来るのを心待ちにしていた陽芽叶が、笑顔で迎える。
守里: やっとって笑。ずっと待ってたわけ?
陽芽叶: そりゃもちろんだよ。私がお見舞いに来てって呼んだんだから。
守里: それもそうだね笑
陽芽叶: バイト終わりなんでしょ?
守里: うん。バイトが終わって、奈々未さんと珠美を送り届けてから、そのまま来た。
陽芽叶: なんかごめん。
守里: いやいや。陽芽叶がここに入院してるのを知ってるのは、僕と葵波さんと、七星さん、祐希の4人ぐらいなんだから、僕が来ないと寂しいでしょ?笑
陽芽叶: う~ん…ちょっとだけ、寂しいかな笑
守里: 笑、ま、今日とか、平日のバイト終わりは、そんなに長くはいれないんだけどね。9時近いし。
陽芽叶: 全然良い!守里の顔を見れるだけで、治る速度が早くなるから笑
守里: 何それ笑
陽芽叶: ってかさ、美月が鬼電してきて大変なんじゃないの?笑。こんな遅くまで帰らないと。
守里: 美月?いや、別にそんなことないよ。今日はむしろ、遅くなることを伝えたら、笑顔でOKって言ってくれた。
陽芽叶: へぇ、珍しいこともあるもんだ。
守里: 多分だけど、料理の練習をするためかな笑
陽芽叶: 料理の練習?
守里: うん。僕に料理を作ってくれるんだって。
陽芽叶: え、なんで?
守里: えっとね……
ベッドの横にある椅子に座りながら、守里はその説明を始める。
守里: まず、今日の昼休みに、なんかありがたいことに、紗耶ちゃんと飛香と美月が、お弁当を作ってくれることになって、でも僕が生徒会の手伝いをするってことで、昼休みに時間が取れなくなるから、1回断ったんだ。
陽芽叶: うんうん。
守里: そしたら、飛香が、今週末に僕の家で料理対決をしようって言い出して…
陽芽叶: ほうほう、飛香が…
守里: それで、その対決に参加するけど、おそらく料理をあまりしたことがない美月は、結真姉さんに料理を教えてもらってるんじゃないかな?今頃。
陽芽叶: なるほどね~~結局、誰がその週末の料理対決に参加するの?
守里: 言い出しっぺの飛香に、最初の会話にいた美月と紗耶ちゃん。それから、僕がバイト中に話して、めちゃくちゃ乗り気になった珠美の4人が参加することになってる。ちなみに、春時と日向子も審査員として来るよ。
陽芽叶: ………よし、私も参加する。
守里: え?無理でしょ。入院してるのに。
陽芽叶: 笑、守里がお見舞いに来てくれたおかげか、私の怪我は、もうほとんど治ってるんだよ。ってか、怪我したのは腕なんだから、歩けるし。
そう言って、ベッドから降りて、守里の横に立ち、ニッコリと笑顔を見せる。
守里: あ、確かに……ん?じゃあなんで入院してるの?陽芽叶は。
陽芽叶: ま、まぁ、そこに関しては色々とあるんだよ。腕はまだ上手く動かせないからね~
守里: 怪我したのは左肩辺りだから、利き腕は動くのか……なら、大丈夫なの…か?
陽芽叶: うん!だから、私も参加する!
守里: その入院しないといけない色々については?
陽芽叶: お父さんを説得する!
守里: じゃあまずは、おじさんの説得を成功させないとだね。
陽芽叶: 頑張る!
守里: 笑、陽芽叶の手料理も初めてだから、楽しみにしておくよ。さ、ベッドに戻って。
陽芽叶: うん。ヨイショ
ベッドに戻る陽芽叶を支えながら、守里は質問を続ける。
守里: ちなみにさ、陽芽叶は料理できるの?
陽芽叶: もちろん笑
守里: お、優勝候補か?笑
陽芽叶: 絶対にみんなに勝てるような、美味しい料理を作るからね。
守里: 笑、頑張って。
陽芽叶: うん笑……あ、料理のテーマとかはあるの?
守里: えっと、確か、白米に合う料理だったと思う。
陽芽叶: なるほど……ってことは、一品対決って感じかな。まぁ、そこは後で、飛香に詳しく聞いとくとして、今から何の料理を作るか考えなきゃ!笑
守里: そっか。じゃあ、僕はその邪魔をしないように、そろそろ帰ろうかな笑
陽芽叶: え~邪魔どころか、守里に作る料理なんだから、その守里がいた方が、色々と聞けて良いに決まってるし、もうちょっといて!
守里: 笑、また甘えん坊モードの陽芽叶が出てきたな。
陽芽叶: 甘えん坊モードって…変な名前をつけないで!
守里: だって、なんか普段の陽芽叶からすれば新鮮だし……何より可愛いし笑
陽芽叶: ///もう!気軽にそんなこと言わないの!
守里: 何を?
陽芽叶: はぁ……やっぱ守里だな……
守里: じゃ、時間もあれだし、帰るね。
陽芽叶: あ、待って待って、最後にギューってして!
守里: え、マジで言ってる?
陽芽叶: うん!昔はよくやってたじゃん。
守里: 昔の話じゃん…
陽芽叶: 守里は嫌なの?
守里: い、嫌っていうか、恥ずかしいっていうか…
陽芽叶: 別に誰も見てないし、それに美月とはやってるんでしょ?たまに。
守里: それは不可抗力だよ。突然コアラみたいに引っ付いてくるんだから。
陽芽叶: 結果的には抱きついてるじゃん。美月は良いのに、僕じゃダメ?
守里: ……なんかその感じだと、やるまで帰してもらえなさそうだ。それに今逃げたら、鬼電してきそうだし…
陽芽叶: さすが守里。僕のこと分かってるね!
守里: ……ちょっとだけだよ。
陽芽叶: やった~
ギュッ
見事、陽芽叶の企みは成功し、守里はベッドの上の陽芽叶を抱きしめる。
陽芽叶: (強気で攻めて良かった~~学校に行けてない分、ここで取り返しとかないとだからね。はぁ~~やっぱ、守里といると安心するな~)
守里: …はい、終わり。
陽芽叶: 笑、ありがと。これでさらに回復が進むよ。
守里: どういう原理なの笑
陽芽叶: じゃあ、またね。
守里: うん。バイバイ。
そうして、守里は椅子から立ち上がり、陽芽叶に手を振られながら、病室から出て行く。
えっと今は…9時半か。
家に着くのは10時ぐらいかな。
となると……何か甘いものを買って帰るべきだ。
遅くなった理由を誤魔化すためにも。
守里: じゃあ、どこに寄ろうかな……って……
陽芽叶の病室から、エレベーターの前までの廊下の途中にある病室の前で、守里は立ち止まった。
守里: ここ、誰の病室…
無性に、この病室を使っている人物が気になり、扉をノックする。
コンコン
守里: …ん?誰もいないのか?でも…
部屋の中に、何かしらの気配を感じ取っている守里は、不思議に思い、マナー違反ということも分かってはいるが、中を見たいという衝動を抑えきれずに、少し扉を開き、その隙間から部屋の中を覗く。
守里: …ベッドが1つあるだけ?他に人もいなさそうだし……
そして、扉に手をかける。
ガラガラ
守里: 失礼します……
恐る恐る部屋の中に入り、中央にあるベッドの上で眠る女性を視界に入れる。
すると、その瞬間に…
守里: あ、あれ…なんで……
眠っている女性から目が離せなくなり、視界が滲み始める。
守里: なんで僕は……泣いてるんだ……涙が止まらない……
一生懸命に、溢れ出てくる涙を腕で拭うが、それが追いつかないほどに、流れ続ける。
守里: 一体、誰なんだ…この人は……初めて会ったはずなのに……おかしいだろ……
と、目の前の女性は何者なのか、そして、なぜ自分が泣いているのか、ということを考えつつ、涙を拭いながら、ベッドの前に立っていると…
幸村: なんで扉が……って、森崎君?
開いているはずのない扉が開いていることに気づいた幸村が、病室の前にやってくる。
守里: っ!!あ、看護師さん。すみません、勝手に入っちゃって…
幸村: い、いえ、それは構わないんですが……大丈夫ですか?
振り向いた守里が泣いているのを見て、幸村は衝撃を受ける。
守里: す、すみません…なんか、僕もよく分かってなくて……でも、大丈夫ですから…上に戻りましょう。
幸村: えっと……
守里: 先に行ってますね…
泣いている守里に、どう声をかければ良いのか分からず、動けなかった幸村を残して、守里は急いで病室を出て、エレベーターの方に向かうのだった。
幸村: 森崎君……
陽芽叶: …泣いてましたね、守里。
幸村: え、陽芽叶さん。
突然、声をかけられて後ろを向くと、扉のところに陽芽叶が立っていた。
陽芽叶: 守里のお見送りをしたいって思って出てきたら、看護師さんがここに入っていくのが見えて。
幸村: なるほど…
陽芽叶: 守里が待ってますから、看護師さんはエレベーターの方に行ってください。
幸村: …そうですね。
そう言われて、幸村も病室を出て行き、森崎優茉が眠る部屋には、陽芽叶1人だけが残る。
陽芽叶: …
守里、泣いてたな…
「暗示」は、あくまでも人の意識にのみ作用するものだけど、お姉さんについての記憶が封じられているのにも関わらず、あんなふうに……守里の体が自然と涙を流すとは…
それだけ、守里にとって、お姉さんが大事な存在で、記憶が封印されている今でも、体は覚えているからなんだろうな。
そして何より、3年前のあの出来事が、守里の体にとって、強いトラウマになっているんだ。
あの感じだと、記憶を完全に思い出した時に、守里はどうなっちゃうんだろう。
「解放」を使いこなせるようになるぐらいに、戦いの経験を積んで、自分と向き合って、心が強くなれば、トラウマを克服できるって思ってたけど…
正直、あの反応を見ると、不安だ。
僕の判断は間違ってたのかな……
いや、今の時点で、守里が記憶をどこまで取り戻せているかは分からないけど、完全に記憶が戻るまでには、まだ時間があるだろうから、そこに期待しよう。
それに、今の守里には頼れる家族も友達もたくさんいるし。
大丈夫、守里ならきっと大丈夫。
陽芽叶: よし…
退院のこともだけど、守里にかけた暗示についても、改めて、お父さんと話し合わなきゃ。
できれば、守里のお父さんとも一緒に。
それと……美月かな。
美月に、守里の記憶がどこまで戻ってるかも確認しないとな~
あ、何よりも、料理対決で作る料理をどうするか考えなければ!
陽芽叶: 笑、やることがいっぱいだ。さようなら、まいまいさん。
そう言って陽芽叶は、ベッドで眠る森崎優茉に手を振った後、自分の病室に戻った。
to be continued
守里: こんばんは。
幸村: あら、森崎君。お見舞いですか?
守里: はい。お願いします。
幸村: かしこまりました。では、こちらをどうぞ。
守里: ありがとうございます。
生徒会の助っ人となり、一緒に仕事をし始めたその日のバイト終わり、守里の姿は伊衛能病院にあった。
看護師の幸村から、入場許可証を受け取った守里は、エレベーターに乗り込む。
幸村: 今日も呼ばれたんですね笑
守里: なんか、寂しいらしくて笑。日中の様子はどうですか?
幸村: 日中はすごく静かに過ごされていますよ。ずっと携帯でアニメを見ているみたいです。
守里: そうなんですか笑。僕が会ってる時間からは、想像できないです。
幸村: それだけ、森崎君といると楽しいんですよ。
守里: 笑、そうだと嬉しいです。
チーン
幸村: それでは、また。
守里: はい。帰りもよろしくお願いします笑
エレベーター前の幸村に見送られて、守里は一昨日も昨日も今日も呼び出しを受けた、陽芽叶の病室へと向かう。
相変わらず、人がいないな~
ほんと、不思議な病棟だ。
何より地下にあるし。
コンコン
「どうぞ~」
ガラガラ
守里: 今日も呼ばれて来ましたよ~
陽芽叶: あ、守里。やっと来た!
病室の扉を開けた守里を、ベッドの上で守里が来るのを心待ちにしていた陽芽叶が、笑顔で迎える。
守里: やっとって笑。ずっと待ってたわけ?
陽芽叶: そりゃもちろんだよ。私がお見舞いに来てって呼んだんだから。
守里: それもそうだね笑
陽芽叶: バイト終わりなんでしょ?
守里: うん。バイトが終わって、奈々未さんと珠美を送り届けてから、そのまま来た。
陽芽叶: なんかごめん。
守里: いやいや。陽芽叶がここに入院してるのを知ってるのは、僕と葵波さんと、七星さん、祐希の4人ぐらいなんだから、僕が来ないと寂しいでしょ?笑
陽芽叶: う~ん…ちょっとだけ、寂しいかな笑
守里: 笑、ま、今日とか、平日のバイト終わりは、そんなに長くはいれないんだけどね。9時近いし。
陽芽叶: 全然良い!守里の顔を見れるだけで、治る速度が早くなるから笑
守里: 何それ笑
陽芽叶: ってかさ、美月が鬼電してきて大変なんじゃないの?笑。こんな遅くまで帰らないと。
守里: 美月?いや、別にそんなことないよ。今日はむしろ、遅くなることを伝えたら、笑顔でOKって言ってくれた。
陽芽叶: へぇ、珍しいこともあるもんだ。
守里: 多分だけど、料理の練習をするためかな笑
陽芽叶: 料理の練習?
守里: うん。僕に料理を作ってくれるんだって。
陽芽叶: え、なんで?
守里: えっとね……
ベッドの横にある椅子に座りながら、守里はその説明を始める。
守里: まず、今日の昼休みに、なんかありがたいことに、紗耶ちゃんと飛香と美月が、お弁当を作ってくれることになって、でも僕が生徒会の手伝いをするってことで、昼休みに時間が取れなくなるから、1回断ったんだ。
陽芽叶: うんうん。
守里: そしたら、飛香が、今週末に僕の家で料理対決をしようって言い出して…
陽芽叶: ほうほう、飛香が…
守里: それで、その対決に参加するけど、おそらく料理をあまりしたことがない美月は、結真姉さんに料理を教えてもらってるんじゃないかな?今頃。
陽芽叶: なるほどね~~結局、誰がその週末の料理対決に参加するの?
守里: 言い出しっぺの飛香に、最初の会話にいた美月と紗耶ちゃん。それから、僕がバイト中に話して、めちゃくちゃ乗り気になった珠美の4人が参加することになってる。ちなみに、春時と日向子も審査員として来るよ。
陽芽叶: ………よし、私も参加する。
守里: え?無理でしょ。入院してるのに。
陽芽叶: 笑、守里がお見舞いに来てくれたおかげか、私の怪我は、もうほとんど治ってるんだよ。ってか、怪我したのは腕なんだから、歩けるし。
そう言って、ベッドから降りて、守里の横に立ち、ニッコリと笑顔を見せる。
守里: あ、確かに……ん?じゃあなんで入院してるの?陽芽叶は。
陽芽叶: ま、まぁ、そこに関しては色々とあるんだよ。腕はまだ上手く動かせないからね~
守里: 怪我したのは左肩辺りだから、利き腕は動くのか……なら、大丈夫なの…か?
陽芽叶: うん!だから、私も参加する!
守里: その入院しないといけない色々については?
陽芽叶: お父さんを説得する!
守里: じゃあまずは、おじさんの説得を成功させないとだね。
陽芽叶: 頑張る!
守里: 笑、陽芽叶の手料理も初めてだから、楽しみにしておくよ。さ、ベッドに戻って。
陽芽叶: うん。ヨイショ
ベッドに戻る陽芽叶を支えながら、守里は質問を続ける。
守里: ちなみにさ、陽芽叶は料理できるの?
陽芽叶: もちろん笑
守里: お、優勝候補か?笑
陽芽叶: 絶対にみんなに勝てるような、美味しい料理を作るからね。
守里: 笑、頑張って。
陽芽叶: うん笑……あ、料理のテーマとかはあるの?
守里: えっと、確か、白米に合う料理だったと思う。
陽芽叶: なるほど……ってことは、一品対決って感じかな。まぁ、そこは後で、飛香に詳しく聞いとくとして、今から何の料理を作るか考えなきゃ!笑
守里: そっか。じゃあ、僕はその邪魔をしないように、そろそろ帰ろうかな笑
陽芽叶: え~邪魔どころか、守里に作る料理なんだから、その守里がいた方が、色々と聞けて良いに決まってるし、もうちょっといて!
守里: 笑、また甘えん坊モードの陽芽叶が出てきたな。
陽芽叶: 甘えん坊モードって…変な名前をつけないで!
守里: だって、なんか普段の陽芽叶からすれば新鮮だし……何より可愛いし笑
陽芽叶: ///もう!気軽にそんなこと言わないの!
守里: 何を?
陽芽叶: はぁ……やっぱ守里だな……
守里: じゃ、時間もあれだし、帰るね。
陽芽叶: あ、待って待って、最後にギューってして!
守里: え、マジで言ってる?
陽芽叶: うん!昔はよくやってたじゃん。
守里: 昔の話じゃん…
陽芽叶: 守里は嫌なの?
守里: い、嫌っていうか、恥ずかしいっていうか…
陽芽叶: 別に誰も見てないし、それに美月とはやってるんでしょ?たまに。
守里: それは不可抗力だよ。突然コアラみたいに引っ付いてくるんだから。
陽芽叶: 結果的には抱きついてるじゃん。美月は良いのに、僕じゃダメ?
守里: ……なんかその感じだと、やるまで帰してもらえなさそうだ。それに今逃げたら、鬼電してきそうだし…
陽芽叶: さすが守里。僕のこと分かってるね!
守里: ……ちょっとだけだよ。
陽芽叶: やった~
ギュッ
見事、陽芽叶の企みは成功し、守里はベッドの上の陽芽叶を抱きしめる。
陽芽叶: (強気で攻めて良かった~~学校に行けてない分、ここで取り返しとかないとだからね。はぁ~~やっぱ、守里といると安心するな~)
守里: …はい、終わり。
陽芽叶: 笑、ありがと。これでさらに回復が進むよ。
守里: どういう原理なの笑
陽芽叶: じゃあ、またね。
守里: うん。バイバイ。
そうして、守里は椅子から立ち上がり、陽芽叶に手を振られながら、病室から出て行く。
えっと今は…9時半か。
家に着くのは10時ぐらいかな。
となると……何か甘いものを買って帰るべきだ。
遅くなった理由を誤魔化すためにも。
守里: じゃあ、どこに寄ろうかな……って……
陽芽叶の病室から、エレベーターの前までの廊下の途中にある病室の前で、守里は立ち止まった。
守里: ここ、誰の病室…
無性に、この病室を使っている人物が気になり、扉をノックする。
コンコン
守里: …ん?誰もいないのか?でも…
部屋の中に、何かしらの気配を感じ取っている守里は、不思議に思い、マナー違反ということも分かってはいるが、中を見たいという衝動を抑えきれずに、少し扉を開き、その隙間から部屋の中を覗く。
守里: …ベッドが1つあるだけ?他に人もいなさそうだし……
そして、扉に手をかける。
ガラガラ
守里: 失礼します……
恐る恐る部屋の中に入り、中央にあるベッドの上で眠る女性を視界に入れる。
すると、その瞬間に…
守里: あ、あれ…なんで……
眠っている女性から目が離せなくなり、視界が滲み始める。
守里: なんで僕は……泣いてるんだ……涙が止まらない……
一生懸命に、溢れ出てくる涙を腕で拭うが、それが追いつかないほどに、流れ続ける。
守里: 一体、誰なんだ…この人は……初めて会ったはずなのに……おかしいだろ……
と、目の前の女性は何者なのか、そして、なぜ自分が泣いているのか、ということを考えつつ、涙を拭いながら、ベッドの前に立っていると…
幸村: なんで扉が……って、森崎君?
開いているはずのない扉が開いていることに気づいた幸村が、病室の前にやってくる。
守里: っ!!あ、看護師さん。すみません、勝手に入っちゃって…
幸村: い、いえ、それは構わないんですが……大丈夫ですか?
振り向いた守里が泣いているのを見て、幸村は衝撃を受ける。
守里: す、すみません…なんか、僕もよく分かってなくて……でも、大丈夫ですから…上に戻りましょう。
幸村: えっと……
守里: 先に行ってますね…
泣いている守里に、どう声をかければ良いのか分からず、動けなかった幸村を残して、守里は急いで病室を出て、エレベーターの方に向かうのだった。
幸村: 森崎君……
陽芽叶: …泣いてましたね、守里。
幸村: え、陽芽叶さん。
突然、声をかけられて後ろを向くと、扉のところに陽芽叶が立っていた。
陽芽叶: 守里のお見送りをしたいって思って出てきたら、看護師さんがここに入っていくのが見えて。
幸村: なるほど…
陽芽叶: 守里が待ってますから、看護師さんはエレベーターの方に行ってください。
幸村: …そうですね。
そう言われて、幸村も病室を出て行き、森崎優茉が眠る部屋には、陽芽叶1人だけが残る。
陽芽叶: …
守里、泣いてたな…
「暗示」は、あくまでも人の意識にのみ作用するものだけど、お姉さんについての記憶が封じられているのにも関わらず、あんなふうに……守里の体が自然と涙を流すとは…
それだけ、守里にとって、お姉さんが大事な存在で、記憶が封印されている今でも、体は覚えているからなんだろうな。
そして何より、3年前のあの出来事が、守里の体にとって、強いトラウマになっているんだ。
あの感じだと、記憶を完全に思い出した時に、守里はどうなっちゃうんだろう。
「解放」を使いこなせるようになるぐらいに、戦いの経験を積んで、自分と向き合って、心が強くなれば、トラウマを克服できるって思ってたけど…
正直、あの反応を見ると、不安だ。
僕の判断は間違ってたのかな……
いや、今の時点で、守里が記憶をどこまで取り戻せているかは分からないけど、完全に記憶が戻るまでには、まだ時間があるだろうから、そこに期待しよう。
それに、今の守里には頼れる家族も友達もたくさんいるし。
大丈夫、守里ならきっと大丈夫。
陽芽叶: よし…
退院のこともだけど、守里にかけた暗示についても、改めて、お父さんと話し合わなきゃ。
できれば、守里のお父さんとも一緒に。
それと……美月かな。
美月に、守里の記憶がどこまで戻ってるかも確認しないとな~
あ、何よりも、料理対決で作る料理をどうするか考えなければ!
陽芽叶: 笑、やることがいっぱいだ。さようなら、まいまいさん。
そう言って陽芽叶は、ベッドで眠る森崎優茉に手を振った後、自分の病室に戻った。
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