偽りの聖女は婚約破棄から始まる――最強の復讐劇

コテット

文字の大きさ
3 / 23

第3話『静かなる剣、カイルとの邂逅』

しおりを挟む


 神殿で目覚めたその朝、アメリアの世界は変わっていた。

 聖印は彼女の手の甲に刻まれ、指先に宿る光は“癒し”だけでなく、“破邪”の力も帯びていた。心はまだ揺らいでいたが、身体は不思議なほど軽い。まるで、ようやく自分自身を取り戻したような感覚だった。

 「……まずは、どこへ向かえばいい?」

 彼女は祠を後にし、山道を辿る。王都に戻るにはまだ力も情報も足りない。だが、自分を追放したあの場所へ、いつか必ず――。

 そのときだった。

 森の奥から、剣戟の音がした。

 「……!」

 足を止め、木々の陰からそっと覗く。そこには、数人のならず者に囲まれた一人の騎士がいた。鋼の銀髪、研ぎ澄まされた身のこなし。だが、傷を負っているようで、やや劣勢に見えた。

 「邪魔をするな! あの聖女の追っ手だってわかってんだよ!」

 「……聖女の、追っ手?」

 アメリアは胸に鋭い痛みを感じた。

 わたしのことだ。あの偽りの“処分”を、まだ追っている者がいるというのか?

 ならば――

 彼女は右手を前に掲げ、祈るように呟いた。

 「清めの光よ、偽りを祓え……《浄断(じょうだん)の光環》」

 次の瞬間、淡い金色の輪が宙を走り、ならず者たちの足元に展開された。

 「な、なんだっ……!? 足が動かねぇ――」

 「や、やめろ! こいつ……聖女か!? 本物の……っ!」

 彼らは恐怖に駆られて逃げ出した。

 残された騎士が、ゆっくりと顔を上げる。彼女と目が合った。

 「……君は……」

 「大丈夫ですか? ……傷が……ひどい」

 彼女が駆け寄ると、騎士はわずかに目を見開いた。

 「……まさか、君が……アメリア=ローゼンベルク……本物の聖女だとは……」

 その声音には、敵意も嘲りもなかった。あるのは、ただ真実を知った者の敬意と安堵。

 「わたしを……知っているのですか?」

 「カイル=イーゼンブルク。王国騎士団副長。君を……昔、助けられたことがある。君は覚えていないだろうが、あの時、君の祈りがなければ私は死んでいた」

 彼は静かに笑った。

 「恩を返させてくれ。君が、戦うというのなら――私は剣を貸す」

 アメリアは目を見開き、そして、わずかに頷いた。

 「……ありがとう、カイル様。あなたの力を……貸してください」

 こうして、聖女アメリアと騎士カイルの旅が始まった。

あとがき
主人公アメリアが初めて“信頼できる仲間”と再会しました。
彼は物語の中で支えとなり、やがて……彼女にとって特別な存在に。

📢 応援のお願い
読んでくださってありがとうございます!
いいね・コメント・フォローが、励みになります。ぜひよろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

愛は契約範囲外〈完結〉

伊沙羽 璃衣
恋愛
「カヴァリエリ令嬢! 私はここに、そなたとの婚約を破棄することを宣言する!」 王太子の婚約破棄宣言を笑顔で見つめる令嬢、フェデリカ。実は彼女はある目的のために、この騒動を企んだのであった。目論見は成功したことだし、さっさと帰って論文を読もう、とるんるん気分だったフェデリカだが、ひょんなことから次期王と婚約することになってしまい!? 「婚約破棄騒動を仕向けたのは君だね?」 しかも次期王はフェデリカの企みを知っており、その上でとんでもない計画を持ちかけてくる。 愛のない契約から始まった偽りの夫婦生活、果たしてフェデリカは無事に計画を遂行して帰ることができるのか!? ※本編43話執筆済み。毎日投稿予定。アルファポリスでも投稿中。旧題 愛は契約に含まれません!

令嬢の復讐代行者

渡里あずま
恋愛
大国エスカーダに、他国の外交官の養女・クロエが留学してくる。 クロエの目的は、この国の『真実の愛』に関わった面々への復讐だった。 「『ジャンヌ』の代わりに、俺はアイツらに復讐する。『真実の愛』に関わったアイツらを」 絶望した少女と、彼女を守る為に目覚めた男の物語。 ※※※ 精神的にBL要素があります。苦手な方はご注意を。 ※重複投稿作品※

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

婚約破棄、追放された令嬢ですが、国民全員ついてきました ――国王陛下まで付いてくるのは聞いてません――

ふわふわ
恋愛
王太子から一方的に婚約破棄を言い渡され、 さらに理由も曖昧なまま国外追放を宣告された公爵令嬢カグラ。 ――けれど。 追放当日、彼女の後ろに並んだのは 王城の使用人、騎士、職人、学者、医師、商人、そして民衆。 気づけば、国民のほぼ全員がついてきていた。 「……え? ちょっと待ってくださいませ?」 さらに事態は加速する。 「わしも行くぞ」 そう言って荷物をまとめたのは、まさかの国王陛下本人。 こうして始まったのは、 “追放された令嬢”を中心に人が集まり、 誰にも命じられず、誰にも縛られない―― 前代未聞の共同体づくりだった。 国家でも、反乱でも、理想郷でもない。 制度を作らず、序列を決めず、 「ここにいていいかどうか」を自分で選び続ける場所。 逃げ場ではなく、 「選び直せる場所」を作ろうとするカグラの前に立ちはだかるのは、 ・“前例”として監視し始める周辺諸国 ・選ばれないことへの不安 ・居場所を与えないという残酷な優しさ ・祝うことすら拒む、歪で不器用な共同体の在り方 そして問われる―― 「人は、制度なしに共に生きられるのか?」 これは、ざまぁで終わらない物語。 婚約破棄から始まり、 追放の先で“世界の仕組みそのもの”を揺さぶっていく、 静かで強い、新しい建国譚。 なお、 国王陛下がついてきた理由は―― 最後まで読むと、少しだけ分かります。

処理中です...