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第5話『偽聖女の崩壊、罪の王子』
しおりを挟む沈黙は、刃だった。
仮面を外したアメリアが放った言葉は、ただの暴露ではない。それは、この国における“信仰”と“王権”を根本から揺るがす挑戦だった。
「神の祝福が、私の身に宿ったこと。これこそが、聖女の証明です。にもかかわらず、王家はそれを否定し、偽りの者を聖女として据えた。その意味を、皆さまは……ご理解されていますか?」
静寂の中、誰かの息を呑む音が響いた。
「不敬だぞ、アメリア!」
怒声を上げたのは、レオン王子だった。
「貴様は王命に背き、民の信仰を乱す裏切り者だ! 光を見せた程度で、王家の判断が誤っていたなどと証明できるものか!」
その声は、怒りというより焦燥に近かった。会場の空気が、明らかにアメリアに傾いていることを、彼自身が最も強く感じていた。
「……王子殿下。では、お尋ねします。あなたは、“聖女の資質”をどう判断したのですか? 神託を受けたのですか? それとも、“誰かの証言”を鵜呑みにしたのですか?」
レオンが言葉に詰まる。答えられない。なぜなら、彼は聖職会議の報告と、リディア=クロフォードの演技にすべてを委ねていたのだから。
そのリディアは、すでに顔を青ざめさせていた。
「……証拠など、ないはず……私が……私が聖女なのよ……!」
彼女はひび割れた声で呟き、自らのドレスの裾を握りしめた。
「神よ……聖なる加護を……!」
祈るように呟きながら両手を掲げたリディアの指先には、何の輝きも宿らなかった。
――沈黙。
その無言が、すべてを語っていた。
「……どうして……どうして、出ないの……!? わたしが……選ばれたのに……!!」
リディアは崩れ落ちた。彼女の瞳からは、涙ではなく、黒い煙のようなものがにじみ出ていた。
その場にいた神官たちが、慌てて彼女に駆け寄ろうとするが、アメリアが手を翳した瞬間、黄金の光輪が彼女を包み、触れる者を拒絶した。
「これ以上、穢れを広げるわけにはいきません。……彼女の中には、闇の魔素が混じっています。誰かが……“力なき少女”に、魔物の核を埋め込んだ」
騒然となる会場。
「それは、禁忌の術ではないか……!」
「では、あの娘は聖女ではなく……魔女か……?」
貴族たちのささやきが、波紋のように広がっていった。
レオン王子は、ふらりと数歩後退した。
「……リディア……お前……まさか……」
「違う……違うのよ……! 私は……ただ、信じていたの……聖女になれば、幸せになれるって……それだけだったの……!」
リディアは必死に叫んだ。だが、その声はもはや誰にも届かない。
彼女の足元に走った魔素のひび割れが、衣を焼き、仮面のように施されていた魔法の印象を剥がし始める。
「リディア=クロフォード。あなたは神の名を騙り、王子を惑わし、国の聖なる儀式を穢した。その罪は、軽くはありません」
アメリアの言葉に、ついに神殿側の司祭が立ち上がる。
「正式に、王家と神殿の合同調査が必要だ。我々はこの場を中断し、聖女認定儀式を再検証しなければならない」
「それに……王子殿下の責任も問われるべきです」
貴族の中から、誰かがそう呟いた。
その瞬間、レオンは激昂したように叫んだ。
「すべては、あの女の策略だ! アメリア=ローゼンベルクが、私と王国に反旗を翻しているだけだ! 断じて……認められるものか!」
だが、その声には、もはや威厳も説得力もなかった。
カイルが、静かに一歩前に出た。
「レオン王子殿下。……ご自身の責任を受け入れていただきましょう。あなたが“騙された”のではなく、“判断を放棄した”のです」
それは、断罪だった。
その場の空気が、一つの答えへと傾いていく。
アメリアは、静かに息を吐いた。
「……これで、ようやく――“始められる”」
王家の腐敗、聖女制度の改革、国の再建。
そのどれもが、彼女にしかできない未来だった。
そして彼女は、カイルの方を見て、微笑んだ。
「隣に立ってくれる?」
「もちろん。俺は、ずっと君の剣であり、盾だ」
静かに結ばれる絆。
仮面は落ち、偽りの帳は焼き尽くされた。
あとがき
リディアの正体が明かされ、王子の罪が公然となりました。
アメリアは正式に“真の聖女”として再び歩みを始めます。
次は、新たな敵の影と、国の改革へ向かう物語へ。
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