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第7話『黄昏の陰謀、囁く教団』
しおりを挟む王国に春が訪れ始めた頃。
アメリアの改革は、順調に成果を上げていた。
各地の神殿では聖女の権威に頼らない民意重視の政策が採られ、民の支持率はかつてない高さを記録した。
貴族たちも表向きは彼女に従い、王太子レオンの失脚を経て政治は安定したかに思えた。
だが――
その「変革の風」に、静かに牙を剥く者たちがいた。
その夜、辺境・北境教区の古い地下聖堂にて。
「――聖女アメリアの影響力が広がっております」
ローブに身を包んだ男が、蝋燭の揺れる部屋で膝を折った。
その奥に、数人の“顔を隠した者たち”がいた。
「女の顔をして、民の前に出るな。あれは“革命の獣”だ。伝統と信仰を冒涜する化け物だ」
「……旧き血統にて聖女を名乗ったとはいえ、その加護は確かに本物。いかにすべきか」
「“神の言葉”を忘れた者に、未来を語る資格などない」
その者はゆっくりと立ち上がった。
顔の半分に、白い仮面。
彼らは――“十二の面(マスク)”と呼ばれる秘密教団。
聖女制度が誕生する遥か以前、原始信仰から分裂した“教団の影”であり、真の神意は自分たちだけが知ると信じる者たちだった。
「……“彼女”を目覚めさせる時が来たな」
「“彼女”? まさか――“白獣(アルベリア)”を……」
「制御は不完全だが……聖女の力に対抗するには、もはや選択肢はない」
ローブの者たちが一斉に膝をつく。
地下の空気が、低く唸った。
一方その頃、王都では。
「……教団の動きが、活発になっている?」
カイルが報告書を机に置いた。
それは、北方にある旧聖女派の神殿の再活性化、ならびに“無認可の巡礼者”が急増しているという報告だった。
「彼らは“仮面聖女”と呼ばれる者を祀っているようです。“闇に救いを与える女神”と称し、アメリア様の改革を“背信”と断じている」
「……もう、“抵抗”が表面化しているのね」
アメリアは眉を寄せた。
それは、かつての自分が最も恐れていた“信仰の対立”の始まりだった。
「放っておくことはできません。直接、北境に赴いて事実を確認します」
「危険すぎる。君はもはや王都の象徴だ。暗殺の危険もある」
「だからこそ、私が行かなければ意味がない。“力で踏みにじる”のではなく、“言葉で問いかける”ことに意味があるのよ」
カイルは黙った。
彼女の目が、揺れていないことを知っていた。
「……わかった。ならば、俺も同行する。君を守るのが、俺の役目だ」
数日後、アメリアたちは北境の辺境教区へと出発した。
旅は慎重を期して少人数で行われ、同行者はカイル、サラ、王国聖騎士隊から選ばれた精鋭のみ。
道中、彼らは奇妙な光景をいくつも目にした。
・道端に並ぶ“仮面”をかぶった巡礼者
・聖女の加護とは異なる“黒き光”の護符
・貧しい者たちに配られる“神の肉”と呼ばれる干し肉(魔素反応あり)
「これは……」
アメリアは唇を噛んだ。
「まるで“信仰”そのものが、誰かの手で作り替えられているみたい……」
そして、目的地である“旧・白祠(はくし)教団本殿”にたどり着いたとき――彼女はそれを見た。
黒い聖印。
かつて自分が授かった“祝福”の逆写しのような、禍々しい紋章。
その前で祈る信者たちの中心に、“仮面を被った女性”が立っていた。
「……ようこそ、真の聖女様」
仮面の女が、ゆっくりと振り返った。
「私は、あなたと同じ“祝福された者”。……いいえ、今は“奪われた者”と言った方がいいかしら」
その声音は柔らかく、美しかった。
だが、背後に漂う黒い光は、“祝福”とは正反対のものだった。
「あなたは誰……?」
「名前は、捨てました。ただ、“第二の聖女”とでも。かつて、あなたの前に候補として落とされた者よ」
女は静かに歩み寄り、手を差し出す。
「ねえ、アメリア。あなたが導くその道は、本当に“みんな”を救ってる?
あなたの改革で“追われた者たち”の声は、聞こえてる?」
問いかけは、鋭く、痛かった。
アメリアは、一歩も引かずに答えた。
「わたしは、完璧じゃない。すべてを救えているとも思っていない。けれど、だからこそ、立ち止まって悩み続けてる。見捨てたりなんて、しない」
仮面の女は少しだけ沈黙し、微笑んだ。
「その目、嫌いじゃない。なら、少し“試させて”」
次の瞬間、大地が震えた。
地の底から何かが目覚める音が響き、黒い獣のような魔力が吹き上がる。
「――来るわ! 構えて!!」
カイルが剣を抜き、アメリアの前に立った。
聖女アメリアの改革が揺らぎ始める――
この国に、第二の“聖女戦争”の火種が灯ろうとしていた。
あとがき
新章《教団編》の開幕です。
信仰の闇に潜む“偽りの聖女”と、アメリアの理念が激突します。
今までの“ざまぁ”とは異なり、ここからは「民衆・信仰・正義」の三つ巴の構図でよりシリアス&政治色も強くなります。
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