偽りの聖女は婚約破棄から始まる――最強の復讐劇

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第9話『神の声、王を喰らう者』

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 白獣アルベリアとの激闘から三日後――
 アメリアは再び王都へと戻っていた。

 しかし、凱旋とは呼べなかった。
 教団の問題は一時的に収束したものの、各地に潜む“仮面信仰”の残党はなお活動を続けており、特に王家周辺に不穏な気配が立ち込めていた。

 「……王都内にて“神託者”を名乗る者が増加しています」

 神殿の副司祭であるルシアンがそう報告した。

 「神託者……? それは、聖女制度とは別の?」

 アメリアが眉を寄せると、カイルが静かに頷いた。

 「民の間で広まり始めている“新たな神”の存在。
 それを名乗る者たちは、“神の声を聞く者こそ導き手である”と唱え、聖女制度そのものを否定し始めている」

 「まるで……“信仰の再分裂”」

 アメリアは呟いた。

 彼女が懸命に築いてきた「誰もが癒される国」の理想――
 それに背を向けるかのように、“神の声”を唯一の正義とする者たちが、静かに国を蝕み始めていた。

 その夜、王宮地下にて――

 アメリアは、王宮警備長から“ある者の密告”を受け取った。

 「王家内の祭祀台座が、改ざんされております」

 「台座が……?」

 「はい。“初代聖女”の石碑に記された祝詞が、今世代の記録と食い違っており、“別の神の名”が埋め込まれていたのです」

 その名は、《エン=ロウ・メイル》
 古い言語で「食らい尽くす神」を意味する、かつて異教徒として断罪された神格だった。

 「この名を、誰が……」

 「調査の結果、どうやら王太子レオンの周辺に長く仕えていた占術官たちが関与していたようです。ですが、すでに消息不明で……」

 その言葉を聞いた瞬間、アメリアの中にひとつの記憶がよみがえった。

 ――あの夜。追放された舞踏会の日。
 レオンの背後にいた“奇妙な影”。

 誰にも気づかれず、誰の記録にも残らない、だが確かに存在していた気配。
 あれは“神託”などではなかった。
 もっと深く、原初に近い、底なしのものだった。

 その翌日。

 王家の内殿にて、“王の病”が発表された。

 国王・ラウル三世――
 民から温厚と讃えられていた人物が、突如として昏睡に陥り、意識を失ったという。

 「体内から、“神の祝福”の痕跡が消失している……?」

 医師団が混乱する中、アメリアは診察室に入り、王の胸元に手を置いた。

 「……感じない。これは……“神を喰われている”」

 そう表現するしかなかった。

 祝福でも、呪いでもない。
 ただ、信仰という“概念そのもの”が抜き取られたような、空洞。

 まるで王の内側に、“信仰の死”が宿っていた。

 王城の一室にて。

 「この“神喰い”……本当に実在するの?」

 カイルが低く問いかけた。

 「記録では、“神の領域にまで手を伸ばした旧王家の分家”が、かつて“神そのものを封じようとした”とある。
 そのとき失敗し、“その神の片割れ”がどこかに封じられたと」

 アメリアは古文書を広げた。

 「その神こそ、《エン=ロウ・メイル》。
 信仰を喰らい、支配し、“神でさえ記憶から消す”存在」

 「つまり、今――そいつが、王に取り憑いていると?」

 「……可能性は高いわ」

 「では、祓うしかない」

 アメリアは頷いた。

 「でも……これはもう“聖女”の仕事じゃない。
 “神殺し”の域に踏み込むわ。
 私がここから先へ進むなら、もう……誰の祝福も受けられないかもしれない」

 その言葉に、カイルは一歩、彼女に近づいた。

 「なら、俺が祝福する。君が“信仰を超える者”になるとしても、俺は君の剣だ。たとえ、それが“神の敵”となっても」

 アメリアは微笑んだ。

 「……ありがとう、カイル。
 わたし、行くわ。“神の声”が、誰のものかを確かめに」

 夜。

 アメリアは、王の枕元でひとり祈りを捧げた。

 だがその祈りの最中、空気が“裏返る”ような感覚が起きた。

 音がなくなり、色が消える。

 世界が反転し――“声”がした。

 《名無き聖女よ。光に背を向けた者よ。なぜ、神を否定する》

 「……神は、導くものであって、支配するものではない」

 《神は問う。“あなた”に導く力があるのか?》

 「ある。わたしはそれを……証明してきた」

 《ならば、貴女が“神”となれ》

 次の瞬間、王の胸元から、漆黒の“手”が伸びた。

 それがアメリアに触れたとき――
 彼女の背に、“第三の聖印”が刻まれた。

 それは、祝福でも呪詛でもない。
 “選ばれし者”にのみ与えられる、“神と等しい刻印”。

――――――――――――――――――――

あとがき
この第9話では、聖女アメリアの物語が“信仰”から“神性”へと踏み込みました。
かつて王子に裏切られ、聖女を剥奪された少女は、今や“神と対等”な存在に近づいています。

今後の展開では、彼女が“国の秩序”だけでなく、“神という概念そのもの”とどう向き合うかが問われます。

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