偽りの聖女は婚約破棄から始まる――最強の復讐劇

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第12話『祈りのない大陸、赤砂の神々』

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 新たな時代が始まった。

 神を祀らず、祈りを制度としない国家――アメリアが築いたその理念は、王都を出て、周辺諸国へと波紋のように広がっていた。

 だが、すべての国がそれを歓迎したわけではなかった。

 隣国、ラーゼ砂王国。
 赤砂の大地に築かれたこの国は、“神との契約”を制度として取り入れた、極端な信仰国家である。

 ここでは、**神は“商取引の対象”**だった。

 アメリアたちがラーゼに入ったのは、夏の始まりだった。

 灼けるような日差し、風に乗る砂塵。
 街のあちこちには神像が並び、祈祷札や聖砂と呼ばれる護符が市に出回っていた。

 「……これは……」

 サラが呆然とする。

 「祈りが“売られてる”わね。
 しかも価格帯によって“神の効能”が異なる。
 まるで神が“商品”としてカタログに並んでるよう……」

 「その通りだよ」

 現れたのは、青の衣を纏った美青年。

 「ラーゼへようこそ。私は《神契商会》の案内人、セフェル=ロア。
 “祈りを交わす代行者”でもある。アメリア様、あなたをお待ちしておりました」

 「……どうして、私の名を」

 「新しい時代の始まりに、“神を空位にした聖女”が関わっていないわけがない。
 ここでは“空白”すら、契約の対象になります」

 セフェルの案内で、彼らは《神契市場》へと足を踏み入れた。

 そこは、信じられない光景だった。

 契約書のような紙に神名が印字され、
 祈るたびにその“使用料”が発生するという仕組み。

 高額な祈りほど、“即効性のある奇跡”をもたらすが、
 貧者は祈ることすら許されない。

 「……これは、祈りの“分断”だ」

 アメリアは低く言った。

 「金で神を買えない者は、見捨てられる。
 そんな信仰は、“祈り”とは言えない……!」

 「でも、それがこの国の“秩序”だよ」

 セフェルの笑顔には悲しみが混じっていた。

 「砂王は“神との商契”によって国をまとめてきた。
 神を祀る神官は“富”でその力を拡大し、民は“等価”で奇跡を買う。
 ……それが平和を維持していたのも、また事実なんだ」

 だが、その平和は今、脅かされていた。

 「“神の貸し倒れ”が起きてるの」

 アメリアにそう耳打ちしたのは、露天の老婆だった。

 「かつて祈りを叶えた神々が、“契約通りの力”を発揮しなくなってる。
 まるで、“神そのもの”が弱ってるようでね……」

 それは、アメリアが“神の玉座”を空にした副作用だった。

 “供給元”を失った契約神たちが力を維持できず、破綻が連鎖しているのだ。

 「なら……この国は」

 「秩序が崩れ、“神の負債”が民に跳ね返る。
 そうなれば、暴動は避けられない。
 砂王は今、秘密裏に“新たな神の契約者”を探してるはずだ」

 その夜、アメリアは“砂王宮”へと招かれた。

 玉座に座っていたのは、威厳ある老王――サディク=ラーゼ七世。

 「よく来てくれたな。空白の聖女よ」

 「私は、ただ祈りの自由を望んだだけ。
 でも、あなたの国にそれが及んでしまったのなら……」

 「その代償は重い。
 お前が玉座を空けたことで、我らが契約神《ヴァル=ニス》は弱体化した。
 民は不安に怯え、神殿は混乱している。
 ……だが、私はお前を咎めぬ」

 意外だった。

 だが次の言葉が、アメリアの背を凍らせた。

 「我が国は“空白の神”と契約を結ぶことにした」

 「空白の……神……?」

 「すなわち、お前の背にある“第三の聖印”。
 もはや神を祀らぬあの印が、最も強力な“契約対象”なのだ」

 その瞬間、アメリアの足元に魔法陣が展開された。

 「アメリア!」

 カイルが駆け寄る。

 「王命により、聖女アメリアの“神性”を国家の所有物とする!」

 「やめて……わたしは、誰のものにもならない!」

 アメリアの祈りが炸裂し、契約陣を打ち消す。

 「この印は、わたしが“神にならない”と選んだ証よ。
 だから、誰にも売らせないし、貸しもしない!」

 その夜、アメリアたちは急ぎ王宮を離れた。

 セフェルが案内し、砂漠の秘密通路を通って逃れる。

 「すまない、君を巻き込んだ……。
 でも、俺はあんたみたいな神が欲しかったんだよ。
 “契約できない神”。“選ばない神”。
 ……それこそが、信じられるって思ったんだ」

 アメリアは砂風の中、静かに言った。

 「わたしは神じゃない。
 でも、誰かが祈るなら、きっと耳を傾ける。
 ……それだけの存在で、十分でしょ?」

 その言葉が、砂漠の夜に溶けていった。

――――――――――――――――――――

あとがき
この第12話では、“祈りを取引する国”ラーゼ砂王国が登場しました。
アメリアの信仰観と真っ向から対立する国家であり、彼女の“神にならない信仰”が試されました。

今後の展開では、各国に広がる“信仰の破綻”と、“神の依存症社会”の問題に切り込みながら、祈りの本質を問い続けます。

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