偽りの聖女は婚約破棄から始まる――最強の復讐劇

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第13話『契約神の反乱、空白を喰う者たち』

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 それは、砂嵐とともに始まった。

 アメリアたちが王宮を脱出した翌日、
 ラーゼ砂王国の北部にある**契約神殿《金光殿(きんこうでん)》**が、突如として“自壊”した。

 聖砂で築かれた豪奢な神殿の中心部が、内側から吹き飛ばされるように崩壊し、
 封印されていた神格《ヴァル=ニス》の魔力が暴走。

 目撃者の記録によれば――

「神が……神が“自分の契約書”を食いちぎったんだ……!」

 神が契約を拒否した。
 それは、神を“商品”として縛っていた制度の、根底からの崩壊だった。

 アメリアたちが砂都から少し離れた巡礼の町《クァシマ》に身を潜めていた時、
 その報せが届いた。

 「神が……反乱を起こした……!?」

 カイルは眉をひそめた。

 「それは……もはや神であることを拒絶したということ?」

 「その可能性は高いわ」

 アメリアは、手の甲に微かに浮かんだ“第三の聖印”を見つめる。

 「私が“神の玉座”を空にした時、祈りの供給元が消えた。
 それでも維持されていた契約神たちは、今、限界に来てる。
 ……彼らは“神を演じ続けること”に、疲れてるのよ」

 さらに悪い報せが重なった。

 砂王国各地で“神喰い”事件が多発していた。

 内容はこうだ――

神像を破壊し、その破片を“取り込み”祈りを得ようとする者たち

神官を殺害し、血を用いて即席の祈祷を行う黒魔術集団

無名の神を「誰でも信じれば神になる」と称し、奇跡を捏造する詐欺教団

 「“祈りに飢えた者”たちが、神の代用品を求めて暴走している」

 セフェル=ロアはそう表現した。

 「国が“神に頼る社会構造”を続けすぎたせいだよ。
 彼らにとって神は“食料”だった。なくなれば、喰らうしかない」

 アメリアは、黙ってその言葉を噛みしめた。

 その夜。

 町の中心にある小さな神殿で、“神の喰餌”と呼ばれる集団の儀式が摘発された。

 彼らは、幼い少年を“新たな神”として生贄にしようとしていた。

 「やめて!」

 アメリアが駆け込み、神殿の扉を破った。

 「その子は……神じゃない! 誰かが勝手にそう仕立て上げた“飢えの幻”よ!」

 黒衣の男たちが一斉に襲いかかる。

 「貴様が“神を壊した”張本人かぁああッ!」

 「祈りを返せッ……! オレの娘は“祈れなくなって”死んだんだよぉッ!」

 人の形を保った“狂気”が、アメリアに群がる。

 その瞬間、背中の聖印が輝いた。

 だがアメリアは、それを使わなかった。

 彼女は、自分の手で、祈った。

 「どうか……この人たちの心が、戻りますように」

 彼女の言葉が、光をまとった祈りとなって神殿を包んだ。

 それは神の奇跡ではなかった。
 “誰にでもできるはずの祈り”――それを、アメリアが“代弁”したのだ。

 すると、男たちの手が止まった。

 怒号が止み、神殿に泣き声が響いた。

 「……娘のこと……忘れたくなかったんだよ……でも……もう、わからないんだよ……」

 アメリアは、男の肩にそっと手を置いた。

 「忘れないで。
 祈りは、誰かを生き返らせるものじゃない。
 でも、思い出を守る力にはなれる。
 “祈りたい”と思う心がある限り、あなたは人間よ」

 その夜、クァシマでは“祈りの夜灯(よとう)”と呼ばれる新しい儀式が始まった。

 神を祀るのではなく、“忘れたくない人”の名前を灯す祭り。

 子どもたちは砂に名前を書き、大人たちは小さな火を灯す。

 そこには“神”の姿はなかったが、
 “祈り”は確かに、そこにあった。

――――――――――――――――――――

あとがき
第13話では、神が自らを拒絶し、祈りに飢えた民が“神を喰らう”という信仰の崩壊を描きました。
同時に、アメリアの祈りが“神なき祈り”として人々に灯をともす場面でもありました。

信仰が壊れた時、人はどうするのか――
この問いは今後の章でも繰り返し響き続けていきます。

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