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第14話『祈りを盗む神、空位の双王国』
しおりを挟むラーゼ砂王国の旅を終えたアメリア一行は、次なる目的地――双王国ディウ=カレアへ向かっていた。
この国は、かつて「南王家」と「北王家」により統治されていたが、二十年前の“神喪(しんそう)戦争”により双方の王が相次いで死亡。
以来、“神の玉座が空席”となったまま、暫定的な二重議会によってかろうじて国を維持しているという、**世界でも稀な「王なき王国」**だった。
――そして、この国で問題になっていたのが、“祈りの盗難”だった。
◆1 祈りが消える国
「祈ったはずなのに、言葉が届かない」
「灯したはずの火が消える」
「祈りの文が白紙になって返ってくる……!」
それは“信仰心の喪失”ではなかった。
確かに祈った者たちの心から、“祈りの記憶そのもの”が抜き取られていた。
記録には残らない。
自分でも思い出せない。
ただ胸に、ぽっかりと“祈った気がする喪失感”だけが残る。
「まるで……“誰かが祈りを吸い取っている”ようだ」
カイルの言葉に、アメリアは頷いた。
「きっと、この国の“空白”が“盗み手”を招いたのよ」
◆2 双王国の影と《喪神の巫女》
ディウ=カレアの中心都市に到着した彼らを迎えたのは、驚くほど静かな街並みだった。
人々の顔に“希望”がなかった。
政庁で出迎えたのは、南王家の元正統派を束ねる青年宰相ミル=セロス。
「聖女アメリア様。我々の国に光を届けに来てくださったと、信じてよろしいですか?」
「……私は神じゃありません。でも、祈りを信じている者として……力になれればと思います」
その言葉に、ミルは深く頭を下げた。
「この国には、かつて《神碑の間》という場所がありました。そこには“神に祈る者の名”が記録されていた……はずでした。
ところが二十年前の神喪戦争以後、その神碑が“消えた”のです」
「消えた……?」
「ええ。そして、それと同時に、“祈った記憶が消える”現象が発生し始めた。
以来、この国には“祈ることを恐れる文化”が根付いてしまったのです」
――祈れば、忘れる。
――願えば、虚無になる。
それが、双王国を蝕む“神の不在”だった。
調査の末、アメリアはこの国の地下に広がる“旧神殿網”に、異常な祈りの集積があることを突き止めた。
「……こんなに……?」
祈りの記憶。誰かが願った想い。誰にも届かなかった祈り。
それらが、“一か所に集められて”いた。
「これは……盗まれたんじゃない。
“封じられた”のよ。祈りそのものが、“ある存在”のために捧げられるよう、国家単位で意図的に……」
アメリアが手を翳すと、結界が解け、一体の人影が浮かび上がった。
黒い衣。顔を仮面で覆い、神官のような姿。
「……お前が、《喪神の巫女(そうしんのみこ)》……?」
「アメリア=ローゼンベルク。ようこそ、“神の墓標”へ」
◆3 祈りを食う者、記憶を生きる者
喪神の巫女は、アメリアに語った。
かつてこの国には、祈りの神《ディア=リア》が存在していた。
彼女は“記録神”として、あらゆる祈りを石碑に刻み、願いを保存する役割を担っていた。
しかし――
“祈りが叶わないこと”に絶望した民が、神殿を破壊し、石碑を砕いた。
結果、“祈りを託す器”を失った想いが巫女に集まり、彼女自身が《祈りの亡霊》と化したのだ。
「私は、記憶の中でしか祈れない民のために、“彼らの祈り”を保存してきた。
それを“盗み”と呼ぶなら、あなたは“希望を殺す者”よ」
アメリアは静かに答えた。
「違う。“記録する”ことと、“閉じ込める”ことは違う。
祈りは、風のようなもの。想いが風に乗って広がり、届くかどうかは、誰にもわからない。
でも……風は“止める”ものじゃない。“閉じ込めた瞬間に死ぬ”の」
言葉の応酬の果て、巫女は結界を開放し、こう言った。
「ならば証明してみせよ。神もいない、玉座もないこの地で――“祈りが残る”という奇跡を!」
アメリアは両手を広げ、背中の印に力を注いだ。
「祈りよ、還れ。
すべての想いを、想いの主の心に返せ――《還祈(かんき)の印環》!」
光の風が吹いた。
記憶を失っていた者たちが、涙を流す。
「母のこと……忘れてた……! 祈ってたのに……!」
「俺の願いは、なくなったんじゃなかった……!」
祈りが還った。
奇跡は、“神なし”で起こった。
巫女は、震える声で言った。
「あなたは……いったい……何者なの……?」
アメリアは微笑んだ。
「ただの、祈りを守る者よ。
神ではない。聖女でもない。
けれど、誰かの祈りを、もう一度誰かに届けたいと願う者――」
――――――――――――――――――――
あとがき
この第14話では、“祈りの記憶を封じる国家”双王国ディウ=カレアが舞台となりました。
アメリアは“保存された祈り”を解放し、人が自らの手で祈りを選び取る力を呼び覚ましました。
祈りが「叶うか否か」ではなく、「残るか否か」――
それが今作の中核となるテーマのひとつです。
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