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第15話『王を持たぬ民、神の声を望む時』
しおりを挟む双王国ディウ=カレアにおいて、“祈りの解放”は確かに成し遂げられた。
封じられていた記憶が還り、人々は久方ぶりに“祈る自由”を取り戻した。
けれど――それは、新たな“空白”をも生んだ。
王も、神もいないこの国で、次に何を信じればよいのか。
それを誰も答えられずにいた。
◆1 民の問い、誰が聞く
アメリアが都の広場を歩けば、無数の視線が彼女を追っていた。
誰もが「彼女なら、何か答えを持っている」と信じていた。
だがアメリアは、王にも神にもならないと決めていた。
「君が“声を持つ者”としてこの国に立ってくれれば、民は安心するだろう」
そう言ったのは、青年宰相ミル=セロスだった。
「名目だけでいい。“代祷官(だいとうかん)”という形で。
神に代わって民の声を受け取り、まとめて議会に届ける存在……」
「……代理神のようなものね」
アメリアは静かに呟いた。
「わたしがそれを引き受ければ、また“誰かに祈りを依存する構図”ができる。
そうなればまた、この国は“考えること”をやめてしまうわ」
ミルは苦い笑みを浮かべた。
「君は本当に……神でも聖女でもないのだな。
……それでも、何か“灯”は必要なんだ。
この国は、長く“沈黙”に慣れすぎた。祈りを発する方法すら、忘れてしまったのだから」
◆2 “無音の祈り”と、母娘の声
その夜、アメリアは貧民街に足を運んだ。
神の声を聴くことも、王の保護を受けることもなかった民――
この国の本当の姿が、そこにはあった。
粗末な家。言葉を交わさない子どもたち。
祈るための灯も、信じる名前も失った者たち。
そこで、アメリアは一人の少女に出会った。
名は、ニア。
幼いながらも、彼女は聴覚を持たず、また言葉も話せなかった。
けれど、アメリアの手にそっと触れ、彼女は何かを“伝えた”。
――「だれかに、ありがとうを言いたい」――
それは、声ではなかった。
けれど、祈りだった。
「……ニア。あなたは、祈ることができてる。
たとえ声が出せなくても、“想い”は届いてる」
アメリアは、彼女の手を握り返した。
その晩、アメリアは提案を出した。
《祈りの帳(とばり)》と呼ばれる、“声のない祈り”を記録する施設をつくること。
・言葉を必要としない
・名を記す必要もない
・ただ、誰かの“ありがとう”や“ごめんね”を、無数の灯に託す
神の名前も、王の許しも、いらない。
“それぞれが、自分の想いを記すだけ”。
◆3 声なき者の祭典
一週間後、広場にて《祈りの帳》が開かれた。
白布を垂らした木の骨組みに、小さな灯籠が吊るされる。
民は紙に何かを書き、灯籠に託して灯を灯す。
読み上げられず、記録もされず、ただ“空へ還る言葉たち”。
アメリアはその様子を、端のベンチから静かに見つめていた。
すると、一人の老人が隣に腰を下ろした。
「……あんたが、神を否定した聖女か」
「ええ。そう言われることもあります」
「俺は長い間、誰にも祈らんできた。
妻を失っても、息子を戦で亡くしても。
でも……今夜、初めて“声の出せない祈り”が、自分の中にあると気づいた」
アメリアは微笑んだ。
「それは、“祈る資格”を取り戻したということ。
神がいなくても、人は祈れる。
そしてそれが、“誰かの生きる理由”になれる」
灯が揺れていた。
祈りは言葉ではなく、火となって夜空を満たしていた。
王がいなくても。
神がいなくても。
人々は、こうして“想いを発する力”を思い出し始めていた。
そして翌朝、ミル=セロスは国政会議にて正式に発表した。
「ディウ=カレアは、以後“祈りの表現”を個人の権利として保証する。
神の代理は置かず、王も求めない。
だが、祈ることを望む者には、国はそれを肯定し、護る」
“声のない民”が、自らの祈りを持てる国。
それが、空位の王国が選んだ“新たな答え”だった。
――――――――――――――――――――
あとがき
第15話では、“王も神もいない民”が、自らの祈りを取り戻していく過程を描きました。
とくに「声を持たない者」が「言葉なき祈り」を通して想いを伝えるというテーマは、
この物語の核でもある“祈りの多様性”を象徴する章でもあります。
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ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
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アメリアと共に、祈りを紡いでいただければ幸いです。
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