偽りの聖女は婚約破棄から始まる――最強の復讐劇

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第18話『祈りの墓標、声なき子らの神殿』

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 アヴィス辺境を後にしたアメリア一行は、深い森と霧に包まれた“廃棄聖域”へと向かっていた。
 地図にも記されないその地には、かつて【祈りの子ら】と呼ばれた孤児たちが集い、
 神へと願いを捧げていた**“無言の神殿”**が存在していたという。

 しかし数十年前の内乱で聖域は焼かれ、子どもたちも消えた。
 誰が殺したのか、誰が焼いたのか、いまだ定かではない。

 ただ今もなお――その森には夜ごと声なき祈りが響くという。

◆1 沈黙する森と、嘆く石碑
 その森に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 鳥の声すらない。
 草の葉は乾いているのに、踏めば濡れた音がする。
 風がないはずなのに、耳の奥で子どもの囁き声がする。

 「……ここに“何か”が残ってる」

 アメリアの足は、自然と中央へと向かっていた。
 やがて木々の隙間から、ぽっかりと広場のような場所が現れる。

 そこには、無数の小さな墓標が並んでいた。
 名前は刻まれていない。代わりに、それぞれの墓に“欠片”が添えられている。

 玩具。
 布切れ。
 小さな笛。
 色褪せた花の冠。

 「……これが、“祈りの子ら”の墓……」

 カイルが息をのむ。

 「なぜ、名前が刻まれていない?」

 アメリアはゆっくりと頭を下げ、答えた。

 「この子たちは、“名を持たぬ孤児”だった。
 名を持つ前に死に、誰にも祈られず、ただ“神に縋った記憶”だけが残ってる」

◆2 廃神殿の残響
 森の奥、かろうじて原形をとどめた神殿跡。
 黒く煤けた柱が立ち、瓦礫が苔に埋もれていた。

 アメリアが指先を添えると、微かな魔力の震えが伝わってきた。

 「ここに……祈った記録がある。
 でも、それは“受け止められなかった願い”……残響だけが、石に染み込んでる」

 その瞬間、空気が揺れた。

 辺りに霧が立ち込め、声なき子どもたちの影が立ち上がる。

 ひとり。
 またひとり。
 声を持たない亡霊たちが、神殿跡に集まり、アメリアを取り囲んだ。

 「……わたしに、何を望むの……?」

 彼らは答えない。だがその眼差しは、確かに“問うて”いた。

 ――なぜ、誰も来なかったのか。
 ――なぜ、祈りは届かなかったのか。
 ――なぜ、私たちは忘れられたのか。

◆3 忘却に抗う光
 アメリアは、ゆっくりと両手を広げた。

 「あなたたちの願いは、誰にも届かなかった。
 だけど、わたしはいま、ここにいる。
 神ではない。でも、聖女でもないけれど――祈りを覚えている者として」

 影たちはその場に立ち尽くす。

 「あなたたちの名前は……まだない。
 でも、わたしが“呼ぶ”ことで、記憶が宿るなら……今、わたしが“名を与える”」

 アメリアは、石の棺ひとつひとつに触れていく。

 「この子は、ティナ。
 これは……マリウス。
 こっちは、ネイル……」

 次第に、影たちの表情がほころび始めた。

 小さな手が、アメリアの裾をつかんだ。

 「ありがとう、って……言ってる」

 サラが涙ぐみながら、ぽつりと呟いた。

◆4 名づけと祈りの祝詞
 アメリアは、ひとつの祝詞を口にした。

 「名なき祈りに、いま名を――
 名もなき命に、いま色を――
 忘れられし者に、風の名を――
 いまここに、祈りを還す」

 光が神殿跡を包み、亡霊たちはひとり、またひとりと姿を消していった。

 最後まで残った小さな影が、アメリアの手をとって微笑んだ。

 「……名をもらえて、よかった」

 そう言って、風とともに還っていった。

 その日以降、森に声は戻らなかった。
 だが、アメリアは広場の中央に新たな碑を建てた。

 《忘れられた祈りに名を与える碑》。

 そこにはこう刻まれている。

「名はなくとも、祈りは残る。
祈りは消えても、誰かが覚えていれば、もう一度灯る」

――――――――――――――――――――

あとがき
第18話では、“名前を持たなかった子どもたちの祈り”に向き合う物語を描きました。
声も名前も届かずに死んだ者たちへ、アメリアが与えたのは“名”と“記憶の居場所”です。
祈りが誰にも届かなかったとしても、それを“覚えている者”がいれば、祈りは再び生き返るのだと――。

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