偽りの聖女は婚約破棄から始まる――最強の復讐劇

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第19話『風が語る、祈りの地図』

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 森を離れたアメリアたちは、再び旅路を東へと進めていた。

 だが、それは単なる“移動”ではない。
 彼女にはいま、明確な目的があった。

 それは――

 かつて祈りを失った場所をひとつひとつ結び、
 “祈りの地図”を編み上げること。

 王も神も失ったこの大地に、
 「祈りの軌跡」そのものを遺すことが、彼女に課された使命となっていた。

◆1 祈りの欠片を結ぶ
 「これまで訪れた村や都市、記憶を取り戻した祠、無言の墓標……それぞれの場所に残された祈りを、ひとつに編む」

 アメリアが小さな帳面を開いた。

 そこには、旅の中で訪れた地の名前がすでに十数箇所、記されている。
 ただの地名ではなく、“どんな祈りがあったのか”という内容まで綴られていた。

 「これを“祈りの回廊(プロナティオ・ルート)”として繋げていくのです」

 サラが目を丸くする。

 「まるで巡礼の旅……じゃなくて、“祈りを遺すための旅”?」

 「ええ。私たちは、これから祈りを“発信する側”じゃなく、“記録する側”に回る」

 アメリアの言葉に、カイルも頷いた。

 「失われていく祈りを、そのままにしない。“この世界で確かに誰かが祈った”という証明を、地に刻む……それが君のやり方なんだな」

◆2 地図を描く者との再会
 その途中、彼女たちはある人物と再会する。

 風読みの放浪者――ルティナ=カシュ。
 風の動きから人の感情を読み取り、“風の地図”を描く術師である。

 「また風が、君たちを運んできたね」

 ルティナはかつて、アメリアが無神の村で助けた人物だった。

 「私はいま、風が通った“祈りの痕跡”を集めている。
 風はね、人が願ったとき、必ず揺れるのよ。声に出さなくても、手を合わせなくても」

 アメリアは懐から、今まで描きためた帳面を差し出した。

 「これに、“風の流れ”を記してほしいの。
 “願った人の風”を、地図に刻むことができれば、それは誰にも奪われない証になる」

 ルティナは静かに頷いた。

 「風は、嘘をつかない。願いが本物なら、ちゃんと残ってる」

◆3 祈りが都市を動かす時
 ルティナの風地図とアメリアの祈りの記録が交差したとき、ある“規則”が見つかった。

 同じ祈りが、異なる土地で繰り返されている。

 「……誰かが亡くなった時の祈り」
 「旅立ちの無事を願う祈り」
 「病の癒しを願う祈り」
 「そして、“名を持たぬ誰か”を想う祈り」

 アメリアは言った。

 「この祈りたちには、共通する“魂の形”がある。
 都市や言葉が違っても、“人が祈る理由”は、変わらないのかもしれない」

 それはやがて――
 各都市の代表者たちへ届けられる形となった。

 ミル=セロスをはじめ、各地の指導者に送られたのは、
 「祈りの地図」原本第一稿だった。

 そこには、すべての場所に宿る祈りの形と、風の動線が描かれていた。

 「これは――都市同士を“感情”で結ぶ新たな道だ。
 交易でも軍事でもない、“想いの道”だ……!」

◆4 神ではなく、“記録”が遺すもの
 数日後、アメリアは廃神殿跡にて小さな碑を建てた。

 それは、“神を祀るため”ではない。

 ただ、“この地で誰かが祈った”という記憶の座標を刻むための石碑だった。

 碑の側面にはこう彫られていた。

「願いは、風となって渡る。
言葉は消えても、祈った者がいた事実は残る。
この地に、ひとつの祈りがあった。
名もなく、声もなく、ただ真実だった」

 碑には祈る者の名も、神の名も刻まれていない。

 だが、それを見上げた旅人は口にした。

 「ここで誰かが、誰かを想って祈ったんだな――」

 それだけで、もう“信仰”だった。

――――――――――――――――――――

あとがき
第19話では、アメリアの旅が“世界中の祈りを記録して結ぶ”という新たな段階へと進みました。
単なる信仰や救済ではなく、“誰かが誰かのために祈った”という行為そのものを記録し、後世に残していく――それが、神を持たない聖女の選んだ道です。

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