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第20話『巡礼者たちの帰還、祈りの門前にて』
しおりを挟むそれは、ある早朝のことだった。
アメリアが祈りの碑に水を供え、静かに手を合わせていると、背後から賑やかな気配が届いた。
振り返れば、森の道の奥から十数人の人々が歩いてくる。
彼らは旅装束を纏い、誰もが手に何かしらの“祈りの象徴”を掲げていた。
布切れ、木札、銀の羽根。中には、自作の祈りの書簡を抱える者もいた。
「これは……」
サラが目を見張る。
カイルは周囲を見回し、低く呟く。
「……巡礼者(ピルグリム)たち、か」
アメリアの掲げた“祈りの地図”は、思いのほか早く風に乗り、各地に伝わっていた。
各都市で祈りを失いかけていた人々が、地図を頼りにこの碑を目指し始めたのだ。
◆1 祈りを探す旅のはじまり
巡礼者たちの中に、見覚えのある顔があった。
ノーマの街で子を亡くした母親――フィリア。
アヴィスの砂地で助けた旅信徒――老神官デイル。
かつて“祈りを禁じられた街”でアメリアに声をかけられた少女――ミネ。
彼らは、それぞれの“未完の祈り”を胸に、この場所へ導かれてきた。
「もう一度……祈ってもいいのなら、
もう一度だけ、あの子の名を呼びたい」
フィリアはそう言って、碑に小さな人形を置いた。
「これは、娘が最後に持っていたものです。
ずっと怖くて、見られなかったけど……ようやく、ここに置けました」
アメリアはそっと寄り添い、短く祈りを捧げた。
声にはならない祈り。
けれど風が、その願いを確かに運んでいった。
◆2 “信仰者なき信仰”の代表者
日が昇りきる頃、またひとつの集団が現れた。
彼らは衣に神具も聖印も持たず、ただ簡素な灰色の外套に身を包んでいた。
「……あなた方は?」
一行の中央にいた男が名乗った。
「我々は、信仰者のいない宗派の代表。
祈りを捨て、神を否定し、それでも“何か”を求めていた者たちの声を集めて来ました」
彼らは、かつて信じることを止めた者たちだった。
神殿に裏切られ、教団に追われ、失望の果てにそれでも“誰かを想う心”を手放せなかった者たち。
「この場所が、“それでも祈っていい”と言うなら……
我々はもう一度、失った信仰に形を与えたい」
アメリアはしばし黙し、そして頷いた。
「あなたがたの願いが、“もう信じない”ということなら、
それもまた祈りの形。
でも、もしまた誰かのために手を合わせたいと願うなら、
この地はその“始まりの門”になります」
彼らの目に、初めて涙が宿った。
◆3 巡礼の門と、風の神殿構想
その夜、祈りの碑を囲むように人々が集まった。
焚き火が灯り、風が吹き抜け、静かな唄が小さく流れる。
アメリアは、そこでひとつの提案を行った。
「この場所を“祈りの門”と呼びましょう。
ここから始まり、風の流れに沿って人々が祈りを繋げていけるように。
そして、風が最も集まる高台に――“神殿”を築くのです」
それは、従来の“神を祀る神殿”ではない。
名を持たない祈りたちが集まり、
信じる者も信じぬ者も、思いのすべてを預けられる**“風の神殿(セラエル)”**。
それは、信仰というよりも、“記憶の器”だった。
◆4 帰還者たちが祈りを受け継ぐ
その後、各巡礼者たちは祈りの地図を手に、それぞれの土地へ帰っていった。
フィリアは母子祈願の碑を町の入口に設け、
デイルは小さな集会所で“声なき祈りの夜会”を始め、
ミネは学び舎で“祈りと言葉の授業”を開いた。
どこかに神がいるわけではない。
けれど、祈った記憶が確かに人の暮らしに寄り添い始めていた。
それは、神を再生するのではない。
人が、“祈る力”を回復するということだった。
祈りは、風となってまたひとつ。
次なる希望の地へ向かって吹き渡っていった。
――――――――――――――――――――
あとがき
第20話では、アメリアが残した“祈りの地図”に導かれて集う人々を描きました。
信仰に裏切られた者、祈りを忘れかけていた者、もう一度祈りたかった者。
さまざまな背景を持つ彼らが、“もう一度だけ祈ってもいい”と思える場所――それが、“祈りの門”なのです。
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