婚約破棄はご褒美でした〜異世界でスイーツ職人始めます〜

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第39話:学びたい理由

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 夜。
 店を閉めた後の静けさは、昼間の賑やかさを思い返すには十分すぎるほどだった。

 

 テーブルを拭き終わり、少し息をつく。

 

 (今日も一日、よく頑張ったな……)

 

 自然とそんなことを思えるのは、最近の自分にとって大きな変化だった。

 以前のように、夜がただ不安で寂しいだけのものではなくなっている。

 

 (だって……)

 

 ふと戸口を見る。

 

 そこにはやっぱり、いつものようにレオニードが立っていた。

 「……今日も、お疲れ様です」

 

 そう声をかけると、レオニードは少しだけ目を伏せ、それから視線をこちらに向けた。

 

 「お前こそ……だ」

 

 それだけの短いやり取りが、どうしてこんなにも胸に沁みるのだろう。

 「騎士様?」

 

 私が小さく呼ぶと、レオニードは何かを言い淀むようにわずかに唇を動かし、それから低く息を吐いた。

 

 「……俺は」

 

 「はい?」

 

 「もっと……色々、覚えたい」

 

 「……?」

 

 何を、と尋ねる前に、レオニードは少しだけ眉を寄せながら続けた。

 

 「粉の量り方や……生地のこね方、焼き具合……お前の作るものを、俺も作れるようになりたい」

 その言葉に、胸がひどく熱くなった。

 

 (どうして、って聞く必要なんてない)

 

 だってその瞳は、誰よりもまっすぐにこちらを見ていて。

 きっとそれだけで理由は十分だった。

 「……私のため、ですか?」

 

 思わずそう小さく尋ねると、レオニードは視線を逸らし、耳まで赤く染めた。

 

 「……お前が喜ぶ顔を、もっと見たい」

 

 低く、掠れた声。

 

 それだけの言葉が、どんな甘いお菓子よりも胸を満たしていく。

 気づけば自然に、そっと彼の手に自分の手を重ねていた。

 

 「じゃあ……全部、私が教えますね」

 

 レオニードは驚いたように目を見開き、それからぎこちなく、でも確かに小さく頷いた。

 

 「……頼む」

 

 短いその言葉が、胸の奥を深く撫でていった。

 そっと握った手の中は、少し汗ばんでいて、でもとても温かかった。

 

 (これからもっと、この人のそばにいられる)

 

 そう思うだけで胸が甘く疼いて、小さく息を吐く。

 「楽しみです。騎士様と一緒に作るお菓子」

 

 「……俺もだ」

 

 蝋燭の小さな炎が揺れ、その影が二人をそっと包み込んだ。

 

 これから先のことを思って、自然と唇に微笑みが浮かぶ。
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