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二話 魔界での出会い
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木々が所狭しとそびえ立っている森の中、紫色のローブを目深に被った人物が一歩、また一歩と周囲の様子を探りながらゆっくりと歩いていた。
森に生えている木々はとても背が高いものの、枯れているわけではないがどの木も細くやせている。そして葉が覆い茂っているような木は一本もない。かろうじて何枚かの葉が枝にしがみついているような感じであった。
その理由は空にあった。黒く重苦しい雲で空は覆われ、弱々しく、青白い光を放つ太陽が微かに雲の切れ目からくことが出来た。そして雲の向こうにチラチラと見える空の色はどんよりとした紫色であった。晴れ渡るような青空や眩しいほどに光り輝く太陽、綺麗な白い雲などそこにはなかった。
そう、ここは魔界。魔界に広がる森の中である。
「この辺じゃったかな……」
紫色のローブを目深に被った人物はそう呟きながら立ち止まり周囲を見渡した。声は齢を重ねた男性の物であった。
森の中には獰猛なそうな生き物の鳴き声がいくつも飛び交っているがその人物には全く気にしていない様子であった。
「あれか……? やはり遅かったか?」
老人は視線を一点に止め、一歩ずつ気になったモノに近づいて行った。
「こども……じゃと? まだ小さな子じゃないか? どうして魔界に? しかし、久々に来たのがまさか子供とは思わなかったが……」
近づいていく中でその対象がまだ小さな子供だったことに気づいた。そして老人はうつ伏せに倒れている子供の所まで辿り着き、その目の前に立つと訝しげな様子を見せる。
「魔物に喰われた様子もない。しかし、こんな小さな子供が魔物が徘徊し、瘴気が渦巻く森を数日も生きていられるものか? 門からはだいぶ離れておるしここまで自分で来たとは信じられないが……」
「ん……」
「い、生きておるのか!?」
うつ伏せに倒れていた子供は呻き声をあげた。それを聞いた老人は驚いた様子を見せた後、すぐに紫色のローブから痩せ細り皺だらけの右手を出して、その子にかざした。
「う、うーん。あ、あれ?」
「どうやら意識を取り戻したようじゃの? お主、名はなんという?」
意識を取り戻した子供は顔をあげて、声の方を向いた。そしてずり落ちた眼鏡をかけ直してから名を答えた。
「ぼくはゲイルだよ。あなたが助けてくれたの?」
その言葉に右手をかざし続けながら老人は一つだけ頷いた。するとゲイルは満面の笑みを老人に返したのだった。そしてかざされている老人の右手とゲイルの間の何も無い空間を指さして老人にこう尋ねた。
「ありがとう。んーと、この明るいのはなに?」
「ああ、これは儂の魔力をお主に分けているのじゃよ。この魔界の瘴気に魔力を吸い取られやられていたようじゃからの?」
「瘴気? あーこの茶色の霧かぁ。気持ち悪くてずっと避けてたの」
ゲイルはそう口にして辺りを見渡す。釣られて老人も辺りを見渡すが茶色の霧など目にしなかった。しかしゲイルが嘘を吐いているようには見えなく老人は首を傾げる。
「茶色の霧……? 瘴気が見えているのか……この子には? そんなの聞いたこともないぞ? いや、待て、先程この明るいのと言ったな? やはり何か見えているのか? のうゲイルよ? この光が見えたのじゃな?」
と、老人は右手を指さしてゲイルとの間の空間を指さした。しかし、そこは先程からずっと一切光ってなどいなかった。
「うん! でも今は見えないよ。消えちゃったもの」
その言葉を聞いて老人は唾をゴクリと飲みこんだ。そして興奮気味に勢いよく屈みこみ、ゲイルの両肩を掴む。その勢いで目深に被っていたローブははだけ、顔が顕になった。しわだらけではあるが整った顔立ち、そして尖った細く長い耳。
その顔は少し紅潮している。
「お、お主! マ、マナが見えるのじゃな!」
「マ、マナ?」
ゲイルが首を傾げると、老エルフは少しハッとした表情になった。
「あ、マナと言ってもわからんか……儂が勝手につけた名前じゃからな。そうじゃな。魔力の源を儂はマナと呼んでおる。あくまでそういうモノがあるじゃろう……と儂が推測していたのじゃが……お主、いや、ゲイルはそれが見えると言う。この興奮がわかるか?」
「ごめん。わかんないよ」
「うん。そうじゃな。わからんな。スマンスマン」
老エルフはまるで孫をみるかのように満面の笑みでゲイルを抱きしめ何度も頷いた。そして満足するとゲイルを離して立ち上がってからゲイルに手を伸ばした。
「儂はクロウリー。ゲイルよ。ここに一人でいたら死んでしまう。儂らのところに来るといい」
「うん!」
ゲイルは笑顔で頷きクロウリーの手を取った。そして二人は手を繋ぎながら歩きだした。
森に生えている木々はとても背が高いものの、枯れているわけではないがどの木も細くやせている。そして葉が覆い茂っているような木は一本もない。かろうじて何枚かの葉が枝にしがみついているような感じであった。
その理由は空にあった。黒く重苦しい雲で空は覆われ、弱々しく、青白い光を放つ太陽が微かに雲の切れ目からくことが出来た。そして雲の向こうにチラチラと見える空の色はどんよりとした紫色であった。晴れ渡るような青空や眩しいほどに光り輝く太陽、綺麗な白い雲などそこにはなかった。
そう、ここは魔界。魔界に広がる森の中である。
「この辺じゃったかな……」
紫色のローブを目深に被った人物はそう呟きながら立ち止まり周囲を見渡した。声は齢を重ねた男性の物であった。
森の中には獰猛なそうな生き物の鳴き声がいくつも飛び交っているがその人物には全く気にしていない様子であった。
「あれか……? やはり遅かったか?」
老人は視線を一点に止め、一歩ずつ気になったモノに近づいて行った。
「こども……じゃと? まだ小さな子じゃないか? どうして魔界に? しかし、久々に来たのがまさか子供とは思わなかったが……」
近づいていく中でその対象がまだ小さな子供だったことに気づいた。そして老人はうつ伏せに倒れている子供の所まで辿り着き、その目の前に立つと訝しげな様子を見せる。
「魔物に喰われた様子もない。しかし、こんな小さな子供が魔物が徘徊し、瘴気が渦巻く森を数日も生きていられるものか? 門からはだいぶ離れておるしここまで自分で来たとは信じられないが……」
「ん……」
「い、生きておるのか!?」
うつ伏せに倒れていた子供は呻き声をあげた。それを聞いた老人は驚いた様子を見せた後、すぐに紫色のローブから痩せ細り皺だらけの右手を出して、その子にかざした。
「う、うーん。あ、あれ?」
「どうやら意識を取り戻したようじゃの? お主、名はなんという?」
意識を取り戻した子供は顔をあげて、声の方を向いた。そしてずり落ちた眼鏡をかけ直してから名を答えた。
「ぼくはゲイルだよ。あなたが助けてくれたの?」
その言葉に右手をかざし続けながら老人は一つだけ頷いた。するとゲイルは満面の笑みを老人に返したのだった。そしてかざされている老人の右手とゲイルの間の何も無い空間を指さして老人にこう尋ねた。
「ありがとう。んーと、この明るいのはなに?」
「ああ、これは儂の魔力をお主に分けているのじゃよ。この魔界の瘴気に魔力を吸い取られやられていたようじゃからの?」
「瘴気? あーこの茶色の霧かぁ。気持ち悪くてずっと避けてたの」
ゲイルはそう口にして辺りを見渡す。釣られて老人も辺りを見渡すが茶色の霧など目にしなかった。しかしゲイルが嘘を吐いているようには見えなく老人は首を傾げる。
「茶色の霧……? 瘴気が見えているのか……この子には? そんなの聞いたこともないぞ? いや、待て、先程この明るいのと言ったな? やはり何か見えているのか? のうゲイルよ? この光が見えたのじゃな?」
と、老人は右手を指さしてゲイルとの間の空間を指さした。しかし、そこは先程からずっと一切光ってなどいなかった。
「うん! でも今は見えないよ。消えちゃったもの」
その言葉を聞いて老人は唾をゴクリと飲みこんだ。そして興奮気味に勢いよく屈みこみ、ゲイルの両肩を掴む。その勢いで目深に被っていたローブははだけ、顔が顕になった。しわだらけではあるが整った顔立ち、そして尖った細く長い耳。
その顔は少し紅潮している。
「お、お主! マ、マナが見えるのじゃな!」
「マ、マナ?」
ゲイルが首を傾げると、老エルフは少しハッとした表情になった。
「あ、マナと言ってもわからんか……儂が勝手につけた名前じゃからな。そうじゃな。魔力の源を儂はマナと呼んでおる。あくまでそういうモノがあるじゃろう……と儂が推測していたのじゃが……お主、いや、ゲイルはそれが見えると言う。この興奮がわかるか?」
「ごめん。わかんないよ」
「うん。そうじゃな。わからんな。スマンスマン」
老エルフはまるで孫をみるかのように満面の笑みでゲイルを抱きしめ何度も頷いた。そして満足するとゲイルを離して立ち上がってからゲイルに手を伸ばした。
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