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私は息を切らせながら目の前を走るアルト兄さんに声をかけた。
「大丈夫! こっちよ! ハッ! ハッ!」
「お、おう! ハッ! ハッ!」
するとアルト兄さんも返事をしてくれる。後ろ向きに走りながら。
そう、目の前にいるのにこっちと声もかけるのもおかしい話だ。普通なら前にいる人間がこっちだと声をかけるのだから。
でも、今の私たちはそれで合っている。なぜなら私がアルト兄さんの後ろを、後ろ向きに走っているのだから。
で、私の目の前をアルト兄さんが後ろ向きに走っている。傍から見ると、中々シュールな光景であるが、生き残る為にはそんなこと言ってられない。持っている知識はフルに活用しないとね。
「頑張って! ハッ! ハッ!」
「ああ! しかし、まだ着かないのか? ハッ! ハッ!」
「ダメ! 振り向かないで! 今、半分を過ぎたところくらいよ! ハッ! ハッ!」
「あ、ああ、スマン! しかし、まだ半分か! ハッ! ハッ!」
私は振り向いて私に話しかけようとするアルト兄さんに、振り向かないように注意を促した。不安になる気持ちもわかる、が、元々そういう約束で走っている。だから、それを思い出したアルト兄さんは謝ってくれたのだった。絶対にこっちを見ないように、と。
私はあの門からマチルダまでの距離も方向もわかる。だから後ろ向きで走っても到着することは出来る。だけど、アルト兄さんは違う。だから私が先導し、しかも声で誘導しながら後ろ向きに走っているのだった。
声をかけながらってのは、正直言ってなかなかキツいけどね。一人だったら後ろ向きで走ればいいだけ。だからそんなキツく無いかもなんだけど。まぁ、この際それを言ってられないし、その分アルト兄さんには、私には出来ない分野で役立って貰いましょ。
なーんてことを考えながら後ろ向きに走り続けていると、今度はアルト兄さんが私に話しかけてきた。
「アイラ! 確かにお前の言う通りなのかもな! 強そうなモンスターは視界に入ってくるが、追いかけてくる素振りが見えない! ハッ! ハッ!」
「でしょ! とりあえずマチルダに着くまでだから我慢して! ハッ! ハッ!」
そう、アルト兄さんの言う通り、目の前に広がる大草原。その所々にチラリとモンスターが現れるが、後ろ向きに走っている為遠ざかっていく。その繰り返しだった。
そもそもなぜ後ろ向きに走っているのか。それは敵と戦わない為。私ほどじゃないけど、アルト兄さんのステータスも貧弱すぎる。しかも今はバグ技を使ってここにいる。ここはストーリー中盤以降で訪れる場所だから、モンスターも強くなっている。そう、さっきのダンジョンで出てきたモンスターよりもね。あそこでも簡単に死ねる、だからこんな所で戦ったら骨も残らないと言っても過言じゃない。それほど段違いの強さに違いがあるくらいにはね。だからモンスターと戦わないで済むように後ろ向きに走っているのだった。
ちなみになんで後ろ向きに走ればモンスターと戦わないでいいかと言うと、このゲーム、フィールド上のモンスターはプレイヤーの視界の延長線上にポップする。前を向いて歩くとその前方に。仲間に話しかけようと振り向くと、振り向いた先にポップするのである。前方に現れたモンスターは、そのまま前に進めば戦わざるをえないし、後ろに現れたモンスターには、その間に距離を詰められて背後から襲われる。そういう仕組みなのだ。
だからアルト兄さんにはこんな異常な状況を文句ひとつも言わずに受け入れてくれているのだった。
ま、アルト兄さんには何故か、って話は省いてる。で、絶対に私の方を見ないで私の声のする方に向かって後ろ向きに走ってね、としか話してないけどね。絶対に開かない門を押して動かすなんて非常識なことをやって見せたもんだから、疑問を感じた表情は浮かべたけど、今回はすんなり受け入れてくれて話しが早かったのは幸いだったわ。
「っとと! もう大丈夫だわ。アルト兄さん! もうこっち向いていいわよ」
「あ、ああ? ほ、本当の大丈夫なんだな?」
私はもう敵がポップしない場所まで辿り着いたので、アルト兄さんにそう声をかけた。だけど、少し疑ったような言葉が返ってきた。それも無理はない。だって、見たことの無い強そうなモンスターの数々を見ながら走っていたのだから。
「大丈夫だって。私だって死にたくないしね。アルト兄さんを騙して良いことなんか一つも無いわ」
勿論私だって冗談は言う事もある。でも、それが私やアルト兄さんの命に関わることだったら言う理由なんかない。だからそう言葉を返した。
「それもそうか。おお、ここがマチルダか」
「そう、この水路に囲まれている城壁の抜こうがマチルダよ」
アルト兄さんは振り返ると、私の背後にあるマチルダに視線を送って感嘆の声をあげた。それは無事に着いたことや、初めて訪れる都市であること、様々な思いから漏れた声なのであろう。
「さ、入口はあっちよ。さっさと中に入りましょ」
私はそんなアルト兄さんの手を引っ張り、都市の入口まで向かって行くのだった。
「大丈夫! こっちよ! ハッ! ハッ!」
「お、おう! ハッ! ハッ!」
するとアルト兄さんも返事をしてくれる。後ろ向きに走りながら。
そう、目の前にいるのにこっちと声もかけるのもおかしい話だ。普通なら前にいる人間がこっちだと声をかけるのだから。
でも、今の私たちはそれで合っている。なぜなら私がアルト兄さんの後ろを、後ろ向きに走っているのだから。
で、私の目の前をアルト兄さんが後ろ向きに走っている。傍から見ると、中々シュールな光景であるが、生き残る為にはそんなこと言ってられない。持っている知識はフルに活用しないとね。
「頑張って! ハッ! ハッ!」
「ああ! しかし、まだ着かないのか? ハッ! ハッ!」
「ダメ! 振り向かないで! 今、半分を過ぎたところくらいよ! ハッ! ハッ!」
「あ、ああ、スマン! しかし、まだ半分か! ハッ! ハッ!」
私は振り向いて私に話しかけようとするアルト兄さんに、振り向かないように注意を促した。不安になる気持ちもわかる、が、元々そういう約束で走っている。だから、それを思い出したアルト兄さんは謝ってくれたのだった。絶対にこっちを見ないように、と。
私はあの門からマチルダまでの距離も方向もわかる。だから後ろ向きで走っても到着することは出来る。だけど、アルト兄さんは違う。だから私が先導し、しかも声で誘導しながら後ろ向きに走っているのだった。
声をかけながらってのは、正直言ってなかなかキツいけどね。一人だったら後ろ向きで走ればいいだけ。だからそんなキツく無いかもなんだけど。まぁ、この際それを言ってられないし、その分アルト兄さんには、私には出来ない分野で役立って貰いましょ。
なーんてことを考えながら後ろ向きに走り続けていると、今度はアルト兄さんが私に話しかけてきた。
「アイラ! 確かにお前の言う通りなのかもな! 強そうなモンスターは視界に入ってくるが、追いかけてくる素振りが見えない! ハッ! ハッ!」
「でしょ! とりあえずマチルダに着くまでだから我慢して! ハッ! ハッ!」
そう、アルト兄さんの言う通り、目の前に広がる大草原。その所々にチラリとモンスターが現れるが、後ろ向きに走っている為遠ざかっていく。その繰り返しだった。
そもそもなぜ後ろ向きに走っているのか。それは敵と戦わない為。私ほどじゃないけど、アルト兄さんのステータスも貧弱すぎる。しかも今はバグ技を使ってここにいる。ここはストーリー中盤以降で訪れる場所だから、モンスターも強くなっている。そう、さっきのダンジョンで出てきたモンスターよりもね。あそこでも簡単に死ねる、だからこんな所で戦ったら骨も残らないと言っても過言じゃない。それほど段違いの強さに違いがあるくらいにはね。だからモンスターと戦わないで済むように後ろ向きに走っているのだった。
ちなみになんで後ろ向きに走ればモンスターと戦わないでいいかと言うと、このゲーム、フィールド上のモンスターはプレイヤーの視界の延長線上にポップする。前を向いて歩くとその前方に。仲間に話しかけようと振り向くと、振り向いた先にポップするのである。前方に現れたモンスターは、そのまま前に進めば戦わざるをえないし、後ろに現れたモンスターには、その間に距離を詰められて背後から襲われる。そういう仕組みなのだ。
だからアルト兄さんにはこんな異常な状況を文句ひとつも言わずに受け入れてくれているのだった。
ま、アルト兄さんには何故か、って話は省いてる。で、絶対に私の方を見ないで私の声のする方に向かって後ろ向きに走ってね、としか話してないけどね。絶対に開かない門を押して動かすなんて非常識なことをやって見せたもんだから、疑問を感じた表情は浮かべたけど、今回はすんなり受け入れてくれて話しが早かったのは幸いだったわ。
「っとと! もう大丈夫だわ。アルト兄さん! もうこっち向いていいわよ」
「あ、ああ? ほ、本当の大丈夫なんだな?」
私はもう敵がポップしない場所まで辿り着いたので、アルト兄さんにそう声をかけた。だけど、少し疑ったような言葉が返ってきた。それも無理はない。だって、見たことの無い強そうなモンスターの数々を見ながら走っていたのだから。
「大丈夫だって。私だって死にたくないしね。アルト兄さんを騙して良いことなんか一つも無いわ」
勿論私だって冗談は言う事もある。でも、それが私やアルト兄さんの命に関わることだったら言う理由なんかない。だからそう言葉を返した。
「それもそうか。おお、ここがマチルダか」
「そう、この水路に囲まれている城壁の抜こうがマチルダよ」
アルト兄さんは振り返ると、私の背後にあるマチルダに視線を送って感嘆の声をあげた。それは無事に着いたことや、初めて訪れる都市であること、様々な思いから漏れた声なのであろう。
「さ、入口はあっちよ。さっさと中に入りましょ」
私はそんなアルト兄さんの手を引っ張り、都市の入口まで向かって行くのだった。
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