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第1章 帝国編
11話 なんやかんや
しおりを挟む「ねぇ、考え直さない?」
「ダメよ、ずっと貴方に乗せてもらうなんて出来ないもの」
あれから何十分か経ったが、未だに私たちはガイル湖付近にとどまったままだった。
何故かと言うと、何度もこのような問答を繰り返しているからだ。
「じゃあこの先ずっと、貴方が何処へ行くにも私を連れて行ってくれるって言うの?そんなの無理よ!」
「無理じゃない!」
なんだか、告白みたいに聞こえなくは無いが、今はそんなこと言ってられないので、私は真剣に彼、そういえばリヒトと言ったか、リヒトに真面目に言ったのだ。
すると、先程までの困ったような顔が一瞬で真面目な顔へと変わった。
彼はその金色の瞳に私を映しながら口を開いた。
「無理なんかじゃないよ...俺は本気だ、確かに俺たちは出会ったばかりだから、信じてもらえないのも分かってはいるんだ、だけどこの...君への想いだけは否定しないで欲しい...」
そう言って少し眉尻を下げながら、泣きそうな顔をした。
「ごめんなさい...人からの好意が分からなくて...理屈では理解しているのだけど、信じられなくて、信じたくなくて...それで...」
「...お前は道具でしかないのだから人間として生きようとするな」
「公爵家の子供として生まれていなければお前は使用人以下の存在だ」
何年も何年もそう言われ続けたせいで、今更向けられた好意を素直に受け取れるほど、私は純粋じゃなくなってしまったのだ。
日本の知識や経験がある分、自分の今の状態がどう言ったものか分かってはいる。
けれど、前世を思い出す前までは悪役令嬢のエリシア・ラズヴェルトとして生きてきたのだからその性格が直ぐに変わるわけもなかった。
「...それで」
ポツリと静かな、それでいてどこか迷子の子供のような声が自分の口から零れ落ちる。
「...ごめんね、君を困らせたくはないんだ、だからそんな泣きそうな顔をしないで」
そう言って剣だこのついた大きな手が私の頬を包み込む。
「...ねぇ、どうしら君は笑ってくれる?俺は君の笑顔が見たいよ...エリシア」
辛そうに顔を歪めたリヒトがエリシアと辛そうに名前を呼んだ。
その事に驚くとともに、涙が一筋頬を伝った。
「...名前、覚えていたのね、リヒト」
「...!!、君もじゃないか」
伝った涙をリヒトがそっと掬いとる。
「ふふっ、そうね、なんだか呼んでみたくなっちゃった」
「あぁ~、なんで君はそう俺を殺しにかかるんだろうね」
「あら大変、あなた今死にそうなの?」
「あぁ、なんだか君を見てると妙に動悸が早くなるんだ、病気かもしれない」
そう言って「うっ」とわざとらしく苦しそうに呻き声をあげる。
「まぁ、それじゃあ病院に行かなきゃならないわね」
すかさず私がそう言えば、「いや、病院より君のそばにいた方が治るのが早そうだ」と言って、空いていた片方の手を私の指に絡めてきた。
「それ、意味なくない?」
「確かに」
ぷっとお互いに吹き出す。
先程の悲しい雰囲気が一気に明るくなった。
私は「ふふっ」と軽く笑うと、リヒトの目をしっかりと見つめながら口を開いた。
「...一緒に冒険、してもいいわよ」
「貴方となら楽しそうだもの」と言って笑いかけると、当の本人は頬を紅くして、その目が溢れんばかりに見開かれた。
「ちょ、ちょっと待って、え、本当に?俺とバディ組んでくれるの?...ぇぇ、やばい、凄い嬉しい」
そう言って、恥ずかしそうに顔を逸らした。
「...そんなに照れること?」
「いや、別にそれに対して照れてる訳じゃなくて、君の笑顔が凶器というか...」
「...誰の笑顔が凶器ですって?」
「いや、それは言葉の綾であって...別に君の笑顔が凶器そのものというわけでは...」
「へぇ、そうですか、分かりました、バディは解消しましょう」
「はぁ!?ちょっと待って、それだけはやめて、お願い!!!」
さっきまでの照れ顔はなりを潜め、今はただ必死な形相で脂汗を流している。
「...」
なんだか、こんなふうに会話するのが楽しいと、そう思えている時点で、私も少なからず彼に惹かれているのかもしれないしれない。
「もう、冗談よ...ふふっ、褒めてただけでしょ?私の顔は整ってるもの」
「あ、それ自分で分かってたんだね、でもそれを自分から言っちゃうのもいい...」
「もう何言ってるの、さっさと行くわよ?連れていってくれるんでしょ?」
「もちろん!!任せてくれ」
こんなにもコロコロと表情が変わるものかとビックリする反面、ちょっと犬みたいだな...と思い始める。
まるで主人の言葉に一喜一憂する犬のような...いや待ってさすがにリヒトが年上だったら失礼よね。
そう思って聞いてみる。
「そう言えばリヒト、あなたって何歳なの?」
「ん?昨日で24歳になったよ」
「えぇ!?あなた昨日誕生日だったの?」
「誕生日?誕生日だと何かあるの?」
あぁ、そうね、ゲームのキャラじゃないリヒトは日本の知識がないから、誕生日を知らないのだわ。
ゲームじゃもちろん誕生日イベントというものがあって、攻略対象も他の、それこそ王国中の人々が知っていたはず、もしかしたらあの国だけがゲームの舞台になっていて、そのほかの国々の人々はそもそもの世界の成り立ちが違うのかもしれない。
うーん、ちょっと考えれば考えるほど難しいことのように思えるので、とりあえずそこら辺を考えるのは後回しにしようと思い、思考を切り変えた。
「えぇ、私のいた国じゃみんなから贈り物を貰ったりしてお祝いされるのよ」
「そうなんだね、逆に俺は君に贈り物をしたいな」
「それは遠慮しておくわ、とりあえず先に買い物に行きましょう?」
「...えぇ?」
困惑気味なリヒトの手を引っ張って屋台の並ぶレンガ通りを進む。
そんな私をリヒトは楽しそうに見ていたのだが、私はまたもお上りさんのごとく色々なものに瞳を輝かせていたので気が付つことはなかったのだった。
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