断罪された悪役令嬢は冒険者となって自由に生きることにした。

氷雨

文字の大きさ
13 / 13
第1章 帝国編

12.5話 在りし日のエリシア

しおりを挟む
幼い頃。
私は両親から愛情を貰えない事を知った。

「ねぇ、どうしておかあさまとおとうさまはわたしとあってくれないの?」

「それは...とてもお忙しいからです、それにこうして誕生日プレゼントをくださるじゃありませんか、それ以上を望んでは公爵様たちに酷というものです」

「...そう、じゃあがまん...するわ」

毎年毎年、そうして執事に聞いては同じように忙しいからとはぐらかされた。

そんな風に年月を重ねていくと次第に自分は愛されていないのだと理解する。
私だけこんな離れに住まわせるのも、使用人が2人しかいないのも、全部全部私に存在価値がないからだ。
それでもこうして生きているのは何かしらの取引材料になるからだろう。

そう腹を括っていると、案の定アルフレッド王子との縁談が舞い込んできた。
特に顔合わせもなしに婚約は成立し、その日から週5日、お城に登城する日々が始まった。


毎日毎日、心を殺しながら教育を受ける。

次第に心は疲弊し、笑うことができなくなっていった。

そんな荒れた日々に転機が訪れたのが、6歳の時だった。

「よくやった、さすが私の娘だ」

そう言ってお父様が笑顔で頭を撫でてくれた。
涙が出そうなほど嬉しかったけど、なぜだか一滴も流れることはなかった。

「この調子で殿下をお支えしろ」

「はいお父様!...えっと、またこうして逢いに来てもいいですか」

「あぁ、構わないが、最近は忙しいからな、今度にしてくれるか」

そう言って頭に置かれた手が離れていく。

「...分かりました...では私の誕生日はどうでしょうか...ちょうど今日から1ヶ月後なのですが」

「あぁ、そうだったね、誕生日...しかし困ったな、その日は用事があるんだ」

「そう、ですか...では他の日に、今度執事を通して予定をお伝えします」

「あぁ、そうしてくれ」

バタンと扉の音がしたと思った時には、私はお父様といた執務室を出されていた。

6年待ってようやく訪れた再会はあっけなく終わった。少し悲しく思ったが、何より会えたことを嬉しく思った。

頭を撫でてもらった。褒めて、笑いかけて、流石だと、今までの血のにじむような努力を認めてもらえた。それが嬉しくて、嬉しすぎて、胸が酷く傷んだ。

これが親からの愛情なのだと、私はその日ようやく理解した。




その一年後、私は初めて殿下と会うことになった。

「アルフレッド殿下、本日はどのような御用でしょうか」

「君がエリシアか、僕のことはどうかアルフと呼んでくれ」

「アルフ...良いのですか?私が愛称で呼ばせていただいても...」

「構わない...君に呼んでもらいたいんだ」

そう言ってまだ幼い私の手を取り、その甲にキスをされた。

嬉しかった。
自分の愛称を呼ばせるほど私の存在を受け入れてくれたのだと、そう思えた。

アルフはそれから毎日のように私のいる客室までやってきた。
次第に仲はどんどん良くなっていって、アフルと共に授業を受けることになったのだ。


「ではアルフレッド様、こちらの問題はどのように解くのか、教えてもらえませんか?」

「それは...分からない」

「そうですか...では、エリシア様はどうですか?」

「はい、この問題は両方のゼロを消して考えるととても簡単な問題です、答えは16になります」

「正解です!エリシア様は本当に賢いですね...殿下もエリシア様を見習ってもっと真面目に勉強に取り組みましょうね」

「あ、あぁ...そうだな」


しかし、長くは続かなかった。
私が殿下よりも優秀であったことで、アルフ様の劣等感を刺激してしまったのだ。
剣術も同様であった。

算術や歴史学などをアルフとともに勉強していた私は勿論剣術や体術、魔法至るまで全て同じ授業を受けていた。

そして、その全てて私がアルフよりも秀でていることがわかったのだ。

私はそのことを分かっていながらわざとアフルに手加減はしていなかった。
なぜならこのような成績は父の元に送られるとわかっていたからだ。
半端な成績をとったらきっと幻滅される。それが怖くて本気で授業を受けていた。
また会いたい。会ってまた褒めてもらいたい。頭を撫でて流石は私の娘だと褒めてもらいたい。

だから私は必死に頑張ったのだ。

それがアルフを怒らせる原因になろうとも。
嫌われるとわかっていながらもそうするしかなかった。

今ならそれが馬鹿な行いだと思える。
けれど小さい頃の私にはそれがまだ分からなかったのだ。




14歳になるとアルフと共に貴族の学校に入学した。宿舎で暮らすようになるため、身の回りの世話を兼ねてジェインを連れていくことになった。

教室では孤立し、友人は1人としてできることはなかったが、ジェインがいてくれたので辛くはなかった。時々学校が休みの日はジェインと共に街に遊びに行ったこともあった。とても楽しい思い出だ。


けれど、学校に戻ればまた同じ日常が戻る。宿舎を出れば、傾国の美女として名を馳せた母の出来損ないとして、影では傾国の醜女と言われた。
ヒソヒソと話すのではなく、堂々と言われ続けた。
どうやら発生源はアルフのようで、アルフを擁護する生徒たちがこぞってそのあだ名を影で広めていった。

宿舎にお留守番しているジェインには知られたくなかったから必死に黙っていた。
影でただ悪口を言われるだけなら我慢できたし、それほど辛くはなかった。けれどそんな私の態度が状況を悪化さたようで、仮にも公爵令嬢である私に子爵位の女学生達がこぞって嫌がらせをしてくるようになった。

きっと誰か高位の貴族に命じられたのだろう、そう思って気に止めていなかったのに、ある日を境に本当の意味で嫌悪や憎悪を向けられるようになってしまった。

「あなたがアルフの婚約者ね、よくもアルフを...!!」

そう言って熱湯をかけられたことがあった。
名はシャーロット・エリンジャー。エリンジャー子爵家の娘で、アルフが最近溺愛してある娘でもあった。


立派な傷害罪であったが、私は特に咎めずその日は濡れた制服のまま宿舎に帰った。

初めて授業を休むことになった。
それだけが何より怖かった。きっとお父様にその話が行ったはず、不良な娘だと、そう思われそうで酷く怖くなった。

宿舎に帰ると酷くジェインに怒られ、何があったのかと追求されたが、今にも犯人を殺しに行きそうなジェインがあまりにも危なそうだったので(主に犯人が)必死に宥めているうちに全てがどうでも良くなってしまった。

案の定その日の夜は熱を出してしまい、次の日も学校を休む羽目になった。
それと同時に、実家から私宛の手紙が届いた。

内容は学校を休むなということと、殿下の婚約者の席をなんとしても守れというものだった。
そこに私を心配する項は書かれていなかった。

病み上がりの状態で学校に登校すると、朝からまたシャーロット嬢に絡まれた。

「いい加減にして!アルフがどれだけ貴方に苦しめられてきたと思ってるのよ!そろそろ付きまとうのを辞めたらどう!?」

そう言って後ろに男爵家の令息達を侍らせながらかな切り声で怒鳴ってきたのだ。

「付きまとってはおりません、もしそう見えるのなら私は殿下に近づきませんのでご安心くださいませ」

「近づかないと言うなら婚約を解消しなさいよ!!この売女!」

そういえば最近、傾国の醜女から売女と呼ばれ始めたのだった、と思い出しながら私は口を開く。

「婚約は解消いたしません、申し訳ありませんが、諦めてください」

そう言って腰を曲げながら謝ると、バンッと思いっきり頭を横から叩かれた。

ぐらぐらと頭が揺れ、思うように立てないでいると、すかさず取り巻きの男たちが次々に殴ってきた。


全身が痛くて、熱くて、辛かった。
けれど婚約の解消だけは絶対にやめて欲しかった。

それをしてしまったら本当に私の存在価値がなくなってしまう。


それが恐ろしくて、滲む血を飲み込みながらも必死に耐えた。

「この!この!...早くッ、居なくなれッ!」


鉄錆の液体が口の中に広がる。
私はまだ生きてる。
生きていられる。

だから耐えなくては。

「死ね!売女風情の人間が!ただの人形のくせに人間ぶりやがって、さっさと居なくなれ!!」

アルフに向けられる優しい表情が嘘であるかのように、彼女は怒りの滲んだ顔をして手を振り上げる。

何故こんなにも彼女は怒っているのだろう。
私は殿下に近づくことはおろか、クラスメートの1人にさえ近づくことは出来ないのに。


涙は出ない。
出し方を忘れてしまったように枯れたままだ。



あぁ、今日も平和だ。

今日もまた生きている。

まだ生きてるならきっと役に立てる。

だから耐えよう。

きっと、幸せが待っているはずだから。




しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

無能と追放された魔導鍛冶師、最強の騎士に拾われ溺愛される

ムラサメ
恋愛
​「君の打つ剣は輝きが足りない。もっと華やかに光る、騎士団の象徴となる剣を打てないのか」 ​実家の鍛冶屋からも、婚約者である騎士団長カイルからも「無能」と切り捨てられた鍛冶師・メル。不純物を削ぎ落とし、使い手の命を守るためだけに特化した彼女の「究極の業」は、美しさを求める凡夫たちには理解されなかった。 ​冷たい雨の中、行き場を失い魔物に襲われた彼女を救ったのは、隣国の至宝であり、その強すぎる魔力ゆえに触れる武器すべてを粉砕してしまう最強の騎士――アルベールだった。 ​圧倒的な武力で魔物を屠り、砕けた愛剣を悲しげに見つめるアルベール。周囲がその「化け物じみた力」を恐れて遠巻きにする中で、メルだけは違った。彼女は泥にまみれた鉄の破片を拾い上げ、おっとりと微笑む。 ​「……騎士様。この子は、あなたの力に応えようとして、精一杯頑張ったみたいですよ」 ​その場で振るわれたメルのハンマーが、世界で唯一、アルベールの全力を受け止める「不壊の剣」を産み落とした瞬間――最強ゆえに孤独だった英雄の運命が、狂おしく回り始める。

虚弱体質で偽聖女だと追放された私は、隣国でモフモフ守護獣様の白き聖女になりました

・めぐめぐ・
恋愛
平民孤児であるセレスティアルは、守護獣シィに力を捧げる【聖女】の一人。しかし他の聖女たちとは違い、儀式後に疲れ果ててしまうため「虚弱すぎる」と、本当に聖女なのか神殿内で疑われていた。 育ての親である神官長が拘束され、味方と居場所を失った彼女は、他の聖女たちにこき使われる日々を過ごす。そしてとうとう、平民が聖女であることを許せなかった王太子オズベルトによって、聖女を騙った罪で追放されてしまった。 命からがら隣国に辿り着いたセレスティアルは、そこで衰弱した白き獣――守護獣ラメンテと、彼と共に国を守ってきた国王レイと出会う。祖国とは違い、守護獣ラメンテに力を捧げても一切疲れず、セレスティアルは本来の力を発揮し、滅びかけていた隣国を再生していく。 「いやいや! レイ、僕の方がセレスティアルのこと、大好きだしっ!!」 「いーーや! 俺の方が大好きだ!!」 モフモフ守護獣と馬鹿正直ヒーローに全力で愛されながら―― ※頭からっぽで

婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活

ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。 しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。 「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。 傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。 封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。 さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。 リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。 エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。 フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。 一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。 - 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛) - 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛) - 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛) - もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛) 最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。 経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、 エルカミーノは新女王として即位。 異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、 愛に満ちた子宝にも恵まれる。 婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、 王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる―― 爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!

捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ
恋愛
 十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。  元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。  そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。 「陛下と国家に尽くします!」  シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。  そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。  一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。 しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。 破滅を回避するために決めたことはただ一つ―― 嫌われないように生きること。 原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、 なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、 気づけば全員から溺愛される状況に……? 世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、 無自覚のまま運命と恋を変えていく、 溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。

天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!

灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ? 天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?

処理中です...