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裸で横たわった布団から、彼の匂いがした。
これまでずっとカウンター越しで、挨拶と注文以上の会話を交わしたのも初めてのくせに、幾度か近づいた瞬間に感じた匂いが心に刻まれている。
美味しそうなラーメンの匂いに隠れた危険な雄の匂い。
本人は菜穂に背中を向けて、押入れを漁っている。
明かりは消され、細いルームライトが押入れの横に置かれていた。
暗闇に男性の裸体が照らし出される。
浅黒く引き締まった肌、しなやかな長い手足、Tシャツの上からでもはっきりしていた肩甲骨が、裸の背中で動いていた。
(いいなあ……)
男と女は違うとわかっていても、引き締まった臀部が羨ましい菜穂だった。
寝転がって彼のお尻を観賞しているのが恥ずかしくなって、布団の上に正座する。
「将馬さん、なにかお探しですか?」
手伝えることがあるかもしれない。
彼は吹き出して、背中を向けたまま答えた。
「ゴム。あんた持ってる?」
「す、すいません。持ってません」
「口説きに来といて、そんなことじゃダメだぜ。まあ俺もしばらくご無沙汰だったからって、男の嗜みの置き場所忘れてるようじゃ……あ、財布ん中だ」
立ち上がり、さっき脱いだジーンズへ駆け寄る将馬から目を逸らす。
盛り上がった胸襟もそれを支える八つに割れた腹筋も魅力的だけれど、それより下は刺激が強すぎる。
(あのこと、話しておいたほうがいいのかな……)
菜穂が結論を出す前に、将馬の声が思索を破った。
「ヤベえ、一個っきゃねえ」
「え?」
「いや、ゴムが一個しかないんだよ。ここんとこ買ってなくて。商店街のドラッグストアはもう閉まってるよな。オフィス街のコンビニまで行ってくるか」
「え、あの、ひとつあれば充分ですよね?」
「そうか?」
小さな四角い避妊具の袋を手にした将馬の視線が、菜穂の裸体で止まる。
ここまで来て胸を隠すのもどうかと思い、腕を下に降ろす。
(結婚式の後で良かった)
久しぶりに会う友達に情けない姿は見せられない。
今週は美容室とエステに通い、アパートでも美容体操をかかさなかった。
中肉中背ややぽっちゃりのつまらない体も、少しはマシになっているはずだ。
同窓会のたびにクラスメイトに忘れられている平凡な顔も、二階に上がる前、トイレを借りて化粧直しを済ませている。
イヤリングだけは外してなくて、今も耳元でしゃらしゃらと鳴っていた。もちろん魔法なんて信じているわけではないのだけれど。
「俺は足りねえと思うな」
笑みを浮かべた彼が覆いかぶさってくる。
大きな体の重みを感じても、不思議と怖くは感じなかった。
これまでずっとカウンター越しで、挨拶と注文以上の会話を交わしたのも初めてのくせに、幾度か近づいた瞬間に感じた匂いが心に刻まれている。
美味しそうなラーメンの匂いに隠れた危険な雄の匂い。
本人は菜穂に背中を向けて、押入れを漁っている。
明かりは消され、細いルームライトが押入れの横に置かれていた。
暗闇に男性の裸体が照らし出される。
浅黒く引き締まった肌、しなやかな長い手足、Tシャツの上からでもはっきりしていた肩甲骨が、裸の背中で動いていた。
(いいなあ……)
男と女は違うとわかっていても、引き締まった臀部が羨ましい菜穂だった。
寝転がって彼のお尻を観賞しているのが恥ずかしくなって、布団の上に正座する。
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「ゴム。あんた持ってる?」
「す、すいません。持ってません」
「口説きに来といて、そんなことじゃダメだぜ。まあ俺もしばらくご無沙汰だったからって、男の嗜みの置き場所忘れてるようじゃ……あ、財布ん中だ」
立ち上がり、さっき脱いだジーンズへ駆け寄る将馬から目を逸らす。
盛り上がった胸襟もそれを支える八つに割れた腹筋も魅力的だけれど、それより下は刺激が強すぎる。
(あのこと、話しておいたほうがいいのかな……)
菜穂が結論を出す前に、将馬の声が思索を破った。
「ヤベえ、一個っきゃねえ」
「え?」
「いや、ゴムが一個しかないんだよ。ここんとこ買ってなくて。商店街のドラッグストアはもう閉まってるよな。オフィス街のコンビニまで行ってくるか」
「え、あの、ひとつあれば充分ですよね?」
「そうか?」
小さな四角い避妊具の袋を手にした将馬の視線が、菜穂の裸体で止まる。
ここまで来て胸を隠すのもどうかと思い、腕を下に降ろす。
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イヤリングだけは外してなくて、今も耳元でしゃらしゃらと鳴っていた。もちろん魔法なんて信じているわけではないのだけれど。
「俺は足りねえと思うな」
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大きな体の重みを感じても、不思議と怖くは感じなかった。
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