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「ダメです」
「そ、そうだよな。突然悪い。なんか俺エロイことばっかで、自分が情けねえよ」
立ち上がって帰ろうとする将馬の腕をつかみ、補足する。
「お互い明日も仕事なんだから、一晩中はダメです。でもちゃんとゴムを持ってきてるのなら、泊まるのはいいです」
(なかったら、また一緒にコンビニへ行ってもいいし……)
顔が燃え上がりそうだ。三日抱かれてないだけなのに、彼の匂いが恋しかった。
つかんだ腕を逆につかまれ、引き上げられる。
「……男の嗜みだ。いつも財布に入れてるよ。あんたと会うときは絶対、な」
今度は彼に唇を奪われ、さっき思った通り舌で貪られた。
毎日、昼間の店で会っていたけれど、キスをするのは久しぶりだ。
蠢く唇、絡み合う舌、互いのぬくもりで水気が飛んで唾液が粘り気を増していく。
菜穂は広い胸を両手で押した。
「お布団敷きますね」
「菜穂」
低い声に耳をくすぐられた。
押入れの戸を開けたところなのに、将馬が後ろから覆い被さってくる。
太い腕は、菜穂の腹部につかず離れずの位置で交差していた。
「あんた家計簿つけてるのか?」
出しっぱなしの低いテーブルに載った、レシートを挟んだ手帳を見たらしい。
「将馬さんを見習って、いろいろしてるんです」
「俺を見習って?」
「そうです。レシートを持ち帰って家計簿をつけたり、仕事を頑張ったり……当たり前のことですけど」
日々の生活で流れ作業となっていた些細なことでも、意識しておこなうことで成長していける気がする。いや、成長したいのだ。
「ふうん……」
腹の腕に引き寄せられ、肩に顎を置かれた。
将馬が耳を軽く齧り、舌を這わせる。
「今日は、あのイヤリングしてねえんだな」
「え、あ!」
外して収納ボックスの上に置いたままだった。
笑う声が耳をくすぐる。
「あんた、ネジ強く締めすぎだ。耳たぶが真っ赤だぞ」
熱く濡れた舌が耳たぶを湿らせ、薄い唇が優しく食む。
「んん……っ」
「なあ、菜穂。あんた、俺のどこが好きなんだ? 店で見るより面倒くさい男だっただろ? エロイことばっかだし、やたらとお節介押しつけるし」
「そうですね、でも……」
嬉しいときは喜びを倍増してくれて、悲しいときは癒してくれる美味しいラーメンを作る人。大きな手は優しく温かい。
菜穂は彼の手に自分の手をかぶせた。小さすぎて覆うことは出来なかったけれど。
「将馬さんの背中はわたしの憧れで、今は抱き締めたいです」
「背中、か。なんかあんた背中にこだわりあるよな。風呂でも言ってたし」
「うふふ。いい加減お布団出しますから、離れててください」
「冷てえの」
笑って離れていく将馬の背中を、振り返って見つめる。
狭い部屋だ。大した距離ではない。
カウンターで隔てられていた彼が、今はこんな近くにいる。
家計簿はつけ始めたばかりだし、仕事も将馬のラーメンほど素晴らしい出来とはいえない。それでも手を伸ばせば触れられる距離に、あの背中がある。
(なんだか魔法みたい)
胸の奥が温かくなるのを感じながら、菜穂は押入れから布団を出した。
「そ、そうだよな。突然悪い。なんか俺エロイことばっかで、自分が情けねえよ」
立ち上がって帰ろうとする将馬の腕をつかみ、補足する。
「お互い明日も仕事なんだから、一晩中はダメです。でもちゃんとゴムを持ってきてるのなら、泊まるのはいいです」
(なかったら、また一緒にコンビニへ行ってもいいし……)
顔が燃え上がりそうだ。三日抱かれてないだけなのに、彼の匂いが恋しかった。
つかんだ腕を逆につかまれ、引き上げられる。
「……男の嗜みだ。いつも財布に入れてるよ。あんたと会うときは絶対、な」
今度は彼に唇を奪われ、さっき思った通り舌で貪られた。
毎日、昼間の店で会っていたけれど、キスをするのは久しぶりだ。
蠢く唇、絡み合う舌、互いのぬくもりで水気が飛んで唾液が粘り気を増していく。
菜穂は広い胸を両手で押した。
「お布団敷きますね」
「菜穂」
低い声に耳をくすぐられた。
押入れの戸を開けたところなのに、将馬が後ろから覆い被さってくる。
太い腕は、菜穂の腹部につかず離れずの位置で交差していた。
「あんた家計簿つけてるのか?」
出しっぱなしの低いテーブルに載った、レシートを挟んだ手帳を見たらしい。
「将馬さんを見習って、いろいろしてるんです」
「俺を見習って?」
「そうです。レシートを持ち帰って家計簿をつけたり、仕事を頑張ったり……当たり前のことですけど」
日々の生活で流れ作業となっていた些細なことでも、意識しておこなうことで成長していける気がする。いや、成長したいのだ。
「ふうん……」
腹の腕に引き寄せられ、肩に顎を置かれた。
将馬が耳を軽く齧り、舌を這わせる。
「今日は、あのイヤリングしてねえんだな」
「え、あ!」
外して収納ボックスの上に置いたままだった。
笑う声が耳をくすぐる。
「あんた、ネジ強く締めすぎだ。耳たぶが真っ赤だぞ」
熱く濡れた舌が耳たぶを湿らせ、薄い唇が優しく食む。
「んん……っ」
「なあ、菜穂。あんた、俺のどこが好きなんだ? 店で見るより面倒くさい男だっただろ? エロイことばっかだし、やたらとお節介押しつけるし」
「そうですね、でも……」
嬉しいときは喜びを倍増してくれて、悲しいときは癒してくれる美味しいラーメンを作る人。大きな手は優しく温かい。
菜穂は彼の手に自分の手をかぶせた。小さすぎて覆うことは出来なかったけれど。
「将馬さんの背中はわたしの憧れで、今は抱き締めたいです」
「背中、か。なんかあんた背中にこだわりあるよな。風呂でも言ってたし」
「うふふ。いい加減お布団出しますから、離れててください」
「冷てえの」
笑って離れていく将馬の背中を、振り返って見つめる。
狭い部屋だ。大した距離ではない。
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家計簿はつけ始めたばかりだし、仕事も将馬のラーメンほど素晴らしい出来とはいえない。それでも手を伸ばせば触れられる距離に、あの背中がある。
(なんだか魔法みたい)
胸の奥が温かくなるのを感じながら、菜穂は押入れから布団を出した。
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