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第十話 島左近
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「殿! ご無事で!」
島左近は安堵の表情と共に石田三成に駆け寄ってくる。
左近は三成がいない間、佐和山の地を任されていた。
島左近と言えば、武に長けた人間だと思われるが、内政や外交の能力にも才があり、様々な大名との交渉や三成がいない間の佐和山の内政も取り仕切っていた。
三成にとって左近は上司部下の関係ではなく、ビジネスパートナーに近い存在であった。
それ故に三成は島左近と親友である大谷吉継の言葉は心に受け止めていた。
「私だけではなく、殿が連れて来たあの者のおかげでございます」
左近は一人の男を前に連れ出した。
「十郎か……」
十郎。
顔は女性の様に透き通る肌を持ち、顔立ちも美しく、城下町では彼を見ようと男女問わず人だかりができる。
佐和山の内政を取り仕切る左近を補佐し、その手際の良さ計算能力の高さから三成ら五奉行が行う検地などにも参加していた。
平兵衛は気づく。
ーーコイツも俺と同じ……まぁいい。頭はキレそうだが、少しずつ俺にしかわからないボロを出すだろう。
彼はすぐに落ち着き、三成たちと共に屋敷に入る。
では、三成と左近の話に戻ろう。
秀吉が推し進めた政策に太閤検地というものがある。
それは今まで曖昧であった土地の所有を全て数値化させていた。
秀吉や三成が行うことは時代の最先端を走っていたのだった。
到底、数値化という概念を他の人間は理解ができない。
身分、税制、土地、法律は全て曖昧なもの。
それを具体化させる概念はなかった。
ーー理解できぬ。
いや、数少ないが理解する者はいた。
織田信長。
彼は秀吉の考えを理解して重宝し、幹部として国を与えた。
豊臣秀長、竹中半兵衛。
彼ら二人は秀吉を理解して言語化し、民や兵士に伝えることができた。
しかし、彼らは早期に亡くなってしまう。
徳川家康も理解はできたが、
ーー武家ではない人間が我々より優れているわけない。
そういった秀吉に対する内に秘める嫌悪感対抗意識により気づかないフリをしていた。
天才故の孤独。
世が三権分立が確立した議会制民主主義であれば、彼の孤独は和らいだかもしれない。
誰も彼を止める人間がいないことが孤独を大きくさせていた。
やがて、周囲は彼から心が離れ、孤立。
だが、石田三成は秀吉を理解することができた。
三成は他者への言語化をすることはない。
「伝えたところでわかる人間などいない」
しかし、三成は秀吉を必死で理解し、検地などの業務に当たっていた。
そして、秀吉も彼に情で答えていた。
二人の間には親子に近い絆があったのだ。
ーー秀吉様の真にやりたかったことをできるのは私のみ。
三成は思った
ーー秀吉様が亡き後、家康か毛利輝元、黒田官兵衛の誰かが、必ずや天下を望み、秀頼様を亡き者にする。
豊臣の世、世界最先端の政を行わねばならぬ。
それには来るべき大戦に勝たねばならない。
彼は武力に秀で、地方自治もできる島左近を真っ先にスカウトする。
島左近も自身の力を余すところなく振いたいと考えていたところであった。
彼が当時仕えていた筒井定次。
左近自身、彼のことは嫌いではないが、
ーー自分活かせる度量。定次にはない。
定次は地方自治や軍事など彼に任せきりであった。
ーーもっと私を生かせる場所があるのでは?
左近は定次の元を離れ、三成の誘いに応じた。
ーー自分も秀吉様と三成殿の間に入りたい……そして、三成殿に仕えれば、いずれ時代を揺るがす大戦の中央に位置する人物になれるだろう。
最初こそ彼は自身の自己承認欲求のために働いていた。
左近自身も有能な人間であり、秀吉の行う政治政策に理解を示しており、それを理解できている三成に惹かれていた。
その上で真摯に全ての物事を見ている。
それは三成の配下となっていた杉江勘兵衛も感じていた。
武に秀でていた勘兵衛。
しかし、彼には学がない。
だが、三成は勘兵衛を尊敬し、多額の褒美を与えていた。
勘兵衛も三成の期待に応えようと政治を学び始めていた。
そこに政治や軍学に秀でていた十郎が加わり、何より平兵衛も三成の人柄と頭脳に惹かれ、家臣として仕えている。
十郎や左近は政を勘兵衛にユーモアを交えて教え、場内は和やかであった。
ーー平和な日々がこれほどまで楽しいものだったのか。
しかし、左近の心中は先を見つめていた。
ーー秀吉様も数年でお亡くなりなるかもしれない。必ず来る大戦に向け、軍備を増強させておかねば。
そして、彼はさらに思う。
ーー三成殿、秀吉様の邪魔をする人間は誰であろうと許さぬ。
と。
島左近は安堵の表情と共に石田三成に駆け寄ってくる。
左近は三成がいない間、佐和山の地を任されていた。
島左近と言えば、武に長けた人間だと思われるが、内政や外交の能力にも才があり、様々な大名との交渉や三成がいない間の佐和山の内政も取り仕切っていた。
三成にとって左近は上司部下の関係ではなく、ビジネスパートナーに近い存在であった。
それ故に三成は島左近と親友である大谷吉継の言葉は心に受け止めていた。
「私だけではなく、殿が連れて来たあの者のおかげでございます」
左近は一人の男を前に連れ出した。
「十郎か……」
十郎。
顔は女性の様に透き通る肌を持ち、顔立ちも美しく、城下町では彼を見ようと男女問わず人だかりができる。
佐和山の内政を取り仕切る左近を補佐し、その手際の良さ計算能力の高さから三成ら五奉行が行う検地などにも参加していた。
平兵衛は気づく。
ーーコイツも俺と同じ……まぁいい。頭はキレそうだが、少しずつ俺にしかわからないボロを出すだろう。
彼はすぐに落ち着き、三成たちと共に屋敷に入る。
では、三成と左近の話に戻ろう。
秀吉が推し進めた政策に太閤検地というものがある。
それは今まで曖昧であった土地の所有を全て数値化させていた。
秀吉や三成が行うことは時代の最先端を走っていたのだった。
到底、数値化という概念を他の人間は理解ができない。
身分、税制、土地、法律は全て曖昧なもの。
それを具体化させる概念はなかった。
ーー理解できぬ。
いや、数少ないが理解する者はいた。
織田信長。
彼は秀吉の考えを理解して重宝し、幹部として国を与えた。
豊臣秀長、竹中半兵衛。
彼ら二人は秀吉を理解して言語化し、民や兵士に伝えることができた。
しかし、彼らは早期に亡くなってしまう。
徳川家康も理解はできたが、
ーー武家ではない人間が我々より優れているわけない。
そういった秀吉に対する内に秘める嫌悪感対抗意識により気づかないフリをしていた。
天才故の孤独。
世が三権分立が確立した議会制民主主義であれば、彼の孤独は和らいだかもしれない。
誰も彼を止める人間がいないことが孤独を大きくさせていた。
やがて、周囲は彼から心が離れ、孤立。
だが、石田三成は秀吉を理解することができた。
三成は他者への言語化をすることはない。
「伝えたところでわかる人間などいない」
しかし、三成は秀吉を必死で理解し、検地などの業務に当たっていた。
そして、秀吉も彼に情で答えていた。
二人の間には親子に近い絆があったのだ。
ーー秀吉様の真にやりたかったことをできるのは私のみ。
三成は思った
ーー秀吉様が亡き後、家康か毛利輝元、黒田官兵衛の誰かが、必ずや天下を望み、秀頼様を亡き者にする。
豊臣の世、世界最先端の政を行わねばならぬ。
それには来るべき大戦に勝たねばならない。
彼は武力に秀で、地方自治もできる島左近を真っ先にスカウトする。
島左近も自身の力を余すところなく振いたいと考えていたところであった。
彼が当時仕えていた筒井定次。
左近自身、彼のことは嫌いではないが、
ーー自分活かせる度量。定次にはない。
定次は地方自治や軍事など彼に任せきりであった。
ーーもっと私を生かせる場所があるのでは?
左近は定次の元を離れ、三成の誘いに応じた。
ーー自分も秀吉様と三成殿の間に入りたい……そして、三成殿に仕えれば、いずれ時代を揺るがす大戦の中央に位置する人物になれるだろう。
最初こそ彼は自身の自己承認欲求のために働いていた。
左近自身も有能な人間であり、秀吉の行う政治政策に理解を示しており、それを理解できている三成に惹かれていた。
その上で真摯に全ての物事を見ている。
それは三成の配下となっていた杉江勘兵衛も感じていた。
武に秀でていた勘兵衛。
しかし、彼には学がない。
だが、三成は勘兵衛を尊敬し、多額の褒美を与えていた。
勘兵衛も三成の期待に応えようと政治を学び始めていた。
そこに政治や軍学に秀でていた十郎が加わり、何より平兵衛も三成の人柄と頭脳に惹かれ、家臣として仕えている。
十郎や左近は政を勘兵衛にユーモアを交えて教え、場内は和やかであった。
ーー平和な日々がこれほどまで楽しいものだったのか。
しかし、左近の心中は先を見つめていた。
ーー秀吉様も数年でお亡くなりなるかもしれない。必ず来る大戦に向け、軍備を増強させておかねば。
そして、彼はさらに思う。
ーー三成殿、秀吉様の邪魔をする人間は誰であろうと許さぬ。
と。
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