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第十五話 北政所
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三成は秀吉亡き後の国と豊臣家を守るために多忙を極めていた。
五奉行五大老の心を引き留めねばならない。
しかし、動けば動くほど、加藤清正福島正則たち武断派からは嫉妬に近い感情を抱かれてしまい、反感を持たれてしまう。
ーーどうすれば良いのか?
三成自身ですら前が見えない状況だった。
そんな多忙な中でも敵に回してはいけない存在がいる。
それは北政所。
彼女は秀吉の妻であり、コミュニケーション能力の高さから慕う人間が多かった。
ーー彼女の一声で武断派もこちらに靡いてくれるはずだ。
淡い期待だが、今はそれに縋るしかない。
三成は端正な顔立ちをしていてコミュニケーションに長けた十郎と洞察力がある平兵衛、人質代わりとして養女のさなを北政所に使者として差し出した。
北政所は人格者であり、毛利秀包や真田幸村のような人質であっても実の子のように接して可愛がった。
さなにも同じように接するだろうと信頼していた。
それは正解だった。
さなを見た北政所は喜び、
「何か食べたいものはありますか? そうだ、私が幼い頃に着ていたものを着ませんか?」
と屈託がない視線で可愛がった。
さなもすぐに心を開き、様々なことを話し合った。
淀君と北政所は仲が悪いという説はあるが、それは違う。
淀君も北政所を信頼し、何度も手紙のやり取りをしている上に北政所は秀頼出産の際は安産祈願している。
ただ、秀吉が亡くなり疎遠となり、話す機会がなくなってしまっただけ。
彼女も豊臣家に対する感情はある。
さなと接することにより、それを思い出して欲しい。
三成はそう考えていた。
十郎と平兵衛を少し待たせた後、北政所は彼らに姿を現した。
「三成は多忙なのですね」
北政所は微笑みながら尋ねる。
十郎は
「左様でございます」と答え、豊臣家を守るため尽力して欲しいと訴えかける。
しかし、北政所は何処か遠いところを見ているかのような表情を見せ、
「私などに? 周郎さんも大変ですね」
その北政所の言葉に十郎はハッとして俯く。
ーー彼の前世は周郎というのか?
そして、
「ねぇ、シモヘイヘさん」
平兵衛は驚き、悟られぬように苦笑いをして頷く。
ーーこの人物は気づいている。今は何も答えない方が良さそうだ。
「私には未来はない。あの人と共に生きた過去こそ私の全て……もし、私に期待する前に三成に自分が清正、正則にやってきたことを思い出しなさい」
十郎は反論できない。
ーーその通りだ。
「そう伝えてください……」
十郎たちの完敗だった。
平兵衛は笑みを浮かべてつぶやく。
「まったくおっしゃる通りです」
北政所は平兵衛に笑みを見せ、
「でしょ?」
二人は笑い合う。
「今日は楽しかった。あのお猿さんもね、昔はあなたたちみたいな何があってもついてきて、ちゃんと意見する配下がいたのよ……あの頃は良かった。何もないけど、楽しかった……少しだけ、それを思い出せました」
北政所は涙を一筋流して言う。
「ありがとう」
さながやって来て、彼女の涙を拭う。
「本当に優しい子。これからは一緒に暮らしましょう」
さなは頷く。
北政所が誰かは、もはやどうでもいい。
おそらく、彼女なりに尽力してくれるだろう。
平兵衛と十郎は
ーーこの優しさに応えねばならない。
そう思った。
「もし、あなた方が勝つようなことがあれば、徳川秀忠だけは許してあげてください。あの子も息子のような存在なので。お願いしましたよ」
「畏まりました。今日、話したこと、全てお伝え致します」
北政所と十郎は約束した。
「全てが終わったあと、皆さんで酒宴をしましょうね」
北政所が初めて未来に期待を込めた発言をする。
ーー皆が喜び合える未来。模索する価値があるな。
平兵衛と十郎は心に火が灯る。
五奉行五大老の心を引き留めねばならない。
しかし、動けば動くほど、加藤清正福島正則たち武断派からは嫉妬に近い感情を抱かれてしまい、反感を持たれてしまう。
ーーどうすれば良いのか?
三成自身ですら前が見えない状況だった。
そんな多忙な中でも敵に回してはいけない存在がいる。
それは北政所。
彼女は秀吉の妻であり、コミュニケーション能力の高さから慕う人間が多かった。
ーー彼女の一声で武断派もこちらに靡いてくれるはずだ。
淡い期待だが、今はそれに縋るしかない。
三成は端正な顔立ちをしていてコミュニケーションに長けた十郎と洞察力がある平兵衛、人質代わりとして養女のさなを北政所に使者として差し出した。
北政所は人格者であり、毛利秀包や真田幸村のような人質であっても実の子のように接して可愛がった。
さなにも同じように接するだろうと信頼していた。
それは正解だった。
さなを見た北政所は喜び、
「何か食べたいものはありますか? そうだ、私が幼い頃に着ていたものを着ませんか?」
と屈託がない視線で可愛がった。
さなもすぐに心を開き、様々なことを話し合った。
淀君と北政所は仲が悪いという説はあるが、それは違う。
淀君も北政所を信頼し、何度も手紙のやり取りをしている上に北政所は秀頼出産の際は安産祈願している。
ただ、秀吉が亡くなり疎遠となり、話す機会がなくなってしまっただけ。
彼女も豊臣家に対する感情はある。
さなと接することにより、それを思い出して欲しい。
三成はそう考えていた。
十郎と平兵衛を少し待たせた後、北政所は彼らに姿を現した。
「三成は多忙なのですね」
北政所は微笑みながら尋ねる。
十郎は
「左様でございます」と答え、豊臣家を守るため尽力して欲しいと訴えかける。
しかし、北政所は何処か遠いところを見ているかのような表情を見せ、
「私などに? 周郎さんも大変ですね」
その北政所の言葉に十郎はハッとして俯く。
ーー彼の前世は周郎というのか?
そして、
「ねぇ、シモヘイヘさん」
平兵衛は驚き、悟られぬように苦笑いをして頷く。
ーーこの人物は気づいている。今は何も答えない方が良さそうだ。
「私には未来はない。あの人と共に生きた過去こそ私の全て……もし、私に期待する前に三成に自分が清正、正則にやってきたことを思い出しなさい」
十郎は反論できない。
ーーその通りだ。
「そう伝えてください……」
十郎たちの完敗だった。
平兵衛は笑みを浮かべてつぶやく。
「まったくおっしゃる通りです」
北政所は平兵衛に笑みを見せ、
「でしょ?」
二人は笑い合う。
「今日は楽しかった。あのお猿さんもね、昔はあなたたちみたいな何があってもついてきて、ちゃんと意見する配下がいたのよ……あの頃は良かった。何もないけど、楽しかった……少しだけ、それを思い出せました」
北政所は涙を一筋流して言う。
「ありがとう」
さながやって来て、彼女の涙を拭う。
「本当に優しい子。これからは一緒に暮らしましょう」
さなは頷く。
北政所が誰かは、もはやどうでもいい。
おそらく、彼女なりに尽力してくれるだろう。
平兵衛と十郎は
ーーこの優しさに応えねばならない。
そう思った。
「もし、あなた方が勝つようなことがあれば、徳川秀忠だけは許してあげてください。あの子も息子のような存在なので。お願いしましたよ」
「畏まりました。今日、話したこと、全てお伝え致します」
北政所と十郎は約束した。
「全てが終わったあと、皆さんで酒宴をしましょうね」
北政所が初めて未来に期待を込めた発言をする。
ーー皆が喜び合える未来。模索する価値があるな。
平兵衛と十郎は心に火が灯る。
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