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第三十九話 憎しみ

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吉川広家は狂喜しながら西軍を後方から攻め立てた。

「ははは! 我が怨み知るが良い!」

広家は父親を秀吉の無茶な出兵により失っている。

ーーあやつさえいなければ。

誰よりも秀吉を怨み、機会があれば滅ぼしたいと考えていた。
そこへ徳川からの内通だ。

東軍に加担すれば、輝元は本領安堵の上に大老の筆頭、広家は四国数カ国を与えられる。
これに従わない理由はない。

ストッパー役となっていた安国寺恵瓊がいない今、吉川広家と家臣の福原広俊の言うことを聞かざるを得ない。

後方から来る毛利軍に秀包が鉄砲隊で応戦する。

「獣に堕ちたか!? 秀元!」

秀元も驚いている。

「どういうことじゃ!」

先陣を切る広家が意図的に西軍に攻撃を加えたのだ。
秀元の大軍は制御できずに立花宗茂軍に攻撃を加えていく。

背後を突かれた立花宗茂軍は崩れ始め、毛利秀包、元康軍の武将たちが討たれていく。

最後方にいた小出吉政は「獣どもめ! 毛利秀元は人にはあらず!」と数人の兵士を道連れに奮戦するが、討ち取られてしまう。
吉川広家が大笑いしながら
「ははは! 何とでも言え!」
と叫ぶ。
彼は気分が良かった。
憎い羽柴秀吉の一族を討ち、さらに秀頼の運命もこの手にある。

三成は予想外の裏切りに怒りを覚えた。


「同じ一族ぞ! かようなことがあって良いものか!?」

背信行為はするが、攻め込むことは予想外である。

家康も毛利家の内紛に内心は広家、秀元に対して軽蔑の念を抱き、秀包と元康に同情していた。

しかし、

「仕方ない」

と、俯き渋々了承した。


秀包は涙を流した。

「情けない。太閤殿下! 申し訳ありませぬ」

立花宗茂たちは死を覚悟し、最後の抵抗を始めた。

しかし、後方から長宗我部盛親と勝永軍が毛利目掛けて、突撃してきた。

「長宗我部盛親! 参戦致す! 槍衾を組めぃ!」

長槍の突進に背後を突かれた秀元軍は次々と崩れ始めていく。

そして、別方向から勝永と兼相の部隊が毛利軍に攻撃を開始する。

「一度、退くぞ!」
秀元軍は劣勢となり戦線から離脱を開始する。
しかし、血気盛んな長宗我部兵は獅子のように毛利兵に喰らい付いて離さない。
その上に勝永という夏の陣で奮戦した武将が本隊へと何度も突撃して、秀元は何度も生命の危機に瀕している。
彼は堪らず、数人の部下を率いて逃走。

吉川広家は急な大軍の指揮が取れず、右往左往しながら広家自身と福原広俊の部隊のみが一時戦線離脱した。

残りの毛利軍は壊滅、もしくは毛利秀包と近かった者は降伏し戦場を去っていく。
長宗我部と勝永の部隊は進軍方向を変え、
引き続き秀忠の軍勢と交戦した。

一方の石田三成軍本営は法正が陣形を整え、加藤清正、後藤又兵衛、島左近、舞兵庫という猛将たちの活躍により黒田長政、浅野幸長、池田輝政の軍勢を何度も押し返していた。

三成は日の落ち具合を見ながら計算していた。

「そろそろか……島津殿にお帰りの時間であると伝え、レオニダス殿にお見送りをお願いしろ」

三成は伝令にそう伝える。

島津義弘とレオニダスはそれを察知して、戦闘準備を開始する。

「さぁ薩摩に帰りもんそ!」

本国とレオニダスの援軍により2500人にまで膨れ上がった島津軍の中央突破が始まる。
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