マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと

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第四話 秀次命拾い!

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「なぁ、半兵衛、秀長よぉ……」

秀吉はモゴモゴと奥歯に何かが詰まったかのように話し始めた。

「殿下、如何なされましたか?」

「ワシに子どもできたやん?」

半兵衛と秀長は心の中では

ーーお前の子どもとは多分ちゃうけどな。

と思ったが、そんなことは口が裂けても言えない。
そして、二人は我が子かわいさにまたとんでもないことを言い出すと呆れる準備を始めながら耳を傾ける。

「その子に跡目を譲りたいんやが」

秀長と半兵衛は同じタイミングで呆れる。

「何を言うかと思えば……まだ生まれたばかりですよ?」

「でも、秀次が秀頼に何かするやろ? 絶対に」

秀長も呆れながら言う。

「兄上よぉ、それがあかんねやて。秀次はそんなんせんよ。むしろ、それがきっかけでめっちゃ心労で悩んでるんやで。当面は秀次が継ぐべきや」

半兵衛が続ける。

「秀次殿は聡明な方です。内府殿との一戦は負けはしましたが、勇敢に闘いましたし、内政では検地などを滞りなくやっております。そして、私や秀長殿の言うことも素直に聞きます。私も秀次殿が継ぐべきと思っております」

「せやかて……」

秀吉はさすがに反論ができず、言葉を失う。

「秀頼殿と秀次殿が協力できる体制を構築することが重要と思います。それができなければ豊臣家は露の如く消え去りましょう」

秀長は半兵衛の言葉に呼応して、秀吉を諭す。

「兄上よぉ、秀頼が可愛いのはわかるでよ。でも、また戦国に戻すわけにはいかねぇんや。半兵衛殿の言う通りにせなあかんのちゃうか?」

秀吉は俯くしかない。

「じゃあ、茶々を説得できるか?」

秀長は半兵衛の顔をチラッと見る。
茶々は豊臣秀吉の側室であり、子を身籠ったことで大きな発言力を得た。
また容姿が美しく秀吉はもうメロメロ過ぎて自制心がなくなるほどなのである。
つまり、ガチ恋というものだ。

周囲もそれは知っている。

ーーそりゃあ難しいよなぁ。

茶々は叔父似のガンコさがあり、一歩も譲らない。

しかし、

「何とかします」

と、半兵衛は顔色一つ変えずに答えた。

後日、半兵衛と茶々が話し合うことでその場は終了した。

秀長は半兵衛を心配をして、彼に話しかける。

「半兵衛、大丈夫かよ?」
「心配ご無用!」

そして、会談当日の伏見城。

大野治長、毛利秀包、イケメン坊主の三人がいる。

秀長は驚いた。

ーー三成、治長は幼馴染で気が合い、苦楽を共にした近江の者で信頼は厚い、秀包は容姿が美しい。坊主は……まさか……

茶々が寺に行った時に指名する坊主!
まぁ……いろいろとあるのだ。

ーーはひゃあ、淀をよく調べ上げたもんやで……


秀長は関心した。

そして、秀吉と共にやってきた茶々……いつも通り、秀吉に文句を言いながら歩いている。

「私は忙しいの! わかる? 暇人ちゃうのよ。秀頼が跡目を継ぐ! それだけしか話せませんよ!」

秀吉に宥められながら座るとイケメンたちに目が行く。

そして、茶々は一目見たときから目がウットリしている。
まさに女の目だ。

そして、半兵衛から言葉が発せられる。

「この者たちは秀頼様が元服するまでの関白職を秀次殿が引き継ぐべきと考える者でございます」

「あら、そう?」

茶々の顔がまんざらでもない。

「この者たちの誠意が伝わりますよう、ささ、近くでお話ししてくだされ……あと、いつも通りの緊張感などない状態で話し合うべきかと思います。殿下、我らは隣で昼食を摂りながら話しましょう」

秀吉たちは頷き、去っていく。


別室で昼食を摂っている三人。
口の中に飯を入れたまま秀長は秀吉に話しかける。

「兄上はええの? 茶々はあの二人に首ったけやで?」

秀吉はケタケタ笑いながら、

「ええねん、ええねん。茶々が幸せなんやったら、それでな」

と答えて笑い合う。

半兵衛は思い出した。
まだ、裕福ではない頃から秀吉に仕え、今亡き蜂須賀正勝と四人で笑い合っていたことを。
半兵衛は笑い合う豊臣兄弟を見ながら久しぶりの幸せを感じて昼食を摂っていた。

茶々は三人にすっかり籠絡されており、
「う、うん秀次さんでええんちゃうかな? まぁ次はウチの秀頼やけどな!」
と上機嫌で帰って行った。

しかし、後継の件は後にまた再燃するのであった。

続く

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