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第四章『因縁、交錯して』
第三百二十五話『出会いの価値は変わらない』
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「まあそんなわけで、俺たちとお前が馬車に乗り合わせて一緒に事件に挑むことになったのは仕込まれた偶然だったってわけだ。もちろんお前が俺たちに興味を持たなかったり、いきなり話しかけてきたお前のことをよく思わなかったりすれば破綻する脆い筋書きではあったけどさ」
古城襲撃の翌日に発覚した事実を述べ終えて、俺はアネットが横たわるベッドに視線を戻す。俺たちを巻き込んだ騎士団の計画は、改めて言葉にしてみるととてつもなくスケールの大きな所業だった。
「まさか国家組織がグレーラインぎりぎりで生きてる『情報屋』に接触して、その上で俺たちの行動をある程度誘導してたなんてな。アネットから聞いてた騎士の理想とはかけ離れたテクニカルなやり方なこった」
「あの時も言っただろう、私たちの使命は王国の平穏を守ることだ。レーヴァテイン様の身が危険に及ぶリスクを背負うならば、それを軽減するための命綱は用意しておくに限る」
たとえそれが法のスレスレを行くものであってもな――と。
少し皮肉るようにそう言ってやると、ロアルグから間髪入れずにそんな反論が返ってくる。それはあの時以来行動を共にするようになって何度も聞いてきた、『今の』王国騎士団の理想に基づいた行動原理だった。
激動の時代を終えて平穏を得た王国において、騎士団の使命はその平穏を後の世代へと継いでいくことだ。何も奪わずされど奪われず、ただ国民が生きていくための平衡を守りきる。そのために必要な実力を保有する組織として、『騎士団』という名前はとても相応しいものだろう。
だが、その在り方はアネットが理想とする『騎士』とはまたかけ離れたところに位置するものだ。ロアルグが率いる今の騎士団の中で叙事詩となって後世に語り継がれるだけの人物――つまりアネットが目指すような『理想の騎士』がいるかと言えば、申し訳ないが答えはノーだった。
理由は簡単なことで、後世に語り継がれるためには相応の逸話を残して『英雄』にならなければいけないからだ。……そして今は、『英雄』の登場を待ち焦がれるほどに荒れた時代じゃないからだ。
アネットがどれだけ手を伸ばしても、『理想の騎士』とアネットでは文字通り住んでいる世界が違いすぎる。それはアネットにとって残酷な真実であると同時に、そうそう変わらない現実でもあった。
強いて言うならばこの事件の活躍はまるで叙事詩の主人公と言っていいだけのものがあったが、それだってもとはと言えばロアルグが描いた筋書きだ。偽りだらけの騎士見習いとその護衛たちの存在は、アネットの身を案じた騎士団によって配られた配役だった。
そんな現実を起き掛けに突きつけられるのは、きっとアネットにとっても快いことじゃないだろう。何なら俺たち全員のことを嫌いになったって何もおかしくはないし、怒るだけの権利はアネットにしっかりとあるわけだしな。
だから、この結論に何を言われても構わない。そう覚悟しながら、俺はアネットの顔色を窺ったのだが――
「……あー、やっぱりそうでしたのね。何かしらの事情はあるんだろうと思っていましたけど、まさか騎士団が仕組んだことだってとこまで当たっているとは思いませんでしたわ」
「……え?」
どこか間延びしたアネットの声が返ってきて、俺は思わず間抜けな声を上げてしまう。その横ではツバキが身を乗り出して、のんきにとんでもないことを言ってのけたアネットの黄金色の瞳を見つめていた。
「……ボクたちが裏のある存在だってこと、君は最初から勘付いていたのかい?」
「ええ、初対面の頃から。……だって、おかしいところが多すぎるでしょう?」
ツバキの問いにあっけらかんと答えて、アネットは三本の指を立てる。まずは人差し指にもう片方の手を当てて、アネットは淡々と言葉を連ね始めた。
「一つ目、観光に行くからと言ってあの馬車に乗るような冒険者がそうそういるはずもありませんわ。あの馬車は車内でのいざこざを防ぐためにあえて貴族以外が乗れないような料金設定をしているだけで、探しさえすればこの馬車以下の値段でもっと手厚いサービスのある馬車なんていくらだって見つかります。それでもあえてあんな馬車に乗ろうなんて冒険者、傍から見れば相当な物好きとしか思えませんわよ」
「……っ、それは」
その指摘を受けて口ごもるのは、馬車のチケットを俺たちに手配した張本人であるロアルグだ。その顔を見ながらふっと息を吐いて、一本目の指をゆっくり折りたたんだ。
「二つ目、あの時期にバラックに向かうというのにパーティの情報を知らないというのは流石に怪しすぎますわね。それを知っていればどこかの風変わりな貴族が護衛として冒険者を雇ったって無理が通るかもしれませんが、知らないってなれば三人は何の後ろ盾もなく貴族と関係があるわけでもないただの冒険者ってことになりますわ。……そんなもの、『怪しい』って顔に書いてあるのと同然でしょう?」
「……っ」
「三つ目、いくらなんでも周りに空席を作りすぎですわね。大方わたくしとお三方を自然に接触させようとしたのでしょうけど、それならわたくしの近くの席を取る方がよっぽど怪しまれずに済みますわよ。あの時期のパーティ会場に向かう馬車にあれだけの空席、何かの意図がない限り有り得ませんわ」
二本、三本と指を折りたたんで、アネットは疑わしいポイントを次々と指摘していく。その度にロアルグが弱った表情になっていって、しまいには言葉を失ってしまった。
「まあそんなわけで、マルクたち三人にもきっと何か事情があるんだろうとは早めに気づいてましたわよ。騎士団がそれをやったってところまでは、まあ流石に確信はできませんでしたけど」
両手を布団の上に投げ出し、アネットはそう結論付けて考察タイムを締めくくる。ロアルグが一切の言葉を失ってるあたり、まるっきり図星を突いていると見て間違いなさそうだった。
「……申し訳ございません、レーヴァテイン様」
しばらく沈黙が続いたのち、かすれた声でロアルグはアネットへ謝罪の言葉を投げかける。背筋を丸めて力なくうなだれるその姿は、今までで見たことがないぐらいに小さく見えた。
「貴女の抱いている覚悟を見誤り、挙句の果てにはそれを踏みにじりかねないようなことを私たちはしました。……貴女を幼い頃から知る者として、これは許されない失態です」
まるで懺悔をするかのように、ロアルグはぽつぽつと言葉を紡ぐ。それを聞くアネットもまた、いつしか真剣な表情を浮かべていた。
「この件において、レーヴァテイン様は私たちに如何様でも抗議する権利がある。貴女の中に息づく『騎士』としての誇りを踏みにじったこと、簡単な贖いで許されるとは思っておりません――」
背筋をわずかに震わせながら、ロアルグはかしこまった様子でアネットへと謝罪の言葉を連ねる。その言葉の一つ一つがアネットへの罪悪感の証で、何かを指示されたらきっと彼は迷うことなくそれに従うだろう。それがたとえ、騎士団長という称号を損なうことに繋がることであっても――
「……何をとぼけたことを言っていますの、早く顔を上げなさい」
――そんな想像が頭をよぎる中で、アネットはまたしても俺の予想を裏切った。
「『騎士を志す以上、いついかなる時であっても騎士で在り続けることを意識するように』――幼い頃に貴女に言われ、その後心掛けている言葉ですわよ」
「……レーヴァテイン、様」
その言葉にロアルグは顔を上げ、背筋をピンと伸ばしていく。それを見てアネットは満足げに首を縦に振ると、ゆっくりとだが再び上体を起こした。
「確かにロアルグは契約破りまがいのことをした、これは事実ですわ。……ですが、わたくしが持ちかけた契約自体がそもそも理不尽なものであったことも、買えようのない事実ですわよ」
少しバツの悪そうな表情を浮かべて、アネットは自らの無茶を反省する。その仕草を目にしたロアルグが驚いたように目を見開くと、アネットはクスリと笑みをこぼした。
「その顔、まさかわたくしがそんなことを言うとは思っていなかったって感じですわね。……なら、わたくしもこの事件を通じてまた一つ大きくなることが出来たってことですわ」
「……ええ、私から見てもそれは分かることです。今の貴女の眼は、今まで見た中で最も晴れやかだ」
しみじみと呟くアネットに対して、ロアルグは恭しい様子で頷く。それがお世辞や社交辞令の類なんかじゃないことは、傍でそのやり取りを見ていた俺たちにも明らかだった。
比喩表現ではなく、アネットの眼は澄み渡っているように見えるのだ。本当の名前を明かしたからどうこうとかじゃなくて、そこにはもっと多きな転機が多分存在している。いったい何がそうさせたかを問うのは、あまりにも野暮なことであるような気がした。
「そうですの? なら、それはここにいる皆様のおかげですわ。マルクさんたちが居なければわたくし、成長することもないまま罠にかかってあっけなく終わっていたかもしれませんもの」
「ええ、あの時のあなたはまだ『死』を身近に感じたことがなかったものね。……本当に、この短い間に見違えたものね」
まるで子を見る親のような眼で、リリスはアネットをまっすぐに見つめる。それを誇らしげな笑みとともに受け止めると、アネットはその視線をロアルグの方へと戻した。
「――わたくしがここまで大きくなれたのは、この事件を通じて皆様と出会えたからですわ。……それを仕組んだのはロアルグ、あなたですのよ?」
「……確かに私、ですが」
「ええ、それが分かっているならば誇るべきですわ。この出会いが作為であれ無作為であれ、わたくしにとって意義のある大切な出会いであることには変わらないんですもの。――その出会いを導いたあなたのことを、わたくしがどうして責めるって言うんですのよ」
なおも申し訳なさそうな表情を浮かべるロアルグに苦笑して、アネットははっきりと騎士団長の責任を否定する。……その言葉を聞いた瞬間、ロアルグの背中からこわばりが抜けたように見えた。
アネットは穏やかな笑みを浮かべ、そんな騎士団長のことをまっすぐな視線で見つめている。あれほどまでにまっすぐな許しの言葉を経てもまだどこか戸惑っているようなロアルグを見て、アネットは軽く手を打つと――
「――それでもまだわたくしに対して申し訳ないって思うならば、ここにいる四人の方に騎士団を挙げて最大限の待遇を返して差し上げなさい。それが、わたくしの思う一番真っ当な贖いのやり方ですわ」
お茶目に片目を瞑って、レーヴァテイン家のご令嬢はそう命令して見せたのだった。
古城襲撃の翌日に発覚した事実を述べ終えて、俺はアネットが横たわるベッドに視線を戻す。俺たちを巻き込んだ騎士団の計画は、改めて言葉にしてみるととてつもなくスケールの大きな所業だった。
「まさか国家組織がグレーラインぎりぎりで生きてる『情報屋』に接触して、その上で俺たちの行動をある程度誘導してたなんてな。アネットから聞いてた騎士の理想とはかけ離れたテクニカルなやり方なこった」
「あの時も言っただろう、私たちの使命は王国の平穏を守ることだ。レーヴァテイン様の身が危険に及ぶリスクを背負うならば、それを軽減するための命綱は用意しておくに限る」
たとえそれが法のスレスレを行くものであってもな――と。
少し皮肉るようにそう言ってやると、ロアルグから間髪入れずにそんな反論が返ってくる。それはあの時以来行動を共にするようになって何度も聞いてきた、『今の』王国騎士団の理想に基づいた行動原理だった。
激動の時代を終えて平穏を得た王国において、騎士団の使命はその平穏を後の世代へと継いでいくことだ。何も奪わずされど奪われず、ただ国民が生きていくための平衡を守りきる。そのために必要な実力を保有する組織として、『騎士団』という名前はとても相応しいものだろう。
だが、その在り方はアネットが理想とする『騎士』とはまたかけ離れたところに位置するものだ。ロアルグが率いる今の騎士団の中で叙事詩となって後世に語り継がれるだけの人物――つまりアネットが目指すような『理想の騎士』がいるかと言えば、申し訳ないが答えはノーだった。
理由は簡単なことで、後世に語り継がれるためには相応の逸話を残して『英雄』にならなければいけないからだ。……そして今は、『英雄』の登場を待ち焦がれるほどに荒れた時代じゃないからだ。
アネットがどれだけ手を伸ばしても、『理想の騎士』とアネットでは文字通り住んでいる世界が違いすぎる。それはアネットにとって残酷な真実であると同時に、そうそう変わらない現実でもあった。
強いて言うならばこの事件の活躍はまるで叙事詩の主人公と言っていいだけのものがあったが、それだってもとはと言えばロアルグが描いた筋書きだ。偽りだらけの騎士見習いとその護衛たちの存在は、アネットの身を案じた騎士団によって配られた配役だった。
そんな現実を起き掛けに突きつけられるのは、きっとアネットにとっても快いことじゃないだろう。何なら俺たち全員のことを嫌いになったって何もおかしくはないし、怒るだけの権利はアネットにしっかりとあるわけだしな。
だから、この結論に何を言われても構わない。そう覚悟しながら、俺はアネットの顔色を窺ったのだが――
「……あー、やっぱりそうでしたのね。何かしらの事情はあるんだろうと思っていましたけど、まさか騎士団が仕組んだことだってとこまで当たっているとは思いませんでしたわ」
「……え?」
どこか間延びしたアネットの声が返ってきて、俺は思わず間抜けな声を上げてしまう。その横ではツバキが身を乗り出して、のんきにとんでもないことを言ってのけたアネットの黄金色の瞳を見つめていた。
「……ボクたちが裏のある存在だってこと、君は最初から勘付いていたのかい?」
「ええ、初対面の頃から。……だって、おかしいところが多すぎるでしょう?」
ツバキの問いにあっけらかんと答えて、アネットは三本の指を立てる。まずは人差し指にもう片方の手を当てて、アネットは淡々と言葉を連ね始めた。
「一つ目、観光に行くからと言ってあの馬車に乗るような冒険者がそうそういるはずもありませんわ。あの馬車は車内でのいざこざを防ぐためにあえて貴族以外が乗れないような料金設定をしているだけで、探しさえすればこの馬車以下の値段でもっと手厚いサービスのある馬車なんていくらだって見つかります。それでもあえてあんな馬車に乗ろうなんて冒険者、傍から見れば相当な物好きとしか思えませんわよ」
「……っ、それは」
その指摘を受けて口ごもるのは、馬車のチケットを俺たちに手配した張本人であるロアルグだ。その顔を見ながらふっと息を吐いて、一本目の指をゆっくり折りたたんだ。
「二つ目、あの時期にバラックに向かうというのにパーティの情報を知らないというのは流石に怪しすぎますわね。それを知っていればどこかの風変わりな貴族が護衛として冒険者を雇ったって無理が通るかもしれませんが、知らないってなれば三人は何の後ろ盾もなく貴族と関係があるわけでもないただの冒険者ってことになりますわ。……そんなもの、『怪しい』って顔に書いてあるのと同然でしょう?」
「……っ」
「三つ目、いくらなんでも周りに空席を作りすぎですわね。大方わたくしとお三方を自然に接触させようとしたのでしょうけど、それならわたくしの近くの席を取る方がよっぽど怪しまれずに済みますわよ。あの時期のパーティ会場に向かう馬車にあれだけの空席、何かの意図がない限り有り得ませんわ」
二本、三本と指を折りたたんで、アネットは疑わしいポイントを次々と指摘していく。その度にロアルグが弱った表情になっていって、しまいには言葉を失ってしまった。
「まあそんなわけで、マルクたち三人にもきっと何か事情があるんだろうとは早めに気づいてましたわよ。騎士団がそれをやったってところまでは、まあ流石に確信はできませんでしたけど」
両手を布団の上に投げ出し、アネットはそう結論付けて考察タイムを締めくくる。ロアルグが一切の言葉を失ってるあたり、まるっきり図星を突いていると見て間違いなさそうだった。
「……申し訳ございません、レーヴァテイン様」
しばらく沈黙が続いたのち、かすれた声でロアルグはアネットへ謝罪の言葉を投げかける。背筋を丸めて力なくうなだれるその姿は、今までで見たことがないぐらいに小さく見えた。
「貴女の抱いている覚悟を見誤り、挙句の果てにはそれを踏みにじりかねないようなことを私たちはしました。……貴女を幼い頃から知る者として、これは許されない失態です」
まるで懺悔をするかのように、ロアルグはぽつぽつと言葉を紡ぐ。それを聞くアネットもまた、いつしか真剣な表情を浮かべていた。
「この件において、レーヴァテイン様は私たちに如何様でも抗議する権利がある。貴女の中に息づく『騎士』としての誇りを踏みにじったこと、簡単な贖いで許されるとは思っておりません――」
背筋をわずかに震わせながら、ロアルグはかしこまった様子でアネットへと謝罪の言葉を連ねる。その言葉の一つ一つがアネットへの罪悪感の証で、何かを指示されたらきっと彼は迷うことなくそれに従うだろう。それがたとえ、騎士団長という称号を損なうことに繋がることであっても――
「……何をとぼけたことを言っていますの、早く顔を上げなさい」
――そんな想像が頭をよぎる中で、アネットはまたしても俺の予想を裏切った。
「『騎士を志す以上、いついかなる時であっても騎士で在り続けることを意識するように』――幼い頃に貴女に言われ、その後心掛けている言葉ですわよ」
「……レーヴァテイン、様」
その言葉にロアルグは顔を上げ、背筋をピンと伸ばしていく。それを見てアネットは満足げに首を縦に振ると、ゆっくりとだが再び上体を起こした。
「確かにロアルグは契約破りまがいのことをした、これは事実ですわ。……ですが、わたくしが持ちかけた契約自体がそもそも理不尽なものであったことも、買えようのない事実ですわよ」
少しバツの悪そうな表情を浮かべて、アネットは自らの無茶を反省する。その仕草を目にしたロアルグが驚いたように目を見開くと、アネットはクスリと笑みをこぼした。
「その顔、まさかわたくしがそんなことを言うとは思っていなかったって感じですわね。……なら、わたくしもこの事件を通じてまた一つ大きくなることが出来たってことですわ」
「……ええ、私から見てもそれは分かることです。今の貴女の眼は、今まで見た中で最も晴れやかだ」
しみじみと呟くアネットに対して、ロアルグは恭しい様子で頷く。それがお世辞や社交辞令の類なんかじゃないことは、傍でそのやり取りを見ていた俺たちにも明らかだった。
比喩表現ではなく、アネットの眼は澄み渡っているように見えるのだ。本当の名前を明かしたからどうこうとかじゃなくて、そこにはもっと多きな転機が多分存在している。いったい何がそうさせたかを問うのは、あまりにも野暮なことであるような気がした。
「そうですの? なら、それはここにいる皆様のおかげですわ。マルクさんたちが居なければわたくし、成長することもないまま罠にかかってあっけなく終わっていたかもしれませんもの」
「ええ、あの時のあなたはまだ『死』を身近に感じたことがなかったものね。……本当に、この短い間に見違えたものね」
まるで子を見る親のような眼で、リリスはアネットをまっすぐに見つめる。それを誇らしげな笑みとともに受け止めると、アネットはその視線をロアルグの方へと戻した。
「――わたくしがここまで大きくなれたのは、この事件を通じて皆様と出会えたからですわ。……それを仕組んだのはロアルグ、あなたですのよ?」
「……確かに私、ですが」
「ええ、それが分かっているならば誇るべきですわ。この出会いが作為であれ無作為であれ、わたくしにとって意義のある大切な出会いであることには変わらないんですもの。――その出会いを導いたあなたのことを、わたくしがどうして責めるって言うんですのよ」
なおも申し訳なさそうな表情を浮かべるロアルグに苦笑して、アネットははっきりと騎士団長の責任を否定する。……その言葉を聞いた瞬間、ロアルグの背中からこわばりが抜けたように見えた。
アネットは穏やかな笑みを浮かべ、そんな騎士団長のことをまっすぐな視線で見つめている。あれほどまでにまっすぐな許しの言葉を経てもまだどこか戸惑っているようなロアルグを見て、アネットは軽く手を打つと――
「――それでもまだわたくしに対して申し訳ないって思うならば、ここにいる四人の方に騎士団を挙げて最大限の待遇を返して差し上げなさい。それが、わたくしの思う一番真っ当な贖いのやり方ですわ」
お茶目に片目を瞑って、レーヴァテイン家のご令嬢はそう命令して見せたのだった。
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