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晴臣、「自分の知ってる渾身の一撃と違う」と心から突っ込む

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「フッ、魔王。この『僕』がいる事をわすれてないか?」


 軽やかにヴィオルが俺を庇うように立つと、腰の剣を抜きガーンと跳ね返した。

「ちっ、またしてもお前か」

 跳ね返された気弾を、魔王がおもちゃでもはたくかのように、パシっとかき消す。


──やべぇ、なんかレベルが違いすぎる。というかヴィオル、お前一人でいいんじゃないの?


「晴臣、力をかしてくれないか?」

 ヴィオルが背中を向けたまま俺に声を掛ける。

「はぁ? 共闘なら御免だぞ。お前、一人でなんとかできるだろ?」


 むしろ俺、必要要素皆無だろう?


「ハルオミ様、私も助太刀いたします。引き続きその偉大なお力を!」


 リスティが魔法の杖のようなものを取り出し構えている。いや、リスティ、俺は本当になんにもしてなかったでしょ? 状況みてました?


「私とヴィオルで奴に隙を作ります。その隙に貴方の拳を彼の心臓に!」


 リスティはそういうと魔王めがけ飛び出した。あとからヴィオルも軽やかに跳躍し魔王へと剣を振りかざす。


 ──まって、俺、心臓に拳って言われても。人なんて殴ったこともないのにっ!!


 俺はなにがなんだかわからず、リスティ達の後を追って走り出した。はっきりいってとろい。二人に全然ついてけない。俺が魔王の近くにたどりつく前に、二人はすでに激しい死闘を始めていた。

 ヴィオルの剣が魔王の気弾を受け止め、剣光をあげて跳ね返している。合間を縫うかのように、リスティが炎の魔法を次々と魔王に投げつけていた。

─速い。

 あまりの速さに俺の眼が追いついていない。 というか俺、本当にお呼びなの?


「今です!」「今だ!」


 二人が同時に俺に叫んだ。魔王が「しまった……油断をした」といい跪いている。本当に今なのか俺には全くわからないが。できる事はたった一つ。


─拳を魔王の心臓に!!


 俺は、めいいっぱい魔王の心臓めがけ、腕を振りあげた。コントローラ効果で熱くなった腕から大量の汗が同時に飛び散る。

「魔王ぉぉぉぉ! 俺のパンチをくらえぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 パス~ぅんぅぅぅぅ・・・・・。



 二人の攻撃と違い俺のパンチはぬるかった。音からしてなんか違う。なんだよ、コントローラー使えば俺の筋力あがるんじゃなかったのか。パンチされた魔王の身体がへこむとか、穴が空くとか、そういう感じのやつを期待してたのに。俺の知ってる渾身の一撃じゃないぞ。


「あ……あ……」


 魔王は俺のパンチがあまりにもそっけなくて唖然としたらしい。口を開けたまま固まっている。そして何故かおそるおそる胸元へと手を伸ばし……


「ぎやぁぁぁぁぁぁぁ、汗?? 臭っ、汚っ……いやぁぁぁぁん」

──え? いやぁん?


 魔王がおかまのような声をあげたかと思うと、ボンと音がし魔王の周囲が煙のようなもので包まれた。


「魔王が弱体化しましたわ」
「やったな! 晴臣」

 リスティとヴィオルが親指を立てて勝利のポーズを送ってくる。でも俺が何をしたというのだろうか。魔王に汗臭い、汚いと言われただけのような気がする。むしろ俺の精神にダメージがきてるんだが。

「いったい魔王はどうなったんだ」

「あぁ、魔王は凄いナルシストでね。汚いもの、不細工なものが体につくと拒絶反応を起こし弱体化するんだよ。いやぁ、戦闘においては彼と僕は互角だけど、魔族は体力がトップクラスだからね。結局はじりびんで負けてしまうんだ。しかも僕の汗は全く通じなくてね。困ってたんだよ」

 爽やかな汗を光らせ、ヴィオルがいう。

 だが、ヴィオルよ。それは遠回しに、俺って不細工で汚いって言ってないか? 言ってるよな?

「無礼ですよヴィオル! 魔王は確かにナルシストですが、汚いもの臭いものが苦手なのではありません。アグゥ~様のお体の汗という聖なる力に弱いのです。いわば聖水。はぁ、私もその汗に触れてみたい」

 リスティが顔を赤くして言う。いや聖水とか……それはそれで怖いです。お姫様。

「おのれぇぇぇ! またしても辱めおったなぁ! 許さないっ。許さないんだから」

 煙幕から魔王が怨嗟の声をあげる──にしてはなんだか声が高い。

「おやおやこれは。思った以上の効果がでたようだね」

 ヴィオルが黒くほほ笑みながら言う。やがて魔王が煙幕からでてき──


「ええええええええええ。女の子?」


 しかも銀髪貧乳美少女……めっちゃ好みです──っあ、元、男だった。
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