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晴臣、なんか黒い物を渡される

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「週1でもダメなのですか? ハルオミ様」

 リスティが目に涙を溜めて訴えてくる。

「え……いやその」


 困った。本当に困った。

 だって、初めてだったのだ。あんなに綺麗な女の子が自分を卑下せず、お願いしてきたのは。

「でも俺に魔王を倒す力なんて──
「あります! 貴方は魔法騎士の頂点にたつ『騎士王アグゥー様』の生まれ変わりなんです」


 いやアグゥーって誰だよ。

 なんか響き的に豚と言われてる気もするが! と突っ込みたいが、リスティの眼差しが真っすぐすぎて言えない。

「ハルオミ様っ この世界を救ってくださらないのですか?」
「え……いや、その……いきなり魔王とか。まずはスライムあたりを目標に……」
「すらいむ? 魔王からではなく?」
「それとんでもピンキリじゃないですか?」
「うう……」

 ああ、やめてくれ、そんな目で俺を見ないでくれ。もう俺はただの豚でいい。他の女子みたいに、豚だ、キモイと言ってくれれば、あと腐れなくここから逃げれる──だから。

「とにかく俺は、『騎士王』って奴の生まれ変わりじゃないんだ!!」
「……ごめんなさい。とつぜん『アグゥー様』の生まれ変わりと言われても、信じられませんよね。ならばこれを」

 彼女はパチンと指を鳴らすと、魔法なのか彼女の背後になにやら男の姿絵が浮かび上がった。姿絵に映る男は──

 まさに豚──じゃなかった俺にそっくりなおっさんだ。だが俺似のオッサンのくせに、顔も今の俺と違って、りりしく自信にあふれた顔をしている。それ以外は似ているから、リスティが生まれ変わりと勘違いするのもわからなくもない。

 だが、俺は一般人でこの豚は勇者だ。力量という点において絶対的な違いがある。


「悪いけれど、たとえ俺が『アグゥー』とかいうやつの生まれ変わりでも、今は強くもなんともないんだ」


 体育は成績は最下位。五十メートル走など女子より遅い。知略もなくリーダシップなんて皆無だ。


「そんな事はありません! 今から修行すればきっと強くなれます」

 修行で魔王倒せたら、だれでも勇者になれるって。

「そうだよ。頑張んなよ晴臣。でも君の場合、修行はいらないね」

 イケメンは黙れ。お前こそ騎士なら、俺に言うな。お前がやれ。

「修行しても無理なものは無理です。どうかわかってください」

 こんな異世界召喚なんて願ってない。頼むから元の世界に帰してほしい。

「せめて伝説の武器を試してくれませんか? この武器は『アグゥ-様』しか使えなかった伝説のアイテムなのです。この武器が使えなかったら素直に諦めます」

 リスティが空間から何やら黒い物体を取り出した。ヴィオルの解説によると物体を魔法で異空間に保存できる凄いやつらしい。もしかしてリスティのほうが、勇者の素質があるんじゃないか。

「受け取ってください」
「これは……」


 おい、アグゥー、お前……マジで勇者だったのか?


 だってこれ。

 ゲームのコントローラーだろ。

 しかもそれは俺のだ。なんせ汚れ具合が一緒かつ、俺の推しシール付きだからな。


「その顔つき。君はこの武器を知ってるね、晴臣」

 ヴィオルが低い声でニヤリと笑う。

「お前……俺の部屋から持ち出しただろう?」

「まさか。これは正真正銘、アグゥー様の必殺武器!! 『コントローラー』だよ」


 めっちゃ、そのままの名称じゃないか。発音を変えてもバレバレだからな。確信犯だろ、ヴィオル。


「ヴィオルの言う事は本当です。私が子供の頃から誰の手にも触れぬよう、神殿に厳重に保管されていましたから。そして知る人ぞ知る、リーゼロッテ様のシール付き。ここをめくると~~えぃ」

 ──!!!

「芸術的裸婦画が出現するんです! 凄くないですか?」

「………」

「これはこれは。確かに芸術的ですねぇ、晴臣」


 二人の視線が痛い。あとお姫様、誰の手にも触れぬよう保管されてたわりに、詳しくないですか?


「でもさ、コントローラーを武器にどうやって戦うんだよ。投擲でもたいした殺傷力はないぞ」
「それは簡単だよ」


 ヴィオルが俺に武器の説明をしようとした時だ。突如快晴だった空に黒い雲が多い雷鳴が鳴り響いた。


 あぁなんだろう。なんか不安しかないぞ。この展開。


「なんて事、魔王がきてしまったわ」


 え……いきなり魔王とご対面なのか? 順序的に四天王からとか、そういうのをお願いしたいんだけど。


「はーーーははははは。今日という今日は貴様を攫ってやるぞ。リスティ」


 マントを翻し現れたのは、めっちゃイケメンの魔王だった。定番の赤い瞳にワイルドな牙。そして女子の憧れ細マッチョ。しかも体を自慢したいのか上半身は裸だ。そして輝く銀髪……なんかいろいろ盛ってきやがって、魔王なら黒いローブきて登場しろよ。


「く……魔王。きましたわね」
「あぁ。来てやったさ。この俺様がお前を妻にするためにな」


 魔王がフッと笑いながら、キラキラと銀髪をなびかせる。


「貴方の妻になんてなりません!」
「俺様のどこに納得いかないんだ。知性、品格、人望、そしてこの美顔。すべてにおいてパーフェクトだろう? 週1とはいえ、こまめに魔界からここに通うのは大変なんだぞ、さっさと妻になれ」


そういう、ナルシストな所なんじゃないですかね。あと半裸とか……半裸とか。
と言ってやりたかったが、すべてにおいて劣る俺は、小物なのでなにも言えなかった。でも週一で通うの大変とか、やけに通勤じみた言い方だな。

 ──ん? ヴィオルの奴め、それで週1でいいと言ったのか。なんか話が旨いと思ったんだよ。

「来てくれなんて頼んでません。そして何度も言ったはずです。万人の人が、貴方をパーフェクトと認めようと、私の理想からは程遠いと。ヴィオル!」
「ははっ。姫様、このヴィオルにお任せください──というわけで、頼んだ」

 ヴィオルがポンと俺の肩をたたくとコントローラを手渡した。お前、全力で丸投げじゃないか。お任せくださいどこ行った?

 ──しかもコントローラでどうしろってんだよ。

「晴臣! 君の武器で心の赴くままボタンを押してみるんだ。君ならできる! 信じろ、騎士王の力を」


 ──って、騎士王って本当なのか。

 だが、このままではリスティが攫われてしまう。やるしかない。けれどボタンを押しても、なにも起こらなければ逃げるからな。そこらへんは丸投げしたんだ、責任とれよ、ヴィオル。

──よし、ボタンを押すぞ!

 何の取り柄もない俺だが、ゲームだけはちょっとだけ得意だ。ちょっとだけだけどな。それを活かした技ってことだよな。信じていいよなヴィオル。

 ポチっとボタンを押した刹那、俺の右腕が熱くなった。

 ──熱い。

 多分冗談だろうなぁが99%だったが、本当だったのか? なんだこれは。血流が上がり俺の腕の筋肉が一時的にUPするとでもいうのか? 汗が、腕から大量の汗がっ。


「これなら……。これなら……勝てるのかっ!!! はぁぁぁぁぁ」

 俺は某、戦闘アニメを思い浮かべ『気』を右腕に集めるイメージをとった。こうやって右腕の力がさらに沸き立つといいな……。

「ん? 誰だ? 醜い声をあげるのは……そこの豚? お前は何を……っ!!」

 魔王は俺を見たとたん、慌てて距離を取ってきた。いいぞ! 魔王が怯えている。効果だけは抜群のようだ。しかも姫の近くにいたというのに、全く俺の存在に気が付いてなかったらしい。まぁ見た目モブだから仕方がないのはわかるけれどな。空間的な面積はめっちゃとってたと思うぜ。

「な……何故だ。騎士王が何故ここに。お前は太古の昔に寿命を迎えて滅びたはず」

「甘かったな! 魔王。俺は『騎士王アグゥー』の生まれ変わり。魔法騎士晴臣だっ」

──あ、うっかり漫画のタイトルぽく言ってしまった。魔法なんて使えないのに。だが、このはったり的なノリで帰ってくれないか? 魔王。俺、めっちゃ心臓バクバクなんだ。これで倒せなかったら、速攻、帰るから。


「おのれぇぇぇ。またしてもお前かぁぁぁぁああああ。二度と視界にいれたくなかったのにぃぃぃ」


 魔王はアグゥーへのトラウマが酷いのか、俺をみてギャーと苦しそうに叫びだした。

「なんと魔王が苦しんでますわ。さすがです! ハルオミ様」
「うんうんスゴイヨ~晴臣」

 いや、リスティ、俺、まだなんにもしてないからね。後、適当に相槌打つなよ、ヴィオル。

 にしてもどうしたんだろう、俺の腕。ボタンを押してから汗が止まる気配がない。力のアップが激しすぎて体が付いていってないのだろうか。だが体を気にしてる場合じゃない、今こそ、攻め時だ。


「魔王! い、今なら俺の本気を出す前に見逃してやる。二度と姫の前に現れるな」

 とか言ったら帰ってくれないかなぁ。

「ほざけ! 貴様が本気を出す前に潰してくれるわぁああ!!」


  魔王が腕から気弾のようなものを出現させ、俺に向けて投げてきた──ヤバイっ、あれは死ぬ。
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