【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ

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第10話 #誤解の境界線

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 金曜の放課後。
 教室の空気がいつもよりざわついていた。
 期末前、文化祭準備、部活の引退試合――
 いろんな季節の音が混じっている。

 でも、そのどれよりも俺の耳に残ったのは、
 教室の後ろから聞こえてきた小さな笑い声だった。

「七瀬って、やっぱり真嶋のこと好きなんじゃね?」
「えー、でもあれ全部誤解って言ってたし」
「いや、目がガチだったもん」

 心臓が跳ねた。
 やめろ、その“目がガチ”っていう無責任ワード。

 ふと見ると、ひよりがノートを閉じて立ち上がった。
 笑顔はそのまま。けど、ほんの少しだけ目の奥が揺れていた。
「ごめんなさい、先に帰りますね」
 そう言って、教室を出ていく。

 俺は何も言えなかった。
 “誤解”の話を散々してきたくせに、
 今はどんな言葉をかければいいのか、わからなかった。

 廊下に出ると、ひよりの姿はもうなかった。
 残っていたのは、机の上に置かれたスケッチブック。
 表紙には、小さな字でこう書かれていた。

「誤解の境界線」

 中をめくると、ページいっぱいに鉛筆で描かれた二人のシルエット。
 けれど、その間には一本の線が引かれていた。
 ――距離、なのか。
 それとも、守るための境界線か。

 胸の奥が、少しだけ重くなった。

───────────────────────
StarChat #誤解の境界線
【校内ウォッチ】
「放課後、七瀬が一人で帰った。“あの二人”の間に何が?」
コメント:
・「#ついに亀裂?」
・「#誤解の終焉」
・「#境界線越える日は」
───────────────────────

「……マジで頼む、黙っててくれよ」
 スマホに向かってぼそっと呟く。
 それでも通知音は止まらない。

「お前ら、どんだけ人の恋バナ好きなんだ……」

 そのとき、背後から声がした。
「真嶋くん」
 振り返ると、ひよりが立っていた。
 校門の方から戻ってきたらしい。

「これ、忘れ物」
 スケッチブックを差し出す。
「ありがとう」
「……中、見ました?」
「……ちょっとだけ」
「恥ずかしいです」
「絵、上手かったよ」
「そうじゃなくて。
 “境界線”って描いたから、誤解されそうで」
「誤解、得意分野だろ」
「ふふ、そうでした」

 笑いながら、ひよりは少し俯いた。
「でも、本当は……」
「本当は?」
「線を引いたの、私が怖かったからです」
「怖い?」
「はい。
 もし、この“誤解”が本物になったら、
 もう今みたいに笑えなくなる気がして」

 その言葉が、胸の奥に突き刺さる。
 俺も、同じことを考えてたから。

「……俺も、少し怖い」
「え?」
「誤解って便利だよな。
 本音を隠せるし、気持ちを誤魔化せる。
 でも、それに甘えると、本当が遠くなる」
「遠くなる……」
「七瀬といると、楽しい。けど、それが“誤解”なのか“本気”なのか、
 自分でもわかんなくなる」

 沈黙。
 夕陽が二人の間に伸びた線を、長くしていく。

「ねえ、真嶋くん」
「うん」
「もし“誤解”の線が消えたら、どうしますか」
「……そのときは、ちゃんと答える」
「答える?」
「うん。今はまだ、“未遂”の続きだから」

 ひよりは少し驚いた顔をして、やがて笑った。
「じゃあ、もう少しだけ、この線の中でいましょうか」
「……ああ」

 風が吹いて、ページが一枚めくれた。
 そこには、新しい絵が描かれていた。
 二人のシルエットが、線の上で少しだけ近づいている。

───────────────────────
StarChat #誤解の境界線
【桜井先生@担任】
「境界線とは、越えるためにある。
 ただし、越えるときは“覚悟”を持て。」
コメント:
・「#先生の説得力が異常」
・「#恋の安全指導」
───────────────────────

 スマホを閉じる。
 空が少し赤く染まっていた。
 ――誤解でも、未遂でも、
 きっと、俺たちは少しずつ進んでる。

 その“境界線”の向こう側へ。
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