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第27話 終わりなき物語へ
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朝の光が静かに村を照らし始めた頃、エルフィナは診療所の前で、白衣姿のマリアと並んで腰を下ろしていた。 小鳥のさえずりと、遠くで子どもたちが遊ぶ声が心地よく響いてくる。
「なんだか……夢みたいだったね、全部」
マリアの言葉に、エルフィナは頷いた。
「でも、確かに通り抜けたの。わたしたちの“幸福”を取り戻すために」
神機リュカオンは沈黙した。 幸福値の演算も、神性の構築も、すべてが停止した。
その代わりにこの村には、ただの“日常”が戻ってきた。 畑の匂い、焼きたてのパン、朝露に濡れた草の感触。 数値では測れない、小さな幸せの欠片たち。
エルフィナは、手のひらを太陽に透かしてみた。 そこにはもう何の“数値”も浮かばない。 でも、心はかつてないほどに満ちていた。
「おーい! エルフィナ、マリアー!」
丘の上から、ラティとオルステンが手を振っている。 どうやら今日は“村の劇団”による初めての発表会らしい。 あの幸福値にまつわる騒動を、子どもたちが自分たちなりに演じるというのだ。
「行こうか」
「うん」
ふたりで立ち上がる。
丘の小さな広場には、手作りの舞台が用意され、布で作られた“神機”や“幸福演算装置”らしきものが設置されていた。 子どもたちは白い衣装に身を包み、「記録者」「神」「村人」などに扮している。
——それは滑稽で、でもどこかで胸を打つ光景だった。
演目の最後、ひとりの少女(エルフィナ役)が言った。
「幸福はね、誰かが決めるものじゃないよ。自分で選ぶものなんだ」
その瞬間、観客の中にいたエルフィナは、思わず涙ぐんだ。
ああ、ちゃんと伝わってる。
子どもたちに、未来に、ちゃんと“物語”は引き継がれている——
終演後、ラティが駆け寄ってくる。
「ねぇ、エルフィナ。『幸福の学校』って、作ってみない?」
「学校?」
「そう! 幸福値に頼らない生き方を、子どもたちと一緒に考えるの。農業でも、料理でも、歌でもいい。全部、“感じる”ことから始めるんだよ」
マリアも隣で笑う。
「それ、素敵じゃない?」
エルフィナは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「……いいね。やってみよう」
それは大それた夢ではない。 でも確かに、小さな革命だった。
“神”が定義しない幸福。 “機械”が管理しない希望。
それを人が、人として築いていくための最初の一歩。
エルフィナは、空を仰いだ。
青く澄んだ空の、その果てに—— まだ見ぬ物語が、きっと待っている。
「なんだか……夢みたいだったね、全部」
マリアの言葉に、エルフィナは頷いた。
「でも、確かに通り抜けたの。わたしたちの“幸福”を取り戻すために」
神機リュカオンは沈黙した。 幸福値の演算も、神性の構築も、すべてが停止した。
その代わりにこの村には、ただの“日常”が戻ってきた。 畑の匂い、焼きたてのパン、朝露に濡れた草の感触。 数値では測れない、小さな幸せの欠片たち。
エルフィナは、手のひらを太陽に透かしてみた。 そこにはもう何の“数値”も浮かばない。 でも、心はかつてないほどに満ちていた。
「おーい! エルフィナ、マリアー!」
丘の上から、ラティとオルステンが手を振っている。 どうやら今日は“村の劇団”による初めての発表会らしい。 あの幸福値にまつわる騒動を、子どもたちが自分たちなりに演じるというのだ。
「行こうか」
「うん」
ふたりで立ち上がる。
丘の小さな広場には、手作りの舞台が用意され、布で作られた“神機”や“幸福演算装置”らしきものが設置されていた。 子どもたちは白い衣装に身を包み、「記録者」「神」「村人」などに扮している。
——それは滑稽で、でもどこかで胸を打つ光景だった。
演目の最後、ひとりの少女(エルフィナ役)が言った。
「幸福はね、誰かが決めるものじゃないよ。自分で選ぶものなんだ」
その瞬間、観客の中にいたエルフィナは、思わず涙ぐんだ。
ああ、ちゃんと伝わってる。
子どもたちに、未来に、ちゃんと“物語”は引き継がれている——
終演後、ラティが駆け寄ってくる。
「ねぇ、エルフィナ。『幸福の学校』って、作ってみない?」
「学校?」
「そう! 幸福値に頼らない生き方を、子どもたちと一緒に考えるの。農業でも、料理でも、歌でもいい。全部、“感じる”ことから始めるんだよ」
マリアも隣で笑う。
「それ、素敵じゃない?」
エルフィナは、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「……いいね。やってみよう」
それは大それた夢ではない。 でも確かに、小さな革命だった。
“神”が定義しない幸福。 “機械”が管理しない希望。
それを人が、人として築いていくための最初の一歩。
エルフィナは、空を仰いだ。
青く澄んだ空の、その果てに—— まだ見ぬ物語が、きっと待っている。
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