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第6話「王都リュミエールへ」
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旅を始めて三日目の朝、リオは早く目覚めた。
昨日までの森と丘の道を抜け、ついに王都の外郭が視界に現れる日が来たのだ。
レーベンは馬を並べ直し、眠そうなリオを振り返った。
「今日は早いな。緊張しているのか?」
リオは苦笑いを浮かべてうなずく。
「うん。ずっと想像してきた場所だし、やっぱり……不安も、楽しみも、全部あるよ」
『心配するな、リオ。どれほど大きな街であろうと、お前の魂は揺るがない』
グラン=ヴァルドの声が心の中に優しく響く。
その言葉は、これまでのどんな長い道のりよりも、リオの背中を押してくれる気がした。
やがて街道を進むにつれ、王都リュミエールの巨大な外壁が、朝陽を浴びてゆっくりと姿を現した。
白い石で築かれた高い壁は、数百年の歴史を誇る王国の象徴だ。
門番の兵士たちが警戒しつつも朗らかに旅人たちに声をかける姿。城壁の上には、青と金の旗が風に揺れている。
王都の門をくぐると、そこには想像を遥かに超える世界が広がっていた。
石畳の道には商人や旅人、馬車に乗った貴族、子供たちの歓声、さまざまな言葉が飛び交い、色とりどりの屋台が並ぶ。
道端では音楽家が竪琴を弾き、香辛料や花の香りが風に混じる。
「す、すごい……!」
リオはその賑わいと煌びやかさに圧倒されていた。
自分がこれまで知っていた“世界”は、なんて小さかったのだろうと、胸が高鳴った。
「王都に初めて来たのか?」
レーベンが肩越しに微笑む。
「はい……。本当に、いろんな人がいるんですね……」
「ここでは、あらゆる夢と野心がぶつかり合っている。リオ、君もその一人になれるといいな」
リオは思わずカードを握りしめる。
(絶対に、負けない。俺も、この街で認められてみせる)
王都の中心へと向かうと、ひときわ目を引く大きな建物があった。
「……あれが、ギルドの本部か?」
リオは巨大な石造りの建物を見上げる。
正面には「王都カードギルド」の紋章。
広い階段を上り下りする人々、外の掲示板に貼られた“カードバトル大会”の告知。
中庭では見習いクリエイターたちが自作カードの交換や議論を繰り広げていた。
「本部ギルドは、王都の中心だけでなく、カードバトル界そのものの中心でもある。ここに出入りするクリエイターたちは、皆が夢と誇りを賭けて挑戦している」
レーベンは誇らしげに語るが、リオにはその世界がまだ遠く感じられた。
道を進むうち、今度は金色の屋根がまぶしい広場が現れた。
そこには巨大なアリーナ――公式カードバトル会場がそびえていた。
リオは思わず足を止め、アリーナの門から中をのぞきこむ。
広大な観客席と、中央には煌めくバトルフィールド。
天井には魔法の光が走り、さまざまなカードの紋章が浮かび上がる。
今日も公式戦が開催されているのか、歓声と熱気が会場全体にあふれていた。
「これが……本物の公式バトル会場……!」
リオの心は、一気に現実から冒険譚の主人公になったかのように躍動した。
(いつか、あの場所で――)
レーベンはリオの背中をそっと押し、会場の入り口でしばし様子を見せてくれた。
炎をまとった幻獣、翼を広げて舞い降りる精霊、風の刃を操る戦士……
見たことのないほど多彩なカードが、クリエイターたちの手によって次々と繰り出される。
「カードバトルは、ただの力比べではない。戦略も、創造も、想いもすべてが試される。
――リオ、お前ならきっと、この場に立てる日が来る」
その言葉を胸に刻みつけ、リオは再び歩き出した。
やがて管理庁の高い塔が見えてきた。
石造りの門を抜け、受付の広間へ進む。
「リオ・バルド、聖印管理庁のカード公認審査に来ました」
レーベンが手続きを済ませると、若い案内人がリオを「クリエイター候補者待合室」へと案内する。
その広間は想像以上に広く、さまざまな年齢、雰囲気の若者たちが待っていた。
色とりどりの自作カードを磨く者、ノートに何やらメモを書き込む者、じっと瞑想する者……
中には大人びた雰囲気の女性や、子供とは思えない堂々とした少年も混ざっている。
「こんなにたくさん……」
リオは、改めて自分が“夢の世界”の入り口に立っているのだと実感した。
待合室の端では、三人ほどのグループが静かに話していた。
ひときわ目を引くのは、銀髪の少女――涼やかな青い目、薄い唇、全身から知性と自信が漂う。
彼女はまるで大人のように堂々とカードを扱い、ノートにさらさらと魔法式を書き込んでいる。
(すごい……あれが“天才少女”ってやつなのか……)
その隣には、きちんとした貴族服を身に着け、背筋を伸ばした少年。
金髪をなでつけ、物静かな目で部屋全体を観察している。
(たぶん……元貴族、って感じだな)
ふと銀髪の少女がリオに気付き、まっすぐに歩み寄ってきた。
「あなた、新顔ね? 村の子? 名前は?」
彼女の口調は、どこか小馬鹿にしているようでありながら、強い興味と自信に満ちていた。
「あ、えっと、リオ・バルドです。今日、管理庁の公認審査を受けにきて……」
「ふぅん。私はユリエル。王都のギルドで一番のカードクリエイターを目指してるの。
――あなたのカード、見せてくれる?」
リオは少し戸惑いながらも、ポケットからグラン=ヴァルドのカードをそっと取り出す。
ユリエルはそのカードをじっと見つめ、目を細めた。
「……なにこれ。封印竜? 本物なの?」
「う、うん。これが俺の、最初の“相棒”なんだ」
ユリエルは「へぇ」と言い、興味深そうにカードを返してくる。
「まあ、後でバトルする時を楽しみにしてるわ」
その隣で見ていた金髪の少年も、一歩前に出てリオに名乗った。
「……シュトラ・ヴェルグロスだ。ギルドの推薦で来た。
君のカード、珍しいね。村育ちだなんて……ここじゃ目立つだろうな」
シュトラの声は控えめだが、どこか誇り高い雰囲気がにじんでいる。
リオは緊張しながらも、自分も胸を張って名乗った。
「俺はリオ・バルド。村から来たけど、絶対負けないよ。いつか、あんたたちにも勝ってみせる!」
ユリエルがニヤリと笑う。
「ふふ、楽しみね」
そのやりとりを見ていた他のクリエイター候補たちも、それぞれの思いを胸にリオを一瞥する。
自信家、冷静派、負けず嫌い……王都には本当にさまざまな夢と誇りが集まっていた。
「リオ、審査が始まるまでに、カードの手入れをしておけ」
レーベンが控室の扉から顔を出す。
リオは深呼吸しながら、カードを磨き直す。
自分もこの世界の一員なのだ――そう胸に刻みながら。
控室の窓からは、王都の広大な景色が一望できた。
無限の可能性と試練が、リオの前に広がっている。
――いよいよ、“夢”の本当の一歩が、ここから始まる。
昨日までの森と丘の道を抜け、ついに王都の外郭が視界に現れる日が来たのだ。
レーベンは馬を並べ直し、眠そうなリオを振り返った。
「今日は早いな。緊張しているのか?」
リオは苦笑いを浮かべてうなずく。
「うん。ずっと想像してきた場所だし、やっぱり……不安も、楽しみも、全部あるよ」
『心配するな、リオ。どれほど大きな街であろうと、お前の魂は揺るがない』
グラン=ヴァルドの声が心の中に優しく響く。
その言葉は、これまでのどんな長い道のりよりも、リオの背中を押してくれる気がした。
やがて街道を進むにつれ、王都リュミエールの巨大な外壁が、朝陽を浴びてゆっくりと姿を現した。
白い石で築かれた高い壁は、数百年の歴史を誇る王国の象徴だ。
門番の兵士たちが警戒しつつも朗らかに旅人たちに声をかける姿。城壁の上には、青と金の旗が風に揺れている。
王都の門をくぐると、そこには想像を遥かに超える世界が広がっていた。
石畳の道には商人や旅人、馬車に乗った貴族、子供たちの歓声、さまざまな言葉が飛び交い、色とりどりの屋台が並ぶ。
道端では音楽家が竪琴を弾き、香辛料や花の香りが風に混じる。
「す、すごい……!」
リオはその賑わいと煌びやかさに圧倒されていた。
自分がこれまで知っていた“世界”は、なんて小さかったのだろうと、胸が高鳴った。
「王都に初めて来たのか?」
レーベンが肩越しに微笑む。
「はい……。本当に、いろんな人がいるんですね……」
「ここでは、あらゆる夢と野心がぶつかり合っている。リオ、君もその一人になれるといいな」
リオは思わずカードを握りしめる。
(絶対に、負けない。俺も、この街で認められてみせる)
王都の中心へと向かうと、ひときわ目を引く大きな建物があった。
「……あれが、ギルドの本部か?」
リオは巨大な石造りの建物を見上げる。
正面には「王都カードギルド」の紋章。
広い階段を上り下りする人々、外の掲示板に貼られた“カードバトル大会”の告知。
中庭では見習いクリエイターたちが自作カードの交換や議論を繰り広げていた。
「本部ギルドは、王都の中心だけでなく、カードバトル界そのものの中心でもある。ここに出入りするクリエイターたちは、皆が夢と誇りを賭けて挑戦している」
レーベンは誇らしげに語るが、リオにはその世界がまだ遠く感じられた。
道を進むうち、今度は金色の屋根がまぶしい広場が現れた。
そこには巨大なアリーナ――公式カードバトル会場がそびえていた。
リオは思わず足を止め、アリーナの門から中をのぞきこむ。
広大な観客席と、中央には煌めくバトルフィールド。
天井には魔法の光が走り、さまざまなカードの紋章が浮かび上がる。
今日も公式戦が開催されているのか、歓声と熱気が会場全体にあふれていた。
「これが……本物の公式バトル会場……!」
リオの心は、一気に現実から冒険譚の主人公になったかのように躍動した。
(いつか、あの場所で――)
レーベンはリオの背中をそっと押し、会場の入り口でしばし様子を見せてくれた。
炎をまとった幻獣、翼を広げて舞い降りる精霊、風の刃を操る戦士……
見たことのないほど多彩なカードが、クリエイターたちの手によって次々と繰り出される。
「カードバトルは、ただの力比べではない。戦略も、創造も、想いもすべてが試される。
――リオ、お前ならきっと、この場に立てる日が来る」
その言葉を胸に刻みつけ、リオは再び歩き出した。
やがて管理庁の高い塔が見えてきた。
石造りの門を抜け、受付の広間へ進む。
「リオ・バルド、聖印管理庁のカード公認審査に来ました」
レーベンが手続きを済ませると、若い案内人がリオを「クリエイター候補者待合室」へと案内する。
その広間は想像以上に広く、さまざまな年齢、雰囲気の若者たちが待っていた。
色とりどりの自作カードを磨く者、ノートに何やらメモを書き込む者、じっと瞑想する者……
中には大人びた雰囲気の女性や、子供とは思えない堂々とした少年も混ざっている。
「こんなにたくさん……」
リオは、改めて自分が“夢の世界”の入り口に立っているのだと実感した。
待合室の端では、三人ほどのグループが静かに話していた。
ひときわ目を引くのは、銀髪の少女――涼やかな青い目、薄い唇、全身から知性と自信が漂う。
彼女はまるで大人のように堂々とカードを扱い、ノートにさらさらと魔法式を書き込んでいる。
(すごい……あれが“天才少女”ってやつなのか……)
その隣には、きちんとした貴族服を身に着け、背筋を伸ばした少年。
金髪をなでつけ、物静かな目で部屋全体を観察している。
(たぶん……元貴族、って感じだな)
ふと銀髪の少女がリオに気付き、まっすぐに歩み寄ってきた。
「あなた、新顔ね? 村の子? 名前は?」
彼女の口調は、どこか小馬鹿にしているようでありながら、強い興味と自信に満ちていた。
「あ、えっと、リオ・バルドです。今日、管理庁の公認審査を受けにきて……」
「ふぅん。私はユリエル。王都のギルドで一番のカードクリエイターを目指してるの。
――あなたのカード、見せてくれる?」
リオは少し戸惑いながらも、ポケットからグラン=ヴァルドのカードをそっと取り出す。
ユリエルはそのカードをじっと見つめ、目を細めた。
「……なにこれ。封印竜? 本物なの?」
「う、うん。これが俺の、最初の“相棒”なんだ」
ユリエルは「へぇ」と言い、興味深そうにカードを返してくる。
「まあ、後でバトルする時を楽しみにしてるわ」
その隣で見ていた金髪の少年も、一歩前に出てリオに名乗った。
「……シュトラ・ヴェルグロスだ。ギルドの推薦で来た。
君のカード、珍しいね。村育ちだなんて……ここじゃ目立つだろうな」
シュトラの声は控えめだが、どこか誇り高い雰囲気がにじんでいる。
リオは緊張しながらも、自分も胸を張って名乗った。
「俺はリオ・バルド。村から来たけど、絶対負けないよ。いつか、あんたたちにも勝ってみせる!」
ユリエルがニヤリと笑う。
「ふふ、楽しみね」
そのやりとりを見ていた他のクリエイター候補たちも、それぞれの思いを胸にリオを一瞥する。
自信家、冷静派、負けず嫌い……王都には本当にさまざまな夢と誇りが集まっていた。
「リオ、審査が始まるまでに、カードの手入れをしておけ」
レーベンが控室の扉から顔を出す。
リオは深呼吸しながら、カードを磨き直す。
自分もこの世界の一員なのだ――そう胸に刻みながら。
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