【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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第9話「ギルドへの勧誘」

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 聖印管理庁での認可から一夜明けた朝、リオは王都リュミエールの眩い陽射しの中、宿舎の窓を開け放った。窓の外は石畳の広場、露店の賑わい、色とりどりの旗や新しいカードバトル大会の告知が風に舞っていた。

 

 (本当にここから俺の新しい毎日が始まるんだな……)

 

 胸元のカードケースに、グラン=ヴァルドのカードがぬくもりを伝えている。
 心の奥に、昨夜の謎めいた忠告が残る。「本当の敵は外にいる」――その一言の重さを振り切るように、リオは深呼吸した。

 

 食堂で朝食を取ると、早速ロビーに見慣れぬ人影が立ち並んでいた。男も女も、年齢も服装もばらばらだが、どこか皆が「何かを期待して」集まっている。リオが一歩足を踏み出すと、その中の壮年の男がにこやかに帽子を取ってみせた。

 

 「おや、君がリオ・バルド君だね? 君にぜひ話がしたいんだ」

 

 「え?」

 

 「実はうちのギルド《銀鷲(シルバーイーグル)》では、長い間、伝説級カードを使えるクリエイターを探していてね。君の昨日の審査、すごかったよ。どうだい、すぐにでも“エース”待遇で迎えるよ。個室寮に専属サポーター付き、給金も破格だ」

 

 リオは思わず後ずさった。
 すぐに背後から別の男が現れる。

 

 「《紫煙の剣(スモークブレイド)》だ。我々は実力主義。君さえ来てくれれば、王都一の戦闘派ギルドになる。最高の設備、カード研究所も使い放題だ。入会金も免除しよう」

 

 さらに若い女が割り込んでくる。

 

 「《聖炎の誓い》のリーダー、アメリアです。うちのギルドは“家族”のような温かさが自慢。君のような若き天才を守るためなら、どんな犠牲も惜しまないわ。絶対に後悔させない」

 

 立て続けの勧誘に、リオは目を白黒させた。

 

 「え、あの、まだ……」

 

 男たちはまくし立てるようにギルドの名誉や好待遇を強調し、互いに火花を散らしている。
 「うちなら専用ラボ!」「王家の推薦状もつけよう!」「君専用のカード工房!」
 中には、王都のカードバトル界で有名な「天才」や「伝説バトラー」の名も聞こえた。

 

 ふと、少し離れた場所からひときわ涼やかな声が響いた。

 

 「賑やかだね。さすが伝説級カードの使い手」

 

 リオが振り向くと、昨日審査会で出会ったユリエルが腕を組み、余裕の微笑みを浮かべていた。

 

 「君に声をかけないギルドなんて、王都には存在しないんじゃない?」

 

 「……でも、正直びっくりしてる。こんなにたくさん誘われるなんて」

 

 「まあ、今のうちに色々“品定め”しても損はないよ。うまく立ち回れば、一生安泰の契約が取れるかもね」

 

 ユリエルはどこか試すような目でリオを見つめる。
 その隣に、シュトラも静かに現れる。

 

 「大手ギルドのバックがあれば、カード精製やバトルの練習環境は桁違いに良くなる。
 でも――自分の力だけで頂点を目指したいなら、時には孤独も受け入れなければならない」

 

 その言葉に、リオは胸の奥がじわりと熱くなった。

 

 (俺は、どうしたいんだろう)

 

 その時、心の奥でグラン=ヴァルドの声が静かに響いた。

 

 『リオ――お前は、名声や権力を求めてここまで来たのか?』

 

 リオはゆっくりと首を振る。

 

 (違う。俺は……自分の手でカードを精製し、戦って、みんなに認めてもらいたかったんだ。誰かに守ってもらうんじゃなくて、自分の足で立ちたい)

 

 『その心こそ、我が力の源。お前の“魂”が揺るがぬ限り、私はお前と共に戦おう』

 

 その言葉に、不思議な力がリオの胸に宿る。

 

 「――ありがとうございます。でも、俺は……どのギルドにも入りません」

 

 ロビーに集まった面々が一斉にざわめく。

 

 「……何を言ってるんだい? チャンスを棒に振る気か?」
 「よく考えろ。君一人じゃこの王都で生き残るのは無理だぞ!」
 「伝説級カードを狙う闇組織だっているんだ!」

 

 リオははっきりと、全員の目を見渡した。

 

 「俺は、他人の力じゃなく、自分の力と、これから出会う仲間たちと一緒に、道を切り開いていきたいんです。
 それが、俺の夢です!」

 

 一瞬、場の空気が凍りついたような静寂が流れる。
 だが次の瞬間、どこからともなく小さな拍手が起きた。

 

 「――いいじゃないか。自分の道を選ぶのは勇気がいることだ」

 

 静かに拍手したのは、昨日“裏社会”について忠告してきた黒衣の男だった。
 彼はリオにだけわかるように微笑み、すぐに人混みの中へ消えていった。

 

 ギルドのリーダーたちはややあきれ顔で肩をすくめたが、「もし考えが変わったら、いつでも歓迎するよ」とそれぞれに名刺や招待状を差し出し、ロビーから引き上げていった。

 

 静かになったロビー。リオはユリエルとシュトラに向かって言った。

 

 「二人はどうしてギルドに入ったの?」

 

 ユリエルは肩をすくめる。

 

 「私は才能が評価されやすい場所を選んだだけ。勝ちたいからね。でも……君みたいなタイプが一番面白いことを起こすんだ。期待してる」

 

 シュトラは静かに頷く。

 

 「俺は家柄を守るためだった。でも今は、自分の意志で戦うことの意味を探している」

 

 リオは、二人の言葉に自分の選んだ道への確信を深めた。

 

 (俺は、グラン=ヴァルドと、仲間たちと――自分らしいやり方で、王都で、いや世界で認められるカードクリエイターになる)

 

 その夜、リオは広い空を見上げながらカードを手に誓いを新たにした。

 

 (どんな困難があっても、俺は自分の道を進む)

 

 グラン=ヴァルドの声が、星空の下、確かにリオの胸に響いた。

 

 『進め、リオ。お前の魂が歩む限り、私はいつもお前のそばにいる』

 

 静かな夜風が、少年の決意を祝福するように優しく吹き抜けていった。

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