【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

文字の大きさ
11 / 101

第11話「管理庁からの追跡」

しおりを挟む
 王都リュミエールの春祭りの余韻が残るなか、リオの名は徐々に広まっていった。
 村育ちの少年が伝説級カードを公認で操り、王都大会で奮戦したという話題は、カードギルドや庁内だけでなく、街の市井や露店、噂好きな老婦人たちまでが語り草にしていた。

 

 ――王都の広場の壁新聞には、“伝説竜カードの少年”の挿絵と勇姿が大きく描かれ、その下に“リュミエールの新星”“封印竜リオ”と太字で書かれている。

 

 (……なんだか、俺じゃないみたいだな)

 

 自分のことがまるで誰か別の冒険譚になったかのようで、リオはくすぐったい気持ちになる。
 けれどそれ以上に、胸の奥には妙な不安が静かに広がりつつあった。

 

 「お前、リオ・バルドだろ? 昨日の大会、見たぞ!」

 

 市街を歩けば、子供たちが興奮した様子で駆け寄り、商人や見知らぬ若者からも声をかけられる。
 ユリエルやシュトラ、ミナと歩いていても、「あの伝説カードの!」と噂される。
 それは一種の誇らしさと同時に、“特別な視線”に晒される居心地の悪さもあった。

 

 宿に戻れば、ギルドからの再勧誘やカード企業の面談依頼が山ほど届いていた。
 リオはそれらを一つずつ断りながら、ただ静かにカード精製の練習に没頭しようと心掛けていた。

 

 (俺は……俺のやり方で強くなりたいだけなのに)

 

 そんなある日の午後、聖印管理庁の若い役人が宿舎を訪れた。

 

 「リオ・バルド君。庁からの“ご招待”だ。――この文書、直接庁舎へお越しくださいとのこと」

 

 手渡された封筒には、管理庁の紋章。
 リオは苦い気持ちで文書を開く。そこにはこう記されていた。

 

 「君の伝説級カードの公的使用に関し、追加の説明義務が生じた。
 速やかに庁舎へ来ること」

 

 (説明義務……? 公認審査はもう終わったはずだろ)

 

 疑念を抱きつつも、リオはミナや仲間たちに「ちょっと行ってくる」とだけ告げて宿を出た。
 心の奥でグラン=ヴァルドの声が低く響く。

 

 『注意しろ、リオ。人の羨望は、しばしば憎悪や欲望にも変わる』

 

 庁舎の応接室には、昨日まで見かけなかった年配の男たちがずらりと並んでいた。
 彼らはリオを席に座らせると、表情を変えずこう言った。

 

 「君のカードは“危険視”されている。もし何かあれば、直ちに庁が回収する権利がある」
 「王都の治安と秩序のために、君自身の行動も監視下にある。わかるな?」

 

 その目には、警戒というよりも敵意が潜んでいた。
 リオは静かにカードケースを握る。

 

 「俺は何も悪いことはしていません。グラン=ヴァルドも、誰も傷つけたりは――」

 

 「だが、もし君が力を暴走させれば、王都の大災厄となる。伝説級カードは“個人の所有”に馴染まぬ。理解しろ」

 

 強い圧力に、リオは思わず唇をかみしめた。
 だが、庁の責任者の一人は、さらに低い声で告げる。

 

 「我々にも“強硬派”がいる。君や君のカードをどう扱うか――この先は、君の行動次第だ」

 

 面談を終え、庁舎を出る頃には、心の奥に鈍い重しができていた。

 

 (俺が、何をしても、結局は“危険な存在”に見られるのか……?)

 

 その夜、宿に戻っても、どこか背後に気配を感じてならなかった。

 

 ――誰かが、見ている。

 

 ミナやユリエルたちと夕食を取っていても、その違和感は消えない。
 食後、ミナが静かに声をかけた。

 

 「リオ、大丈夫? 今日、なんだかずっと顔が暗いよ」

 

 「……ごめん。ちょっと、気になることがあって」

 

 夜遅く、リオは眠れずに宿の中庭に出た。
 月光の下、グラン=ヴァルドのカードをそっと取り出す。

 

 (俺のせいで、グラン=ヴァルドまで危険な目に遭ったら……)

 

 『リオ。お前の迷いはよくわかる。だが私は、お前が選んだ主として、共にあるだけだ。誰に何を言われようと、魂は繋がっている』

 

 その言葉に、リオの胸の奥がふっと温かくなる。

 

 しかし、そのとき。
 ――庭の影が、わずかに動いた。

 

 「誰だ?」

 

 リオが警戒して身構えると、闇から複数の人影がにじり出てくる。
 顔を覆った黒衣の集団、その先頭が低い声で名乗った。

 

 「伝説級カード保持者、リオ・バルド。庁の命令により、そのカードを一時回収する」

 

 「……そんな命令、聞いてない!」

 

 「君のような“未熟な”クリエイターに伝説の力は危険だ。我々が預かる」

 

 男たちは手に特殊なカードを握りしめ、一斉に召喚の詠唱を始める。
 黒い影から現れたのは、捕縛用の鎖を持つ幻獣カードや、麻痺効果を持つ闇犬の群れ。

 

 リオはカードケースを強く握る。

 

 (グラン=ヴァルド、頼む!)

 

 『我が魂はお前のもの――呼べ!』

 

 リオは3マナを消費し、カードを月光の下で掲げる。

 

 「封印竜グラン=ヴァルド、出てこい!」

 

 黒曜石の竜が中庭に姿を現すと、その気配に黒衣たちが一瞬ひるんだ。

 

 「この竜……本当に、伝説級……!」

 

 男たちは幻獣カードを次々に投げつけてくる。
 グラン=ヴァルドの防御スキルで鎖を弾き、咆哮で闇犬たちを一掃する。

 

 だが、ひとりが手札から「封印結界」のカードを発動――竜の動きを制限する魔法陣が地面に浮かぶ。

 

 (グラン=ヴァルド!)

 

 『心を乱すな、リオ。お前の“魂”で私を導け』

 

 リオは深く息を吸い、カードと心で語りかけた。

 

 (俺は、お前を信じる! 絶対に、奪わせない――!)

 

 その瞬間、グラン=ヴァルドの紋章が淡く輝き、封印結界の鎖が音を立てて弾け飛んだ。

 

 「なっ……!」

 

 竜が闇犬を一瞬で焼き払い、捕縛幻獣を一撃で吹き飛ばす。

 

 黒衣の集団はあっという間に劣勢になり、「撤退!」と叫んで夜の闇へ逃げ去っていった。

 

 リオは息を切らしながら、グラン=ヴァルドのカードを胸に抱きしめる。

 

 (俺は……もう、ただの村の少年じゃない。持ってしまったこの力は、誰からも狙われる――)

 

 竜の声が優しく語りかけた。

 

 『お前が選んだ道だ。だが、恐れるな。力を持つ者には、必ず“責任”が伴う。それを背負い、なお進む覚悟があるなら――私は、必ずお前と共に戦う』

 

 リオは静かにうなずいた。

 

 (俺は逃げない。誰に狙われても、このカードと仲間たちと――世界のために、自分の信じる戦いを貫く)

 

 空には静かに星が瞬いていた。
 その下で、リオの決意は、かつてないほどに強く、固くなっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...