【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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第12話「幻のカードクリエイター」

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 王都リュミエールの朝は、いつもよりざわめいていた。
 広場の噴水前では、新聞売りの少年たちが声を張り上げる。

 

 「幻のカードクリエイターが街に現れたってよ! すごいカードを精製したって!」

 

 リオは宿舎の窓から外の喧騒をぼんやりと眺めていた。
 昨夜の襲撃事件から一夜明けても、心の奥にはまだ重苦しい余韻が残っている。
 だが同時に、「伝説級カード保持者」として、もはや自分は普通の少年ではいられないことも痛感していた。

 

 (……責任を背負うって、こういうことなんだな)

 

 グラン=ヴァルドのカードを胸元で確かめる。
 竜の穏やかな声が心に響いた。

 

 『リオ。心が沈むと、魂の共鳴が鈍るぞ。お前には、まだ歩むべき道がある』

 

 (ああ……ありがとう、グラン=ヴァルド)

 

 重い気持ちを振り切るように、リオは街へ出た。
 広場は朝から人で賑わい、各地のギルドやカード職人、クリエイター志望の少年少女が噂話に花を咲かせている。

 

 「なあ、幻のクリエイターって本当にいるのか?」「昨日、裏通りで見たってやつもいる」「全く新しいカードを、その場で精製したらしい!」

 

 リオは興味を惹かれながらも、どこか落ち着かない気分だった。
 昨夜の襲撃騒動の後遺症か、知らないうちに自分の存在が王都中に広まっていることへの戸惑いか――

 

 ふと、露店の影から誰かの視線を感じた。

 

 「……お前が、リオ・バルドか」

 

 低く澄んだ声。
 振り向くと、年齢不詳のクリエイターが立っていた。細身の体に黒ずくめのコート、肩から下げたカードケースには、見たこともない複雑な紋様が浮かんでいる。

 

 「あんたは……」

 

 「私の名は、アルノルト」

 

 周囲のざわめきが、一瞬で静かになる。



 「あれが幻のクリエイター、アルノルト……」



 誰もが噂の本人を目の当たりにして息を呑んだ。

 

 アルノルトはまっすぐリオを見つめた。

 

 「お前のカード……伝説級の竜と聞いた。見せてみろ」

 

 リオは一瞬ためらったが、胸元からグラン=ヴァルドのカードを差し出す。
 アルノルトは慎重にカードを受け取り、手のひらでそっとなぞった。

 

 「これは……“精製”されたもののはずなのに、“創造”の気配が強い。珍しいな。魂と魂が共鳴しあい、二度と同じカードは生まれない」

 

 リオは思わず聞き返した。

 

 「どういうことだ?」

 

 アルノルトは静かに言葉を紡ぐ。

 

 「一般的な精製カードは“模写”や“写し”の要素が強い。だが本物のクリエイターは、魂と記憶と世界の“まだ見ぬ可能性”を組み合わせて、唯一無二のカードを“創造”する」

 

 「……唯一無二のカード?」

 

 「そうだ。誰にも真似できない、お前だけの“物語”を刻むカードだ。お前はそれができるはずだ」

 

 リオの胸に、熱いものがこみ上げる。
 これまで“強いカード”を作ることしか考えてこなかった。だがアルノルトの言葉は、自分の奥に眠る「本当に欲しかったもの」を突きつけてくる。

 

 「――精製バトルをしよう」

 

 アルノルトが一歩前に出た。

 

 「バトルを通じて、お前の“創造”の本質を見せてみろ。俺も、自分だけのカードで応える」

 

 人々がざわめき、即席の広場があっという間にバトルフィールドに変わる。

 

 審判役を買って出たギルド職人が公式ルールを宣言した。

 

 「本日の精製バトルは、両者新規カード1枚ずつ、その場で精製してからの一騎打ちとする!」

 

 アルノルトは、懐から白紙のカードを取り出し、静かに瞳を閉じた。
 手のひらが青白く光り、カードに美しい魔法陣が浮かび上がる。

 

 「現れろ――《時空の渡り鳥(タイム・トラベラー)》」

 

 カードから放たれた光が広場に満ち、幻の鳥が空を舞う。
 見る者全てに“失われた記憶”を呼び起こすという、伝説の精製術だった。

 

 リオも白紙のカードを手にし、目を閉じる。

 

 (俺だけの……誰にも真似できないカード……)

 

 心の奥で、村の景色、仲間の声、グラン=ヴァルドとの記憶が鮮やかに甦る。
 指先に温かな力が満ち、魔法陣が浮かぶ。

 

 「来い――《故郷の光(ホームライト)》!」

 

 白い光があたりを包み、小さな村の風景、ミナや母、出会った仲間たちの温もりがカードの中に封じ込められた。

 

 「いくぞ、リオ・バルド!」

 

 「はい!」

 

 【精製バトル開始】

 

 アルノルトの《時空の渡り鳥》が高空を翔け、時間を歪めるスキルでリオの手札の順番を変えたり、カードの発動タイミングをずらしてくる。
 リオの《故郷の光》は、フィールド全体を優しい光で包み、敵のスキルを一度だけ無効化する“癒やし”のカード。

 

 「カードの強さは、単なる攻撃力や派手なスキルだけじゃない」

 

 アルノルトが静かに言う。

 

 「お前のカードには、たしかに“お前だけの物語”が刻まれている。魂の共鳴は、時に最強の武器になる」

 

 リオはグラン=ヴァルドのカードを握りしめながら、心でつぶやいた。

 

 (俺のカード……俺の歩んできた道、その全部が込められてる)

 

 バトルの最中、アルノルトの渡り鳥が“時の嵐”を起こす。
 リオは《故郷の光》でそれを打ち消し、優しい光で観客席ごと包み込む。

 

 観客たちの表情が、ふっと和らいだ。

 

 「……面白いな。君のカードは、攻撃ではなく“守り”と“癒やし”だ。まるで、これまでの君自身の生き方そのものだ」

 

 アルノルトは最後に自らカードを戻し、そっと手を差し出す。

 

 「またどこかでバトルしよう。お前の“次の物語”も、楽しみにしている」

 

 リオはしっかりとその手を握り返した。

 

 (強さだけじゃない、“自分だけのカード”をこれからも創り続ける。それが、俺の道だ――!)

 

 観客のざわめきの中、グラン=ヴァルドの声が響く。

 

 『お前はまた一つ、創造の本質に近づいた。さあ、次の物語へ進もう』

 

 リオの胸には、これまでにない創造の歓びと、静かな自信が灯っていた。
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