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第15話「グラン=ヴァルドの過去」
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夜空には、星々が静かにまたたいていた。
事件の終わった王都は、どこか張り詰めた空気から解き放たれ、少しだけ安堵の色を見せていた。
リオたちは焚き火を囲み、しばし沈黙のまま炎のゆらめきを眺めていた。
管理庁職員によるカード狩り事件の真相が明るみに出たことで、一つの危機は乗り越えた。
しかし、胸の奥には、カードという力がもたらす“影”への複雑な思いが残っていた。
「……こんなにも、人の心を狂わせる力なんだね」
ユリエルがぽつりと呟く。
カイは焚き火をつつきながら「俺も……危うく“強さ”だけに囚われそうだった」と正直に口にした。
ティアナが優しく微笑んだ。
「でも、最後に守ったのは、みんなの“信頼”や“希望”だったと思う。カードも人も、使い方次第……だよね」
ミナはリオの隣に座り、小さくうなずいた。
「リオは、絶対に間違えないって、信じてるよ」
その言葉に、リオはそっと微笑み返した。
そして、無意識のうちに胸元のカードケースに手をやる。
(グラン=ヴァルド――お前の力は、俺が必ず守る)
その時だった。
ふと、カードから、かすかな震えと微かな呼び声が伝わってきた。
『リオ――今こそ、私の記憶をすべて語る時が来たようだ』
その声は、これまでよりもずっと深く、重々しく響いた。
リオは目を閉じ、グラン=ヴァルドの魂と静かに心を重ねていく。
やがて、視界はゆっくりと白い霧に包まれ、リオの意識は、どこか遠い過去の世界へと導かれていった。
*
それは、数百年前の幻影――
世界は今よりずっと荒々しく、幻獣と人間が絶えず覇権を争う混沌の時代だった。
空を裂くほどの咆哮と炎、崩れ落ちる山々、大地を埋め尽くす黒い翼の影。
その中心にいたのが、若き日のグラン=ヴァルドだった。
――彼は、かつて「災厄竜」と呼ばれていた。
果てしない孤独と飢え、怒りと絶望。
人間に裏切られ、仲間の竜たちも戦火に倒れ、グラン=ヴァルドは「世界を滅ぼす存在」として恐れられていった。
(やめろ――やめてくれ!)
リオは叫ぶが、過去の幻は止まらない。
炎の嵐が村や森を飲み込み、空が真紅に染まる。
それでも、グラン=ヴァルドは本当は滅ぼしたくなどなかった。
心の奥では、誰かに理解されたい、救われたいと切望していた。
だが、力が強すぎた。
誰もその本心に気づかず、竜は孤独の中で暴走し続けた。
やがて、一人の魔術師が現れた。
彼はグラン=ヴァルドを「このままでは世界も、お前自身も滅びる」と諭し、最後の封印呪文を唱えた。
鎖と光、巨大な魔法陣。
苦しみながらもグラン=ヴァルドはそれを受け入れた。
もう誰も傷つけたくなかった――それが彼の最後の意志だった。
やがて、記憶は暗転し、静かな闇が訪れる。
(……これが、グラン=ヴァルドの“罪”なのか)
リオの胸が痛んだ。
彼が背負ってきた孤独と悲しみ、絶望、そして贖罪の苦しみ。
(でも――お前は、間違いなく“優しい心”を持っていた)
*
現実へ意識が戻ると、リオは涙をこぼしていた。
仲間たちは皆、静かに見守っている。
グラン=ヴァルドの声が優しく響いた。
『リオ。私の過去を見せたのは、もう逃げずに、お前と共に歩みたいからだ。私の力は、必ずしも善ではない。だが、お前となら、もう一度“希望”を信じてみたい』
リオはカードを強く握りしめた。
「……ありがとう、グラン=ヴァルド。お前の罪も苦しみも、全部、俺が受け止めるよ。これからは、ずっと一緒に歩いていこう。
俺たちの力で、今度は“希望”を生み出そう」
グラン=ヴァルドは深く静かに応えた。
『お前こそが、私にとっての光だ。共に進もう、リオ』
仲間たちが暖かくリオを囲み、ミナがそっと手を握った。
「……よかった。リオ、グラン=ヴァルドも、もう一人じゃないよ」
ユリエルは微笑み、カイはぐっと拳を握りしめる。
ティアナも感極まった表情でうなずいた。
炎の明かりに照らされ、リオとグラン=ヴァルドの絆は、かつてないほど強く固く結ばれていた。
星空の下、竜と少年、仲間たちは、これからも共に歩み続けると誓い合った。
事件の終わった王都は、どこか張り詰めた空気から解き放たれ、少しだけ安堵の色を見せていた。
リオたちは焚き火を囲み、しばし沈黙のまま炎のゆらめきを眺めていた。
管理庁職員によるカード狩り事件の真相が明るみに出たことで、一つの危機は乗り越えた。
しかし、胸の奥には、カードという力がもたらす“影”への複雑な思いが残っていた。
「……こんなにも、人の心を狂わせる力なんだね」
ユリエルがぽつりと呟く。
カイは焚き火をつつきながら「俺も……危うく“強さ”だけに囚われそうだった」と正直に口にした。
ティアナが優しく微笑んだ。
「でも、最後に守ったのは、みんなの“信頼”や“希望”だったと思う。カードも人も、使い方次第……だよね」
ミナはリオの隣に座り、小さくうなずいた。
「リオは、絶対に間違えないって、信じてるよ」
その言葉に、リオはそっと微笑み返した。
そして、無意識のうちに胸元のカードケースに手をやる。
(グラン=ヴァルド――お前の力は、俺が必ず守る)
その時だった。
ふと、カードから、かすかな震えと微かな呼び声が伝わってきた。
『リオ――今こそ、私の記憶をすべて語る時が来たようだ』
その声は、これまでよりもずっと深く、重々しく響いた。
リオは目を閉じ、グラン=ヴァルドの魂と静かに心を重ねていく。
やがて、視界はゆっくりと白い霧に包まれ、リオの意識は、どこか遠い過去の世界へと導かれていった。
*
それは、数百年前の幻影――
世界は今よりずっと荒々しく、幻獣と人間が絶えず覇権を争う混沌の時代だった。
空を裂くほどの咆哮と炎、崩れ落ちる山々、大地を埋め尽くす黒い翼の影。
その中心にいたのが、若き日のグラン=ヴァルドだった。
――彼は、かつて「災厄竜」と呼ばれていた。
果てしない孤独と飢え、怒りと絶望。
人間に裏切られ、仲間の竜たちも戦火に倒れ、グラン=ヴァルドは「世界を滅ぼす存在」として恐れられていった。
(やめろ――やめてくれ!)
リオは叫ぶが、過去の幻は止まらない。
炎の嵐が村や森を飲み込み、空が真紅に染まる。
それでも、グラン=ヴァルドは本当は滅ぼしたくなどなかった。
心の奥では、誰かに理解されたい、救われたいと切望していた。
だが、力が強すぎた。
誰もその本心に気づかず、竜は孤独の中で暴走し続けた。
やがて、一人の魔術師が現れた。
彼はグラン=ヴァルドを「このままでは世界も、お前自身も滅びる」と諭し、最後の封印呪文を唱えた。
鎖と光、巨大な魔法陣。
苦しみながらもグラン=ヴァルドはそれを受け入れた。
もう誰も傷つけたくなかった――それが彼の最後の意志だった。
やがて、記憶は暗転し、静かな闇が訪れる。
(……これが、グラン=ヴァルドの“罪”なのか)
リオの胸が痛んだ。
彼が背負ってきた孤独と悲しみ、絶望、そして贖罪の苦しみ。
(でも――お前は、間違いなく“優しい心”を持っていた)
*
現実へ意識が戻ると、リオは涙をこぼしていた。
仲間たちは皆、静かに見守っている。
グラン=ヴァルドの声が優しく響いた。
『リオ。私の過去を見せたのは、もう逃げずに、お前と共に歩みたいからだ。私の力は、必ずしも善ではない。だが、お前となら、もう一度“希望”を信じてみたい』
リオはカードを強く握りしめた。
「……ありがとう、グラン=ヴァルド。お前の罪も苦しみも、全部、俺が受け止めるよ。これからは、ずっと一緒に歩いていこう。
俺たちの力で、今度は“希望”を生み出そう」
グラン=ヴァルドは深く静かに応えた。
『お前こそが、私にとっての光だ。共に進もう、リオ』
仲間たちが暖かくリオを囲み、ミナがそっと手を握った。
「……よかった。リオ、グラン=ヴァルドも、もう一人じゃないよ」
ユリエルは微笑み、カイはぐっと拳を握りしめる。
ティアナも感極まった表情でうなずいた。
炎の明かりに照らされ、リオとグラン=ヴァルドの絆は、かつてないほど強く固く結ばれていた。
星空の下、竜と少年、仲間たちは、これからも共に歩み続けると誓い合った。
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