【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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第29話「暴走する精製力」

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 夜明けの村には、静かな緊張感が漂っていた。ミナを救い出した直後の朝――リオは胸の奥に得体の知れないざわめきを抱えていた。

 

 「大丈夫だよ、リオ。あたし、もう怖くないから」
 ミナが明るく声をかけるが、リオは無理に笑顔を作るのがやっとだった。

 

 (本当に、俺はみんなを守れているのか……?)

 

 昨夜の異界での戦い。そのとき確かに感じた――自分の中に生まれた“新たな力”。だが同時に、何か危険なものが目覚めた感覚もあった。

 

 広場では、仲間たちが次の異界の門の脅威に備えて準備をしていた。カイは鍛錬に励み、ユリエルとティアナは魔法陣の強化、シュトラは村人たちの指揮を執る。
 リオは一人、グラン=ヴァルドのカードを握りしめて村の外れに立ち尽くしていた。

 

 『リオ……何をそんなに思い詰めている?』

 

 心の中に竜の声が響く。
 だがリオはうまく答えられない。

 

 「グラン=ヴァルド、俺……このままでいいのかな。昨日から、力の感覚が妙なんだ。自分が自分じゃなくなりそうで、怖い」

 

 竜はしばし沈黙したあと、静かに語った。

 

 『力は、ときに持つ者を試す。“最強”は孤独をも呼ぶ。だが、お前が信じた道を見失わない限り、私はお前の隣にいる』

 

 リオはその言葉に少しだけ救われた気持ちになった。

 

 *

 

 昼下がり。
 村外れの森に異変が起きた。急激に空が暗くなり、異界の瘴気が流れ込む。

 

 「また門が……!」
 カイの叫びとともに、村の方々に黒い霧が立ち込めた。

 

 「幻獣が大量に……!」
 ティアナが慌てて結界を張る。

 

 リオは本能的に走り出していた。カードケースを強く握りしめ、仲間の叫びもかき消すように突き進む。

 

 (俺が、この力で全部守るんだ――!)

 

 異界の幻獣たちが次々に襲いかかる。リオは“精製力”を最大限に解放し、《グラン=ヴァルド》を召喚。
 だが、その瞬間――

 

 「う、うわ……!」

 

 リオのカードが激しく輝き、周囲の空気が一気に張り詰める。グラン=ヴァルドの姿が、これまでにないほど禍々しいオーラを帯びて現れた。

 

 『リオ、何をしている……この力は危険だ!』

 

 だがリオの耳には、竜の声が遠く聞こえるだけだった。

 

 「もっと……もっと強く!」

 

 リオの精製力は膨れ上がり、彼自身が光と闇に呑み込まれていく。
 その力に引き寄せられ、森の木々が軋み、異界の幻獣だけでなく仲間たちも苦しみ始めた。

 

 「リオ、やめろ! そのままじゃ……!」

 

 ユリエルが魔法陣でバリアを張ろうとするが、暴走するリオの力に跳ね返され、吹き飛ばされてしまう。

 

 「カイ、ミナ、ティアナ、危ない!」

 

 カイもルガノスを召喚し必死に防ごうとするが、リオの“暴走精製”が周囲を圧倒し、ルガノスも痛みに叫ぶ。

 

 「リオ、しっかりして! それじゃ、あたしたちを傷つけちゃうよ!」
 ミナが必死に叫ぶが、リオの中の闇は増していくばかりだった。

 

 『リオ、目を覚ませ! お前の力は、そんなものではないはずだ――!』

 

 だがリオの耳には、もうグラン=ヴァルドの声も、仲間の叫びも、何も届かなくなっていた。

 

 (これが……俺の本当の力……?)

 

 視界が黒く染まり、リオは深い闇の中に落ちていく感覚を味わった。

 

 *

 

 気がつくと、リオは真っ暗な世界に一人で立っていた。
 何も見えず、何も聞こえない。ただ、自分の心臓の鼓動だけが虚しく響く。

 

 「ここは……?」

 

 そこに現れたのは、もう一人の自分――
 不安や恐怖、怒りや焦りを全て具現化した“影のリオ”だった。

 

 「どうして、みんなを傷つけた? 本当は自分が一番怖いんだろ?」

 

 影のリオは、リオの弱さや迷いを次々とあぶり出す。

 

 「本当は、最強なんてなりたくない。孤独になるのが、怖いだけなんじゃないか?」

 

 リオは苦しみ、膝をつく。

 

 「違う……違うんだ……! 俺は、みんなを守りたくて……!」

 

 「でもその力は、結局“誰かを傷つける”だけだ。お前はもう仲間の所には戻れない」

 

 影のリオの声が反響する闇の中、リオは頭を抱えるしかなかった。

 

 *

 

 一方、現実世界。
 暴走の余波により、グラン=ヴァルドは傷つき、倒れ伏していた。
 ユリエルやカイたちも深手を負い、ミナはリオのもとへ必死に走った。

 

 「リオ、戻ってきて……! あたし、あなたがいなきゃ……!」

 

 ティアナも涙ながらに、サポートカードで結界を張る。「リオ……あなたの本当の力は、きっと“優しさ”だよ!」

 

 シュトラは歯を食いしばり、グラン=ヴァルドの傷の手当てを続ける。

 

 「頼む、戻ってきてくれ……」

 

 *

 

 闇の中、リオはふと懐かしい感覚を思い出す。
 小さな村で仲間と過ごした日々、グラン=ヴァルドとの出会い、カードを精製した時の“温かさ”。

 

 (俺は……ひとりじゃない。あの時の気持ち――)

 

 リオは立ち上がり、影のリオをまっすぐ見つめた。

 

 「俺は、弱い自分も全部受け止めて、もう一度みんなの所に帰る!」

 

 その瞬間、闇に一筋の光が差し込む。

 

 「リオ――!」
 ミナの声、仲間たちの声、グラン=ヴァルドの魂の叫びが、彼を引き戻す。

 

 リオは両手で光を掴み、必死で現実世界へ戻ろうとする。

 

 *

 

 「……っ、みんな!」

 

 リオが意識を取り戻すと、そこには涙ぐみながら見守る仲間たちの姿があった。

 

 「ごめん……みんな、ごめん……!」

 

 リオは膝をつき、苦しげに息を吐いた。

 

 グラン=ヴァルドも静かに立ち上がる。

 

 『お前の力は“暴走”じゃない。お前の心が、力の意味を決めるのだ』

 

 ミナがそっと手を握る。「おかえり、リオ」

 

 仲間たちは傷つきながらも、リオの復活を静かに見守っていた。

 

 だが、リオの心には“力の恐ろしさ”と“自分自身の闇”が、消えぬ傷跡として残った。

 

 (本当に、俺はこの力を使いこなせるのか……?)

 

 こうして、リオは新たな迷いと共に、再び歩き出すのだった――。
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