【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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第33話「絶望と再生」

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 勝利の咆哮が世界を満たしたのは、ほんの一瞬だった。
 異界の王――アルド=グラディウスの肉体が消滅したかに見えたその時、空間が再び軋み、すべての光がゆっくりと色褪せていった。

 

 「な、なんだ……?」

 

 リオが振り向くと、王都の空がまるで墨を流したように黒く濁り始めていた。
 グラン=ヴァルドのカードも、仲間たちの伝説カードも、その輝きを急速に失っていく。

 

 『これは……ただの消滅ではない、“記憶の消去”だ』

 

 グラン=ヴァルドがかつてない恐怖を滲ませて呟く。

 

 異界の王の声が、崩れ落ちた空間の彼方から響いてくる。

 

 「愚かな者たちよ……滅びとは、戦いの果てに訪れるものではない。希望も絆も、記憶から消してしまえば――この世界は、もう二度と“伝説”を生み出せはしない」

 

 アルド=グラディウスの“最後の術”――
 それは、カード精製の歴史そのもの、世界の記憶を喰らい尽くす呪いだった。

 

 *

 

 リオは立ち尽くしていた。
 足元が崩れ落ち、辺りは灰色の闇に覆われていく。

 

 「う、動けない……グラン=ヴァルド、みんなどこだ!?」

 

 隣にいたはずの仲間たちも、まるで遠い霧の中に溶けてしまったかのようだった。

 

 カイ、ユリエル、ティアナ、シュトラ、ミナ……彼らの気配さえ、手応えのない夢のように薄れていく。

 

 そして自分自身の手から、グラン=ヴァルドのカードが音もなく消えた。

 

 (カードが、力が……全部、消えていく!?)

 

 気がつくと、リオは一人ぼっちの無の世界に立っていた。

 

 *

 

 「……どうして、こんなことに」

 

 無力感が、リオの心を圧し潰していく。
 せっかく掴んだ希望も、仲間との絆も、家族との記憶さえも――
 今にも指の隙間から零れ落ちていきそうだった。

 

 「何も……できないのか。俺は、“誰も”守れなかったのか……?」

 

 涙が頬を伝い、リオは膝をつく。
 思い出そうとしても、世界の色がどんどん薄くなっていく。

 

 そのとき、遠くで誰かの声が聞こえた。

 

 『……リオ……』

 

 それは懐かしい母の声、
 ミナの声、
 村人たちの、そして世界中の子どもたちや精製師たちの――
 “たくさんの祈りと声援”だった。

 

 『リオくん、帰ってきて!』
 『負けるな、リオ! お前なら、できる!』
 『あんたは、私たちの“希望”だよ!』

 

 心の奥底から、小さな灯がともる。

 

 リオは両手を見つめた。
 何も持っていない。カードも、力も、何一つない。

 

 それでも――

 

 「違う……まだ、終わってない」

 

 小さく呟くと、世界のどこかで小さな光がともった。
 それは、かつて村の子どもがくれた手作りカード、ミナと作った初めての“花のカード”、母の励ましで精製した“勇気のカード”――

 

 “カード”とは、“精製”とは、何だったのか。

 

 それはただの力ではなく、
 「誰かを想い、守りたいと願った心そのもの」だった。

 

 「みんな……ありがとう。俺は――もう一度、みんなと共に立ち上がりたい!」

 

 その瞬間、リオの胸の奥で温かな光が爆発した。

 

 *

 

 「リオ……!」

 

 どこからかミナの声が聞こえる。

 

 「負けちゃだめだよ、リオ。私たちはずっと、リオと一緒にいる!」

 

 カイが叫ぶ。「あきらめんなよ、リオ! お前は“最強のカードクリエイター”だろ!」

 

 ユリエル、ティアナ、シュトラ、村の家族や仲間たちの声も、次々にリオの心を満たしていく。

 

 「そうだ……俺は、俺たちは、“守りたいもの”のために精製してきたんだ!」

 

 記憶の残滓が、ひとつ、またひとつ、リオの中で灯火になり始めた。

 

 *

 

 そしてリオの前に、ぼんやりとグラン=ヴァルドの影が現れる。

 

 『リオよ……カードとは、“想い”の結晶。精製力とは、心そのものだ。お前の中に、それはまだ生きている』

 

 リオは拳を強く握る。「グラン=ヴァルド、もう一度、俺と一緒に戦ってくれるか!」

 

 影が微笑み、リオの手に新たな光のカードが現れる。

 

 『お前の“新しい想い”で――もう一度、精製せよ』

 

 リオは精製の言葉を叫ぶ。

 

 「みんなの想いよ――俺のカードになれ!」

 

 世界に新たな光が走る。
 リオの胸から、家族の愛、仲間の絆、村人や世界中の“守りたい気持ち”が次々とカードへと結晶化していく。

 

 「これが、俺たちの“再生”の力だ――!」

 

 希望の光が、無の世界を染めていく。
 グラン=ヴァルドの新たなカードが、リオの手でふたたび生み出された。

 

 そして――

 

 仲間たちもひとり、またひとりとリオの隣に現れる。
 それぞれの想いがカードとなり、絶望に染まった世界に新しい“伝説”が灯り始めた。

 

 *

 

 「ありがとう、みんな……ありがとう、世界!」

 

 リオは涙をぬぐい、立ち上がる。

 

 「今度こそ、“本当の希望”で世界を救う!」

 

 新たな精製力を手に、リオと仲間たちは絶望を越え、再生の光を世界に広げるため、再び歩き始めた――。
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