【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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第35話「竜の記憶と贖罪」

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 夜が明けきらぬ王都の空に、白く細い月が浮かんでいた。
 リオは静かな広場の端で、グラン=ヴァルドのカードを手に佇んでいた。
 ミナと心を通わせたあとも、彼の胸の奥には、拭い切れない影が残っていた。

 

 (俺たちはきっと、この先もいろんな苦しみや恐れを乗り越えていく。でも……グラン=ヴァルド、お前の“過去”と向き合わなきゃ、未来には進めない気がするんだ)

 

 リオがそっとカードに語りかけると、
 静かな声が心に響いた。

 

 『――リオ。今なら、お前にすべてを託せる気がする。私の記憶を、共に見てほしい』

 

 世界がふっと淡く光り、リオの意識はカードの中へと引き込まれていった。

 

 *

 

 そこは、かつて“竜の時代”と呼ばれた遥か古の記憶世界だった。

 

 空には無数の竜が飛び交い、
 山や森、海すらも彼らの力で満ちていた。

 

 若きグラン=ヴァルドは、その中でも特異な存在だった。
 他のどの竜よりも強大な力――「無限精製」の異能を持ち、世界の理さえも変える力を誇っていた。

 

 だが、強大な力は、やがて“災厄”となった。

 

 グラン=ヴァルドは孤独だった。
 己の力を恐れ、近づく者は誰もいなかった。
 そして、ある時、その孤独と渇望が心の奥底で黒い焔となり、
 彼は禁忌の精製――「世界を再構築する」ための巨大な魔法を放ってしまった。

 

 その瞬間、世界は崩れ、
 多くの竜や人間、あらゆる命が滅びかけた。

 

 「やめて! グラン=ヴァルド!!」

 

 叫ぶ竜の仲間、嘆き悲しむ人々――
 彼は自分の力で、守りたかったものすべてを壊しかけてしまった。

 

 そして、気づいた。

 

 (私は、なんて取り返しのつかない罪を犯したのだろう……)

 

 世界の神々は、グラン=ヴァルドの力を封じ、
 彼を永き孤独と贖罪の時の中に閉じ込めた。

 

 「私には、もう何も残されていない。
  この力は、ただ破壊を呼ぶだけの呪いなのか……?」

 

 時が流れ、竜たちも世界から姿を消し、
 ただ一人、グラン=ヴァルドだけが“記憶”の檻の中に残された。

 

 *

 

 リオの心に、苦しみと絶望、そして深い後悔の痛みが伝わってくる。

 

 「グラン=ヴァルド……お前は、自分をずっと責め続けてきたんだな」

 

 竜の魂が静かに応えた。

 

 『私は、誰にも赦されない存在だ。お前と出会い、もう一度“希望”を見たが……私が犯した罪が消えることはない』

 

 リオはゆっくりと頷き、カードを握りしめた。

 

 「それでも、俺は――お前の全部を受け止めたい」

 

 グラン=ヴァルドの巨大な瞳が、わずかに揺れた。

 

 「お前の罪も、孤独も、全部……俺たちが一緒に歩いてきた“今”の一部なんだ。
  俺だって間違うし、怖いこともあるけど、みんなで前に進むために、この“過去”も未来も、お前と一緒に背負うよ!」

 

 静かに、しかし力強く告げるリオ。

 

 「お前は、もう一人じゃない。
  どんな過去があっても――今を生きてるお前は、俺たちの大切な“仲間”だ!」

 

 その言葉が、永い永い時を彷徨い続けた竜の魂に、確かな光を灯した。

 

 グラン=ヴァルドは、長い沈黙の後、
 まるで心から安堵したように、深く深くうなずいた。

 

 『……ありがとう、リオ。私は、お前と出会えて本当によかった。
  私が救われたように、これからはお前と共に“未来”を救いたい』

 

 世界の記憶がゆっくりと溶け、
 リオは現実の王都の広場へと意識を戻していった。

 

 カードは、これまで以上に温かく、力強く輝いていた。

 

 *

 

 仲間たちの元に戻ったリオは、まっすぐにグラン=ヴァルドのカードを掲げた。

 

 「みんな――グラン=ヴァルドは、俺たちと一緒に歩くって決めてくれた。
  どんなに辛い過去があっても、これからは一緒に未来を作っていくんだ!」

 

 カイが嬉しそうに叫ぶ。「よっしゃー! これでどんな敵が来ても怖くねえ!」

 

 ユリエルが微笑み、ティアナは涙をこぼした。

 

 ミナはそっとリオの手を握る。「これが……本当の絆なんだね」

 

 リオは仲間たちに囲まれながら、強く誓った。

 

 「俺は、どんな過去もすべて受け止めて、
  みんなと“未来”へ進む!」

 

 グラン=ヴァルドの咆哮が、
 新しい夜明けを告げるように王都の空へ響き渡った。

 

 ――そして、リオたちの物語は、いよいよ新たなクライマックスへと向かっていく。
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