【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

49話「謎の黒幕と消えたカード」

　夜明け前、王都リュミエールの空はどこか不穏な気配に包まれていた。
　精製バグが引き起こした記憶喪失事件の余波が、世界大会の熱狂に静かな影を落としていた。

　

　リオたち「希望の旅団」は、控室に集まり、ユリエルの端末と精製ネットワークの監視データをにらめっこしていた。

　

　「やっぱり変だ。北側観客席と控室エリア――どちらも大会ネットワークの“根”が集中してる。普通はこんな動かし方しない」
　ユリエルの声には冷静な緊張が宿っていた。

　

　シュトラは腕を組み、「これだけ大規模な記憶喪失、偶然じゃない。裏に組織がいる」と断言する。

　

　カイが落ち着きなく椅子を回す。「で、その“黒幕”って、何者なんだよ？」

　

　その時、アールが画面の片隅に現れた微かな紋章に目を留めた。
　「……これ、“影縫い”の紋章……？」

　

　グラン＝ヴァルドが低く唸る。
　『“シャドウリンク”。最近台頭してきた新興カード組織だ。カードバトルと精製技術を使い、裏社会で暗躍している。』

　

　ミナが息を呑む。「カードの“心”を利用して、人の記憶や感情まで操作する……そんなこと、許せない！」

　

　リオは力強く頷いた。「よし、俺たちでこの“シャドウリンク”の正体を暴こう！」

　

　＊

　

　まずは会場の北側ネットワーク・ハブへ急行。
　ティアナとカイが機敏に動き、ユリエルが端末でセキュリティを突破する。

　

　通路の先、薄暗い管理室。そこに現れたのは、シャドウリンクの幹部とおぼしき黒ずくめの男――。

　

　「ようこそ、“希望の旅団”のみなさん」

　

　男は仮面で素顔を隠し、しなやかな動きでリオたちの前に立ちはだかった。
　その手には、不気味な黒カードが光っていた。

　

　「君たちが噂の“伝説カード”持ちか。だが、大会の主役は“闇”が決める。
　おとなしくカードと“心”を差し出してもらおう」

　

　リオはカードデッキを握りしめる。「ふざけるな、カードは人の夢と希望だ！　お前なんかに渡してたまるか！」

　

　男がふっと笑った。

　

　「では、“闇のバトル”で決めようじゃないか。
　君たちが勝てば、この場の精製ネットワークを解放しよう。だが負ければ、君たちの記憶も“シャドウリンク”の一部になる」

　

　仲間たちが一斉に身構える。

　

　「リオ、ここは任せて！」「ユリエル、サポートお願い！」
　「カイ、ティアナ、サイドから！」
　「アール、君は……」

　

　アールは一歩前に出て、自分のカードをじっと見つめていた。
　その目に、これまで見せたことのない強い決意が宿る。

　

　「僕も……戦うよ。自分の“心”を守るために」

　

　＊

　

　バトルが始まった。

　

　男が繰り出すのは「シャドウミラー」「記憶喪失カード」など、相手の想いを封じ込め、反射する闇属性のカード群。
　黒い霧が会場を覆い、カードフィールドがゆっくりと歪んでいく。

　

　リオは「封印竜グラン＝ヴァルド」カードを召喚。
　巨大な竜がフィールドを照らし、仲間のカードと連携する。

　

　「“希望の連鎖”発動！　みんなの想い、ひとつに！」

　

　ミナが支援カード「記憶の灯」を使い、闇に囚われた仲間たちの記憶を守る。

　

　ユリエルとカイがコンビカード「分析＋突撃」でシャドウミラーの“バグ”を解析。
　ティアナの「癒やしの風」で仲間の消えかけたカードを修復する。

　

　だが、男のカードがフィールドを支配し始め、リオの頭の中にも“薄い霧”が忍び寄る。

　

　「リオ、しっかり！」
　ミナの声が遠くに聞こえる。

　

　アールが一歩、男に詰め寄る。

　

　「……どうして、こんなことを……カードは誰かの“心”を守るためのものだろ？」

　

　男は仮面越しに目を細める。

　

　「“心”など脆いものだ。想いは移ろう、記憶は消える。
　私たち“シャドウリンク”は、消えゆく想いを永遠の“データ”として保存する。
　人は忘れる。だから私たちが“記憶”を回収するのだ」

　

　リオは怒りを込めて叫ぶ。

　

　「人が忘れるからこそ、また“夢”を描くんだ！
　お前のやり方は絶対に許せない！」

　

　グラン＝ヴァルドが咆哮し、リオたちのフィールドに光が満ちる。

　

　その時、アールのカードが不思議な輝きを放つ。

　

　「ぼくの記憶も、ずっと消えかけてた。でも――今はわかる。
　仲間と一緒なら、どんな“闇”もきっと乗り越えられる！」

　

　アールがカードを発動すると、“蒼穹の光輪”からまばゆい光があふれ、闇の霧を一瞬で吹き飛ばした。

　

　「リオ、今だ！」

　

　「おう！　グラン＝ヴァルド、最終進化――“覚醒竜・黎明の翼”！」

　

　竜の光とアールのカードが共鳴し、シャドウリンク幹部のカードを包み込む。
　男は驚愕しつつも、「面白い……だが、まだ“本当の闇”はこれからだ」と不気味な笑みを残して姿を消す。

　

　バトルのあと、リオたちが管理室を調べると、消えたカードや盗まれた精製データの痕跡が山ほど残っていた。

　

　ユリエルは苦々しく、「これは……世界中のクリエイターの“心の記録”まで狙ってる。とんでもない組織ね」と告げる。

　

　そして、リオがふと気づく。
　アールの持つカードの裏に、シャドウリンクの紋章とよく似た古い記号が刻まれている。

　

　「アール……お前は、もしかして……」

　

　アールは苦しげに目を伏せる。

　

　「僕……僕も、もしかしたらシャドウリンクと何か関係が……」

　

　謎はさらに深まり、リオたちの闘いは新たな局面へ。

　

　――精製ネットワークの奥底に潜む“本当の闇”と、アールの正体。

　彼らは必ず、この危機を乗り越え、カードに宿る“心”を守ると誓うのだった。