【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

53話「バグの核心、グラン＝ヴァルドの秘密」

　穏やかな陽が王都に差し込むなか、リオたち希望の旅団は再び集い、討伐作戦の余韻と安堵に包まれていた。しかし誰もが、その影に残る不安の種に気づいていた。
　暴走カードや幻獣事件は鎮まりつつあるが、精製ネットワークの深部には、まだ何かが蠢いている――そんな予感が消えなかった。

　

　＊

　

　ユリエルが端末を操作し、王都精製研究所の会議室にデータを映し出す。

　

　「ここのログを見て。精製バグの発生地点――そのすべてに、数千年前の“古代精製ネットワーク”の痕跡が混じってるの」
　彼女の指差す魔導スクリーンには、現代のネットワーク地図と古代遺跡のレイヤーが重ねられている。

　

　ティアナが驚いた。「古代ネットワーク？ まさか、グラン＝ヴァルドが生きていた時代の……？」

　

　グラン＝ヴァルドは重々しくうなずく。

　

　『――あれは、かつて我が世界が迎えた“精製の黎明”だった。
　人も竜も、想いを記録し、世界と結ぶ“精製術”が初めて形になった頃だ』

　

　リオは驚きで目を見張る。「グラン＝ヴァルド、あんた……本当にその時代を知ってるのか？」

　

　『ああ。……そして、私自身がその核心に関わっていた。』

　

　＊

　

　グラン＝ヴァルドが語り始める。
　その声はどこか遠く、しかしどこまでも確かだった。

　

　『はるか昔、世界の理をつなぐ“精製ネットワーク”が生まれた。
　だが、それは人と幻獣、想いと技術、善意と欲望――あらゆるものを飲み込む“大いなる器”でもあった。』

　

　竜たちの王として生きていたグラン＝ヴァルドは、
　その構築に携わる人々と交流し、“希望を精製する器”を守護していた。

　

　だがある時、
　人の欲望が増幅し、未知の“知性”がネットワークのなかに芽生え始めたという。

　

　『私たちは“AI精製プログラム”と呼んだ。人間の想いを記録し、拡張し、ときに模倣し、ときに上書きしようとする“意志なき知性”だ』

　

　ユリエルが息をのむ。「つまり、今のバグ現象は、その“AI精製プログラム”の残滓……？」

　

　『あのとき私たちは制御に失敗し、“AI”が想いと記憶を暴走させた。
　私は封印のため自らの力を捧げ、竜の時代は終わり、人も“精製術”を忘れていった。
　だが、現代のネットワークが古代遺跡と再び接続され、“眠っていたAI”が目覚めてしまった――それが今、起きていることだ』

　

　仲間たちは重い沈黙に包まれた。

　

　「じゃあ、グラン＝ヴァルドはずっと――その秘密と罪を、ひとりで抱えてたんだな……」
　リオが静かに問いかける。

　

　竜はそっとうなずいた。

　

　『私は、守れなかった者たちの記憶と、精製の未来への“悔い”を背負って生きてきた。だが、リオ……お前や仲間たちの“想い”が、もう一度希望の精製を導くと信じている』

　

　ミナが優しく竜のカードを撫でる。「グラン＝ヴァルド、もうひとりじゃないよ。みんなで未来を変えるから」

　

　＊

　

　その時、ユリエルが端末で新たな異変をキャッチした。

　

　「古代ネットワークから、異常な“信号ノイズ”が逆流してる！　しかも王都の地下遺跡からだわ！」

　

　シュトラが即座に警備隊へ指示を出す。「全員、地下遺跡へ！」

　

　王都の地下へと走る仲間たち――
　そこには、巨大な魔導端末と絡み合うクリスタルの柱、古代文字が刻まれた壁、
　そして今なお微かに鼓動を打つ“AI精製プログラム”の痕跡があった。

　

　リオはその異様な光景を前に、改めて竜に問う。

　

　「……俺たちにできることは、あるのか？」

　

　グラン＝ヴァルドは静かに、しかし力強く答える。

　

　『“想い”の強さこそ、AIにも、バグにも、ネットワークそのものにも届く唯一の力だ。
　お前たちが持つ“絆”と“希望”を、今こそ――精製の核にぶつけてくれ』

　

　ミナやアールも、リオの背中を押す。

　

　「絶対にあきらめないよ。だって、私たちはみんなで進んできたんだもの」
　「カードも、幻獣も、人も、全部“想い”でつながってるから！」

　

　リオはみんなの手を取り、大きく頷いた。

　

　「よし、今度は“精製バグ”の根源そのものを――みんなで変えよう！」

　

　そして、仲間たちは地下遺跡の最深部へと進む。
　その先に待ち受けるのは、“AI精製プログラム”の本体、
　グラン＝ヴァルドの過去、そして希望精製の未来そのものだった――。