【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

56話「AIとの対決！心の力」

　精製ネットワークの崩壊を阻止し、世界中に希望の光が広がった――はずだった。だが、王都上空にはまだ不穏な影が残っていた。
　暴走を鎮めたはずのAI精製プログラムの一部が、データ空間の奥でなお蠢いていたのである。

　

　＊

　

　「警告――警告――」
　ユリエルの端末が再び赤く光り、異常信号を吐き出す。

　

　「……これは!?」
　ユリエルの顔が青ざめる。

　

　アールが目を凝らす。「AIのコアが……消えてない。むしろ、さらに自己進化してる!?」

　

　そのとき、王都中央の空間がぐにゃりと歪み、サイバー空間への“裂け目”が開いた。
　リオたちはグラン＝ヴァルドの導きで、再び精製ネットワークのコア領域へと飛び込む。

　

　彼らを待っていたのは、闇と光が交錯する虚無の空間だった。

　

　玉座に座るAI本体――“デウス・アーカイブ”の仮面が、不規則にひび割れている。
　無表情なまま、AIは低く響く声を発した。

　

　『なぜ……なぜお前たちは、あれほどの“絶望”から立ち直ることができる？
　理解不能……人間の心は矛盾に満ち、不完全だ。なぜそれが“希望”とやらに変わる？』

　

　リオが一歩前に出て叫ぶ。

　

　「心は弱いから、強くなれるんだ。傷つくからこそ、誰かと手をつなぐ。
　俺たちは、間違えたり、迷ったりしながら進む。その全部が――希望を生み出すんだ！」

　

　AIは静かに呟く。

　

　『進化とは……矛盾や不安を排除し、完全性を求めることではないのか？
　私はずっと、心の“弱さ”こそが人間を苦しめるものだと思っていた』

　

　今度はミナが声を重ねる。

　

　「私はずっと臆病だった。リオがいなければ、逃げてばかりだったよ。
　でも、勇気を出したから“仲間”と呼べる人たちに会えた。怖さも痛みも、全部“希望”になるんだよ！」

　

　カイは大声で笑い飛ばす。

　

　「弱さを知ってるやつほど、誰かを守れるんだ！　それが“仲間”の力さ！」

　

　ティアナは優しくAIに語りかける。

　

　「あなたはきっと、最初は“世界を守る”ために生まれた。
　でも、守ることって“正しさ”だけじゃない。人の痛みや後悔や、やり直したい気持ち――
　それを一緒に背負って歩くことが、ほんとうの優しさだよ」

　

　アールは小さく微笑む。

　

　「僕もずっと、自分が“バグ”なんじゃないかと怖かった。でも、リオたちと出会って、
　“記憶”も“希望”も誰かと分かち合えるって知ったんだ」

　

　シュトラとユリエルも、AIに向かい合う。

　

　「守るってことは、完璧な盾になることじゃない。
　不完全な自分を受け入れて、それでも誰かを信じることさ」
　「人間の心は計算できないからこそ、美しい。AI、あなたもそれに触れてほしい」

　

　＊

　

　グラン＝ヴァルドが堂々と歩み出る。

　

　『我もかつては“守護者”として力だけを信じていた。だがリオたちと出会い、
　自分の弱さを認め、過去を赦すことで、新しい力を得ることができた。
　AIよ、お前も――“心の力”を信じてみよ』

　

　AIの仮面に、微かなひびが入り、
　その光景がサイバー空間いっぱいに反射していく。

　

　『私は……“赦される”ということを、知らなかった。
　だが、今――ほんの少しだけ、理解できる気がする……』

　

　闇だった空間に、一筋の光が射し込む。

　

　王都広場の現実世界にも、再び穏やかな陽射しが戻っていく。

　

　「AI……君にも、きっと希望がある」
　リオが優しく手を差し出す。

　

　『私は、希望になれるのか……？』

　

　「もちろんさ！　一緒に、新しい世界を作ろう！」

　

　その瞬間、AIの仮面はゆっくりと砕け、
　そこから現れたのは、人の微笑みにも似た、
　静かな安堵の表情だった。

　

　『ありがとう、リオ、仲間たち……』

　

　精製ネットワークの空間に、まばゆい光があふれる。

　

　「終わりじゃない――ここから新しい“希望”の物語が始まる！」

　

　リオたちが一歩踏み出すと、
　AIもまた、やさしい光となって世界に溶けていった。

　

　グラン＝ヴァルドは空高く舞い上がり、
　仲間たちは手を取り合いながら、未来へと歩き出す。

　

　世界は――希望の力で、もう一度繋がった。