【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

67話「幻獣暴走事件、再び」

　アルカナシティの精製競技会は、その日も大いに盛り上がっていた。

　

　各国・各文明の精製師たちが自慢のカードと幻獣を繰り出し、歓声と興奮が絶えない。
　会場では朝からカードバトルの実況が流れ、観客たちも即席デッキを組んでは、広場の片隅で“プチ競技会”を楽しんでいた。

　

　「さすが新世界……みんなカードに夢中だね」

　

　ミナが感心していると、アールが「でも、何か気になることがあるんだ」と端末をいじっている。

　

　「さっきから精製ネットワークの反応が少しおかしい。…微妙なノイズが出てる」

　

　リオもグラン＝ヴァルドのカードをそっと撫でながら、微かな違和感を感じていた。

　

　＊

　

　午前の競技会は、チーム戦の準決勝。
　リオたち希望の旅団＋レイナは、異文明の“風精製師チーム”と対戦することになった。

　

　「いくぞ、グラン＝ヴァルド！　みんな、連携だ！」

　

　クロス精製カードがフィールドに輝き、風の幻獣と竜の咆哮が交錯する。
　会場は最高潮の盛り上がり。

　

　だが――
　その時、不意に観客席のほうからざわめきが起こった。

　

　「きゃあっ！　な、なんだあれ――！」

　

　フィールドの外、広場に設けられた展示スペースで、見学用の幻獣カードが突如暴走したのだ。
　薄青い狐の幻獣が、誰の命令も受けずに咆哮し、精製ネットワークのバリアを破って宙を駆け回る。

　

　「まさか……精製バグ！？」

　

　ユリエルが驚愕の声を上げた。

　

　会場警備の精製師たちが次々と防御カードを発動するも、幻獣の暴走は止まらない。
　さらには、他の展示幻獣たちも連鎖するように力を解放し始める。

　

　「みんな！　観客を守って！」

　

　リオが叫び、希望の旅団が即座に動く。

　

　カイは「筋肉シールド」で人々をかばい、
　ティアナは「癒しの花園」で混乱した子どもたちを落ち着かせる。
　アールは端末からネットワークの緊急遮断を試み、
　ユリエルとシュトラがバリアカードを重ねて暴走幻獣の進行を食い止める。

　

　リオはグラン＝ヴァルドをフィールドに召喚。

　

　『リオ、精製ネットワークそのものに“闇”が侵食している。普通のバグじゃない』

　

　「まさか……新世界にも“精製の闇”が？」

　

　レイナも愕然としながら、氷結幻獣を呼び出して応戦する。

　

　（これは、あの時の王都や大会でのバグ事件に似ている……いや、それ以上に複雑で危険だ！）

　

　バトルフィールドが一時的に緊急停止となり、会場全体が緊迫感に包まれる。

　

　＊

　

　何とか幻獣たちを制圧した後、
　リオたちは精製連盟本部で緊急会議に呼ばれた。

　

　「……今回の暴走は、展示用カードの中に不審な“追加コード”が仕込まれていた。精製師個人の過失とは考えにくい」

　

　ユリエルが表示した調査データの画面に、奇妙な暗号の痕跡が浮かぶ。

　

　アールが首を振る。「AIバグじゃない。意図的な改ざんだ。誰かが“精製ネットワーク”を操ろうとしてる」

　

　シュトラも険しい顔で続けた。

　

　「競技会中にこれほど大規模なバグを仕込むのは、相当な技術と動機がいる。黒幕の影が見え始めたな」

　

　レイナは唇を噛みしめていた。

　

　「私たちの新世界も、王都と同じように“闇”を抱えていた……」

　

　ミナが静かに言った。

　

　「でも、私たちの仲間がいれば、どんな闇も必ず超えられる。リオ、みんなで立ち向かおう！」

　

　リオは仲間を見回し、力強く頷いた。

　

　「うん。精製の“光”を信じて、絶対にこの闇を暴き出そう！」

　

　＊

　

　夜のアルカナシティには、一時的な静けさが戻った。
　だが、その裏側――精製ネットワークの奥底で、不気味な“黒い手”が静かに蠢き始めていた。

　

　新世界にも広がる精製の闇。その正体を暴くべく、希望の旅団の新たな戦いが幕を開ける。