【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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68話「レイナの過去と葛藤」

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 夜のアルカナシティは、一日の興奮と混乱を終え、不思議な静けさに包まれていた。
 精製競技会での幻獣暴走事件の余波が、街の空気にまだざらつきを残している。

 

 リオたち希望の旅団は、連盟本部の宿舎で緊急ミーティングを終えたところだった。
 事件の真相も対策も未だ霧の中だが、誰もが「新世界にも精製の闇が広がり始めている」ことを実感していた。

 

 リオは廊下でふと立ち止まった。
 窓の外、月光に照らされる中庭に、レイナの姿が見えた。

 

 (……レイナさん)

 

 静かに庭に降りていくと、レイナは噴水の縁に座り、膝を抱えて夜空を見上げていた。
 その横顔には、普段のきりっとした表情とは別の、どこか影のある寂しさが漂っていた。

 

 リオはそっと声をかける。

 

 「どうしたの? こんな時間にひとりで」

 

 レイナは驚いたように振り向き、すぐに無理に微笑んだ。

 

 「……心配しなくていい。あなたたちには関係のないことよ」

 

 「そんなことないよ」
 リオはまっすぐ言い切る。「レイナさんは、俺たちの大切な仲間だ」

 

 レイナの肩が小さく震えた。

 

 「……私は、強いはずだった。でも、今日の事件でわかった。
 私の“精製”には、どこか歪みがある。誰よりも多くカードを作れて、誰よりも強いカードを作れる。
 なのに、私のカードは……私自身が本当にほしかった“光”を生み出せない」

 

 リオはそっと隣に腰かけた。

 

 「レイナさん、それは“心”が足りないからじゃないと思う。たぶん、ずっと孤独だったから――」

 

 レイナはハッと息を呑み、少しだけ涙ぐむ。

 

 「私……物心ついた頃から“精製の家系”に生まれて、幼い頃に両親を亡くしたの。
 この街の期待を背負い、誰よりも精製技術を学んできた。でも、
 “心を込めてカードを作れ”と教わる一方で、“強くなければ意味がない”とも言われてきた」

 

 リオは静かにうなずく。

 

 「きっと……レイナさん自身も、ずっと迷ってきたんだよね」

 

 レイナは涙をぬぐいながら、ぽつりと語った。

 

 「私は“精製の呪い”にかかっている。
 本当に大切な人や、幸せな記憶を精製に込めると――
 カードが壊れてしまうの。私の心が近づくほど、精製が不安定になる。
 みんな“冷たい天才”と呼ぶけど、本当は“誰かの温もり”をずっと求めていた」

 

 リオは少しだけ悲しい顔になり、しかし強く言った。

 

 「レイナさん、呪いだって、心の力で乗り越えられる。俺たちも、ずっと“自分らしさ”に迷ってきた。
 でも、仲間がいたから乗り越えられたんだ」

 

 その時、ミナがそっと現れた。
 彼女は何も言わずにレイナの隣に座り、優しく手を握る。

 

 「ひとりで抱え込まないで。私たちと一緒なら、きっと新しい“光”を生み出せるよ。
 どんなに不器用でも、どんなに弱くてもいい。みんなで“想い”を重ねよう」

 

 レイナは初めて――本当に、心の底から涙を流した。

 

 「……ありがとう、リオ、ミナ。
 こんなふうに誰かに支えてもらったのは、初めてかもしれない」

 

 リオとミナは微笑み、レイナの両手をしっかり握る。

 

 「これからは三人で、一緒に“新しいカード”を作ろう。
 呪いも悲しみも、全部受け止めて――きっと“希望”に変えられる」

 

 その夜、アルカナシティの月明かりは、三人の肩をやさしく包んでいた。

 

 気付けば、遠くでグラン=ヴァルドの咆哮が優しく響いていた。
 レイナの心の氷が少しずつ溶け、三人の間に本当の“友情”が芽生え始めていた。
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