【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

70話「アルカナ族の予言」

　原初幻獣との死闘から数日が過ぎた。
　遺跡での激戦はアルカナシティに伝説のように語られ、リオたち「希望の旅団」は新世界の英雄として迎えられていた。

　

　だが、その平和の影に、不思議な緊張感が漂い始めていた。

　

　ある朝――
　リオとミナ、レイナは、精製連盟から「特別な使者が会いたい」と伝えられ、
　市街から少し離れた静かな森の奥地へと案内された。

　

　案内人が森の小道を抜けると、やがて巨石と苔むした精製紋章に囲まれた集落が現れる。
　そこは、アルカナシティの起源を知る者たち――「アルカナ族」の住まいだった。

　

　「ここが……“精製の起源”を守ってきた人々の村なんだね」

　

　リオが静かに呟くと、巫女衣装をまとった年老いた預言者が、杖を突きながらゆっくり近づいてきた。

　

　「――よくぞ参った、旅の者たちよ」

　

　預言者の名は「カグヤ」。白髪と深い碧の瞳、
　その視線はリオたちの内面をすべて見透かすかのような不思議な力強さに満ちていた。

　

　「我らアルカナ族は、時の始まりより“精製”と共に歩みし者。
　そなたらが原初幻獣を鎮めし今、世界は新たな“門”の開かれる時を迎えたのじゃ」

　

　リオが戸惑うと、ミナが吸い寄せられるように預言者の前に進み出た。

　

　カグヤはミナを見つめ、にこりと微笑む。

　

　「……お前は“精製の巫女”の血を引く娘。
　いずれ“精製の調律”を司る運命を背負い、世界に“光”と“希望”をもたらすであろう」

　

　ミナは一瞬、言葉を失った。
　だが、胸の奥で何かが確かに共鳴しているのを感じていた。

　

　「ミナ……？」
　リオが心配そうに声をかける。

　

　「……私、なんだか体がぽかぽかして……頭の中で声が響いてくるの」

　

　預言者カグヤは、手にした精製の水晶をミナの額にそっとかざした。

　

　「――いまはまだ“目覚め”の途上。だが、そなたの内なる力が覚醒する時、世界に訪れる闇すらも塗り替える“希望の精製”が生まれるじゃろう」

　

　レイナも息を呑んだ。「……ミナ、あなたが“精製の巫女”？」

　

　カグヤは全員に向き直り、厳かな口調で語る。

　

　「そなたら旅の仲間と“心の竜”が紡ぐ未来、
　それは古き時代に一度だけ予見された“希望の奇跡”の再来――
　だが同時に、古代より続く“精製の闇”が新たな形で世界を脅かすであろう。
　全てのカード精製師、その魂が試される時が来る」

　

　風が木々を揺らし、鳥たちが静かに鳴いた。

　

　「リオ＝バルド、ミナ＝リュミエール、レイナ・アルカナ――
　そなたらの出会いは偶然ではない。
　“巫女”の覚醒とともに、いま再び、精製世界の運命が動き始めるのじゃ」

　

　＊

　

　村の奥、祭壇の間でミナは祈りの儀式を受けた。

　

　預言者や巫女たちが詠唱を唱える中、ミナの体が淡く発光する。

　

　「ミナ、大丈夫？」
　リオがそばに寄り添い、レイナも手を握る。

　

　ミナは静かにうなずいた。

　

　「――私、怖くないよ。
　みんながいるから、どんな運命も受け止めてみせる」

　

　その時、ミナの中で何かが開かれる感覚がした。
　遠い記憶、祖母の優しい声、精製の歌、
　そして――世界を包み込むような“あたたかな光”。

　

　「……私は、私のカードを作る。みんなの希望になる、精製の巫女になる」

　

　カグヤは満足げに頷く。

　

　「世界の危機は近い。だが、お前たちの絆があれば、必ずや“闇”を超えて新たな夜明けを迎えようぞ」

　

　＊

　

　帰り道、ミナは少しだけ涙ぐみながら微笑んだ。

　

　「リオ、私、やっとわかったの。私にも“運命”があるって……でも、私は怖くない。
　だって、絶対に一人じゃないから」

　

　リオは力強く頷いた。

　

　「そうだよ。俺も、レイナも、グラン＝ヴァルドも、みんなで“希望”を作っていこう！」

　

　アルカナ族の森を背に、三人は新しい未来への決意を胸に歩き出した。

　

　だがその遥か彼方、
　精製世界の彼岸にて、静かに“新たな闇”が胎動しつつあった――。