【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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72話「ミナの力、覚醒」

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 祭りの余韻が夜明けとともに静まるころ、アルカナシティの町はしんとした平和に包まれていた。
 けれどその静けさの裏で、リオたち「希望の旅団」の心には、昨日の出来事が鮮烈に残っていた。

 

 異世界の精製師たちとの激突、リオとグラン=ヴァルドが勝ち取った“心の精製”の勝利――
 そして、預言者カグヤから託された「精製巫女」としてのミナの役目。

 

 ミナは昨夜からずっと、自分の胸の中で“何か”が目覚めかけているのを感じていた。
 それは不安でもあり、どこか心地よい温かさもあった。

 

 朝、ミナはふと、ひとりで町のはずれの小道を歩いていた。

 

 (私にできること――私の“使命”って、何だろう)

 

 ぼんやり空を見上げていると、突然、町の中央広場の方角から悲鳴が聞こえた。

 

 「た、助けて! 幻獣が……!」

 

 ミナが駆けつけると、広場ではいくつもの幻獣カードが暴走していた。
 子どもたちが作った未熟なカードが、不安定なまま実体化し、町の噴水やベンチをなぎ倒している。

 

 「どうしよう……このままじゃ、みんな危ない!」

 

 ミナの心臓が早鐘を打つ。
 けれど、町の人々や子どもたちの怯えた顔を見た瞬間、ミナの奥底で何かがはっきりと“覚醒”した。

 

 (私、逃げない。
 ――今度は、私が“誰か”を守る番だから!)

 

 ミナは両手を胸元で重ね、
 巫女としての祈りの言葉を口にした。

 

 「精製の光よ、私の中に宿れ――」

 

 次の瞬間、ミナの全身が柔らかな金色の光に包まれた。
 空気がふわりと震え、広場中にあたたかい風が流れる。

 

 暴走していた幻獣たちが、光の中で動きを止め、
 次第に落ち着いた表情でミナの周囲へと集まっていく。

 

 「すごい……ミナさんが、幻獣たちを癒してる……」

 

 いつの間にか駆けつけていたリオ、レイナ、ユリエルたちが息を呑んだ。

 

 ミナは静かに手を広げ、ひとりひとりの幻獣に語りかけるように微笑む。

 

 「大丈夫――もう、怖くないよ。
 みんなの想いがあれば、どんなカードも“優しさ”になれるから」

 

 光がしだいに強まり、町のあちこちから集まってきた幻獣たちが、次々と浄化されていった。
 やがて全ての幻獣が穏やかな姿に戻り、持ち主のもとへと帰っていった。

 

 広場に歓声が上がる。

 

 「ミナさん、ありがとう!」「すごい……本当に“巫女様”みたい!」

 

 町の子どもたちや住人たちがミナを囲み、目を輝かせている。

 

 リオがゆっくりとミナに近づいた。

 

 「……ミナ、今の、君の力なのか?」

 

 ミナは少しだけ戸惑いながらも、リオの目をしっかりと見つめる。

 

 「うん。
 私、自分にできることが何か、ずっと迷ってた。
 でも、こうして誰かを守れたことで、少しだけ自信が持てた気がする……」

 

 リオは、ふっと優しく微笑んだ。

 

 「俺、ずっとミナのそういうとこ、すごいと思ってた。
 昔から、誰よりも人の気持ちを大事にして、
 みんなのために動ける……。ミナが“巫女”だって、すごく納得だよ」

 

 ミナは思わず顔を赤くした。

 

 「……ありがと。リオがそばにいてくれるから、私、頑張れるんだと思う」

 

 リオも照れくさそうに頭を掻いた。

 

 「俺もさ、ミナがいなかったら、今の自分はいなかったかもしれない。
 これからも一緒に……」

 

 言いかけたとき、ふとふたりの距離が近づき、
 ミナの心臓がドクン、と大きく跳ねた。

 

 (私、リオのことが……)

 

 でも、使命と恋心が胸の中でせめぎ合う。
 “巫女”としての役割と、ひとりの女の子としての気持ち――
 ミナはまだ、その答えを出せずにいた。

 

 *

 

 日が暮れる頃、ミナはグラン=ヴァルドとふたりきりで話す時間を得た。

 

 『お前の“浄化の力”は、希望を繋ぐ光。だが、誰かのために自分を犠牲にする必要はない。
 リオもきっと、同じ想いだろう』

 

 ミナはそっと頷いた。

 

 「……私、もっと強くなる。巫女としても、ひとりのミナとしても――」

 

 グラン=ヴァルドは満足げにうなずいた。

 

 *

 

 その夜、星降る空の下でリオとミナはふたたび並んで座った。

 

 「今日のミナ、かっこよかったな」

 

 「ありがと。でも、私まだ全然迷ってる。
 リオと一緒にいると、自分がどこまででも強くなれる気がするんだ。
 でも、“巫女”としての役目も、ちゃんと果たしたい」

 

 リオはゆっくりとミナの手を握った。

 

 「大丈夫。どんな未来でも、俺はミナの味方だから」

 

 その言葉に、ミナの目からそっと涙がこぼれた。

 

 「ありがとう、リオ。……私、もう怖くないよ」

 

 こうしてふたりの心は、使命と恋心のはざまで揺れながらも、
 確かに一歩ずつ、進み始めていた。

 

 新たな希望の夜明けが、ふたりをやさしく包み込んでいた――。
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