【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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73話「黒き精製者の影」

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 アルカナシティの朝。
 柔らかな日差しと澄んだ空気が街を包み、祭りの余韻と新たな日常の気配が入り混じる。

 

 リオたち希望の旅団は、連日の慌ただしい出来事から一息つこうと、広場の噴水前に集まっていた。
 昨夜のミナの“浄化”は町中で語り草となり、巫女の噂を聞きつけて人々が次々とミナに挨拶に来る。

 

 「これが人気者の気分か……」
 ミナは苦笑いしつつ、子どもたちの頭をなでていた。

 

 「いいことだよ。みんなが安心して暮らせるのも、ミナの力のおかげだ」
 リオがそう声をかけると、ミナの顔がほんのり赤くなる。

 

 だが、そんな平和なひとときに、水面下で異変は確実に広がっていた。

 

 *

 

 アールが端末をいじりながら、険しい顔でみんなの元へ戻ってくる。

 

 「みんな、ちょっと大変だ。精製ネットワークの異常検出がまた増えた。
 昨日の幻獣暴走事件だけじゃなく、カードの“データ改ざん”が世界中で起こってる……」

 

 「誰かが意図的に?」
 ユリエルが眉をひそめる。

 

 アールは静かにうなずいた。

 

 「しかも、調査ログの中に、今まで見たことのない“黒い精製コード”が残ってる」

 

 シュトラが即座に反応する。

 

 「それって……“黒き精製者”の仕業じゃないのか?」

 

 この名は、数日前から都市の一部で囁かれ始めていた。
 バグ事件の背後に、謎めいた黒衣の人物が目撃されている――
 “黒き精製者”、またの名を“シャドウメーカー”。

 

 リオが強く拳を握った。

 

 「このままじゃ、また町や幻獣が危険な目に遭う。
 必ず正体を突き止めて、止めなきゃいけない」

 

 *

 

 その晩、アールが再び端末を覗き込んでいた。

 

 「妙だな……精製ネットワーク上で、誰かが僕のコードに直接干渉してる」

 

 画面に現れる、黒く滲むようなコマンド。
 その瞬間、アールの端末が突然ショートし、彼自身が意識を失いかける。

 

 「アール!?」

 

 ティアナが駆け寄り、ユリエルが即座に治癒カードを使う。

 

 「間違いない、“黒き精製者”がアールを狙ってきたんだ!」

 

 アールは目を覚ますが、端末への侵食は止まらず、ネットワークとの接続も途絶えてしまう。

 

 「僕……しばらくデジタル精製ができそうにない。
 ネットワークから遮断されたら、精製技術の半分以上が使えなくなる……」

 

 仲間たちの顔が曇る。

 

 「ごめん、みんな。僕、ここで一度……旅団から離れて、自分のデータを完全に初期化しなきゃいけない」

 

 「アール……」
 ミナがそっと手を握る。

 

 「必ず帰ってきて。私たち、またみんなで一緒に冒険したいから」

 

 アールは寂しげに微笑んだ。

 

 「うん、絶対に戻る。
 “黒き精製者”の正体も、きっと突き止めてみせるよ」

 

 リオも、仲間も、しっかりとアールの背を押す。

 

 「大丈夫。お前のいない間も、俺たちが絶対に“光”を絶やさない」

 

 *

 

 その夜――
 リオはベッドの上で眠れずにいた。

 

 (仲間の誰かが傷つくのは、もう嫌だ……)

 

 するとグラン=ヴァルドが静かに語りかけてきた。

 

 『リオ、お前の仲間を信じろ。アールは必ず戻る。そして、闇と向き合う覚悟も――お前自身の中に芽生えている』

 

 リオはゆっくりと拳を握る。

 

 「“黒き精製者”、必ず正体を暴いて、みんなを守る。
 ……もう誰も、一人ぼっちにはさせない」

 

 アルカナシティの空に、今夜も月が静かに輝いていた。

 

 その影で、黒いコートを纏った一人の人影が、町の塔の上からじっとリオたちを見下ろしていた――。
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